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41 飴

 ◯ 41 飴


 とうとう、妹の高校受験日が来た。家族で玄関で励まして見送った。


「大丈夫かしら、かなり緊張してたけど……」


 母さんが心配そうで、朝からそわそわしていた。見送った今もだけど。


 [うん、顔色が悪かったね……]


「大丈夫だ、本番になったら強いさ」


「そうね、あなたのいう通りね、いざとなったら強いわ」


 [そこは母さんと似てるよね]


「確かにそうだな」


 僕と父さんは同じ意見のようだ。両親はそのまま仕事に向かったけれど、今日は落ち着かないと思う。僕はそのまま、近所の散策をした。見回りというか、僕と目が合う人を捜している。視線を感じて振り返れば猫だったり、玄関先の犬にじっと見つめられてたりと、人間以外によく見られている。

 董佳様には、夢縁の制服を着ておきなさい、とこの前言われたのでこっちでの外出は着ることになった。間違ってこっちの死神に連れて行かれない為の対策みたいだ。たまに、死神のマントを発現させてしまう者がいるので、死んでしまっている者は外出の時は夢縁の生徒だと分かるように着る事が決まっている、と説明された。扱いが出来るまで夢縁か、冥界の訓練施設に通うのが普通みたいだ。

 どうやら夢縁の制服の襟に黒刺繍された人は冥界……死神の枠の印だったみたいだ。僕は枠がアストリューからの留学生枠なので、どうするか最初は決まってなかった。結局は黒枠と同じように制服を着る事に決まった。一番確実だからだ。

 僕が日本の冥界に関わるかどうかは、死神の組合と異世界間管理組合と日本の神界と死神の話とが合わないといけないのでまだ先送りだ。まあ、日本の冥界は人手不足ではないので、きっとこのままだと思う。

 こっちの死神は黒スーツを着ていて、神界警察ともよく見たらデザインが微妙に違っている。一香が吸い込まれて行ったあの黒い穴の先がこっちでの冥界で、そこを管理しているのがこっちでの死神達だ。日本の冥界は神界と一緒に監理していると聞いた。


 不意に、違和感を感じて後ろを振り返ったら、拳大くらいの瘴気の固まりが目の前にあった。ビックリして避けようとしたが、避けきれずに顔をかばった右手と髪に当たってしまった。

 スフォラの防護を通り越して来たからかなりの威力だ。周りを見回しても誰もいない……取り敢えず伊東さんに被害を伝えてから、影に入り闇のベールを被って警察を待った。

 加藤さんが来てくれたので出て行くと、早速捜索が始まった。瘴気の映像から飛んで来た方向を調べて、足跡やらを調べていた。犯人は分からなかったけど、危険なので僕はこのまま帰る事にした。



「光のベールで応急処置をしたのですね」


 と、メレディーナさんは、僕の手に巻かれた包帯状のベールを見ながら微笑んでいた。


「え、と、はい。変ですか?」


「いいえ、良い判断でしたわ。おかげでこちらも楽です。瘴気による火傷をした時は、このように直ぐに対処して頂いた方が良いのです。火傷だけでなく、ものによっては触れたところから侵蝕してくるものもありますから、すぐの対応が必要なのです」


「刻印みたいに?」


「ええ、あの邪気による刻印のように……向こうの神界に運ばれたときには手の施しようが無い程に体は侵蝕されてましたから、邪神の卵を捉えて引きはがすしか方法が残されていませんでした。必死の捜索にやっと追い詰めた時に、アキさんを道連れに地獄へと引き込む為に体を全て瘴気で焼き尽くされてしまい……ですがその前に、アキさんが力に目覚めたのは良かったですわ」


「そうですね、あれが無かったら僕はかなり苦しかったんですよね?」


「ええ、瘴気で焼かれる苦しみを感じていたかもしれません……回避出来て良かったですわ」


 そっか、ギリギリだったんだ。メレディーナさんに髪に何か塗られながら、光のベールで包帯を出すように言われた。お付きの人が包帯を巻いてるみたいだ……。鏡を見せて貰ったら、包帯を編み込まれて髪飾りのようになっていた。手にも包帯が巻かれたがこっちも何故かいつもと違って、最後の処理がリボン結びだ。


「……メ、メレディーナさん?」


 周りのお付きの人達も含めてニッコリ微笑んでいる。


「髪が綺麗になるまで外してはいけませんよ? 治療ですから。アキさんの力も分かりますし、良いですね?」


「は、はい」


 なんだか遊ばれてる気が……。明日も治療に通う事になった。

 その夜、マリーさんが吠えた。


「きゃあぁ〜! メレディーナっ良い仕事してるわ〜! ああ〜っ、一杯デザインが降って来たわ〜っ!! こうしてはいられないわ、早速、創作よっ! アキちゃん、そのままでいるのよ〜、布よ〜、レースは何処〜?!」


 肩に誰かが手を置いたので、振り返ったらマシュさんがいた。


「……あの様子じゃ試着は逃げられないぞ、覚悟しておけよ?」


「分かったよ」


 マシュさんがマリーさんの様子に呆れつつ、自室に逃げるように行ってしまった。僕もマリーさんのスランプ脱出の為に黙る事にした。治療の間の二日間に白いワンピースが出来上がった。デザインは沢山あって、その中の一つを玖美に受験お疲れさま用の服として注文した。


「良いお兄ちゃんねぇ、任せて〜。彼女は白というよりは別の色の方が合いそうよね……」


「ピンクが好きだよ」


「そうだったわね〜。でも、前もピンクだったから少し変えましょう〜。シャンパンゴールドとかかしらね。ああ、でも光沢を抑えた方が良いかしら……」


 そう言いながら、マリーさんが最初に持ってきた布はちょっと派手だった。次々と持ってくる中から選んだ。


「うん、そっちの薄い色が良いよ」


「そうね〜、このクリーム色にしましょう。春らしいわ〜、前のベージュの糸で編んだボレロとも合うし。女の子よね。小物をピンクにすればきっと気に入るわ〜」


 と、やってる間に地球では玖美が受験から帰ってきたみたいだった。手応えはあったみたいで、合格発表を待つばかりだ。玖美の選んだ高校は制服が可愛いらしかった。映像を見せて貰ったら、チェックのスカートが可愛い制服だった。襟のところのリボンも可愛い。


「それで、お兄ちゃん。何で髪飾りを付けてるの?」


 [み、見えるの?]


 まだ髪には包帯……というかリボンが付いている。手にも包帯は巻かれてて、そっちは突っ込まれなかったけど見えてそうだ。


「そこだけぼんやり見えるよ? 光が当たってるところは何となく……顔まで見えないけど髪だよね? そのまま外は出たらダメだよ?」


 [そうなんだ、見えるんだ?]


「うん、外に出たら変だよ? で、何でそんな可愛い髪型してるの〜?」


 唇を尖らして疑いの目でこっちを睨んでいる。それは確かに変だよな……光のベールは見えるみたいだから気をつけよう。


 [……えーと、何かマリーさんがその、また服を作ってるからそれの手伝いだよ]


「本当〜? 何か疑わしいなー?」


 疑いは晴れなかった。


 [本当だよ。合格発表に渡すからね?]


「私のなの?」


 パッっと目が嬉しそうに見開かれ、笑顔になった。


 [う、うん。楽しみにしててよ]


「……ありがとう。次の休みは貰った服を来て出かけるね?」


 [うん、マリーさんも喜ぶよ。映像送ってよ、見せるから]


「分かった。そのくらいするね」


 そのまま試しに光のベールを出して、玖美に見て貰った。光のベール越しに、ぼんやり僕の輪郭が見えたらしい。次に闇のベールを出して被ったら、髪飾りも消えて見えなくなったみたいだった。


「今の何?」


 [修行中のものだよ。頑張って扱えるようになったら、見えるようになるみたいなんだ]


「へえ〜、すごいねお兄ちゃん。ちゃんと修行してるんだ」


 何か初めて褒められた気がする……うう、なんか視界が歪んで来た? 髪飾りだけ浮いてるのはおかしいので頭にだけ闇のベールを被って夕飯の支度を始めた。今日は温かクリームシチューだ。天気予報では明日は雪マークが付いている。


 そこに慌ただしく玄関を叩く音がしたのでキッチンから出たら、直ぐにリビングにある庭に出る為の窓が叩かれた。池田先輩が割ったガラス窓だ。


 [加藤さん?]


 誰かを抱えている。どうやら怪我をしているみたいだ。慌てて窓を開けて中にいれた。


「鮎川? 顔はどうした」


 [あ、そっか]


 僕は慌てて闇のベールを取った。


「驚いたぞ。それよりこいつを頼む。俺は応援に戻る」


 [え、あ……]


 返事を待たずに行ってしまった。誰か知らないけれど、瘴気の火傷がかなり酷そうだ。直ぐに光のベールで包んであげて神界警察に問い合わせた。伊東さんに、応急処置が出来るならそのまま待機して欲しい、と言われたのでそのまま待つ事にした。

 どうやらこの前の瘴気を飛ばして来た人物との交戦みたいだ。怪我をした人は新人で、後ろから不意打ちで肩の当たりに一撃貰ってしまったみたいだった。

 20分後には後始末までしてきたみたいで、加藤さんは戻って来た。


「治療が出来るんだな、助かった。岸田、歩けるか?」


「あ、はい。加藤さん」


 加藤さんに声を掛けられて、新人の岸田さんはベールごと立ち上がった。顔をしかめているので、まだかなり痛そうだ。加藤さんが肩を貸して窓から出て行った。なんだか足もくじいてたみたいだ。


 [付いて行った方が良いですか?]


「大丈夫だ、病院に直で飛ばすから。ほらしっかりしろ、行くぞ」


 そう言って加藤さん達はどこかへと行ってしまった。後から、迷惑をかけたわ、と董佳様から連絡が入った。中学生の犯行だったみたいで、神社の神使を襲ったのも、彼の仕業だったと判明したみたいだ。誰かに力を貰ったとか言っているので、詳しく取調中だと言う。まだ数人、同じ様な仲間がいるのが分かっているので、捜索は続行だった。

 終ったら記憶を消して元に戻すが、力を与えたという人も接触してくる可能性があるので、見張りを付けるとの事だ。

 そして今回の事もあって、期間限定で協力を頼まれた。ここのセキュリティーが高いので、怪我人を一時預かったりするのに良いみたいだった。ついでに応急処置も頼まれた。まあ、近所でそう度々無いと思うけど……。レイから、正式に組合の方にも依頼があったので、今は半日はこっちで暮らしている。


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