40 事故
◯ 40 事故
「ギダ達の活躍が見直されて、下方修正された見たいね〜」
「う……」
マリーさんの台詞に言葉が詰まる。ギダ隊長達の活躍は、悪神の体調不良での戦闘能力低下の分が下方修正されたらしかった。そんなに酷くは落ちなかったけれど、隊長達も納得したらしい。
ずっと捕まらずにこの百年間、悪事を重ねていたのに少しおかしいとは感じていたらしい。デザージの能力が聞いていたより低かったのもあって、なにか気持ち悪いとは思っていたのだそうだ。
「まあ、ギダ達もモチベーションが逆に上がったみたいだし、大丈夫よ〜、気にしなくて。それよりもポカレスの話は大げさ過ぎよね〜、実際は町が一つ消えたぐらいの事を世界が消えたとか言ってるのよ〜」
洗い物をしながらマリーさんは話し続けた。
「そうなんだ、それは盛り過ぎだね」
洗い上がった食器を僕は拭いていった。
「そうよ〜、虚言癖もここまで来ると違う物語になっちゃう。史実と合わなさすぎて一々確認しないとダメだし、自伝と言っても余り違いすぎると信憑性が無くなるもの〜、筆者が嫌がるのが分かるわ〜。でも、何人もの闇落ち神や、邪神、破壊神、悪神に渡って悪事の手伝いをしていた割には人情に厚いわね、そこは好感持てるのにねぇ」
「うん。ポースはそんなに沢山あちこち渡ってたの?」
「そうみたいね〜、力のある魔導書だから悪神、邪神の仲間内でも奪い合いが在ったみたいね。今の状態だと何の役にも立たないおしゃべりな本だけど、ちゃんとした体になったら、かなりの物なのよ〜。闇の生物を呼び出し、何でも命令させれるんだもの〜。アキちゃんにはかなり扱いは難しいわよ?」
「そうだね、でも約束だし頑張るよ」
「分かったわ〜。闇の生物にはポカレスに聞いて勉強ね。それから出来れば闇の魔法も覚えた方が良いわね。ポカレスには闇の適性しか殆どないから、体もそれになじむ物を揃えないとダメね〜」
「そうだったんだ。それってどんなの?」
「そうね……アキちゃんの闇のベールを出す力とか、そういったものが籠ってることが条件ね〜」
そっか、そういうのを探すか作れば良いんだ。どんな物があるのか知らないけど。拭き終わった食器を片付けた。
その日、妙な事故が起きた。昔の神殿の施設後での訓練のとき、マリーさんの放った水の魔法がスフォラの持っていた魔結晶に触れた途端、割れて水が大量に噴き出して飛び散ったのだ。直ぐに止まったけれど、その場にいた全員が水の被害にあった。
二人は滝修行の後みたいなずぶ濡れのまま、呆然と割れた魔結晶を見て固まっていた。僕は小人状態で離れてたからバケツで水を掛けられたぐらいの被害だったけど、近くに居た二人はかなりの衝撃を受けたみたいだった。スフォラは尻餅をついていた。
マリーさんがいち早く復活してマシュさんに抗議に向かった。
「マシュ〜! 危ないじゃないの、心臓が止まりそうだったわよ〜?!」
「何でも私のせいにするな」
「だって〜、あんなに水が溢れるなんておかしいじゃない、何かしないと出来ないんだから〜っ!」
どうやら、マリーさんは訓練の様子を撮ってあったみたいで、見せていた。
「これだけ派手なら、魔力パターンもここから取れるな、一応現場にも行くか」
マシュさんが調べた結果、犯人は僕だった。
「え? 本当に? 間違いじゃ……」
「間違ってないな、ちゃんと証拠がある。何をしたか思い出せっ! 犯人はお前だ、白状しろ!」
指をさされて説明を求められた。
「ええっ? え、えー、えーと……えーと」
「アキちゃん、落ち着いてゆっくり考えて〜? 魔結晶に魔力を込めるのはアキちゃんでしょ? 何かした〜?」
マリーさんに言われてここ最近の事を思い出していたが、別に変な事はしてないはずだった。マリーさんが暖かいお茶を用意してくれてる間に考えた。何か魔結晶がらみでと言ったら、自分の魔結晶を作って……あ、思い出した。
「あー、魔結晶の中に僕の魔結晶を入れたよ。水みたいに染み込んだら良いと思って……」
最後は皆の視線に声が小さくなっていってしまったが、ごめんなさい反省します。
「……それだな、やっぱりアキだったろう、マリー」
「そうみたいね〜、でも水の魔法が出来てるってことね?」
「どうだか怪しそうだ」
マシュさんの冷たい視線を浴びて目線を逸らしながら、マリーさんのお茶を飲んで暖まった。取り敢えず、紫月のおやつに作っていた僕の魔結晶を使って検証になった。折角予備を作っておこうと思っていたのに……。
前回と同じようにして、魔結晶の中に入れていく。二重魔結晶だ。魔法の世界ならではって感じがする。魔法陣も危険がないように反発部分は取り除いている。
実験は危ないので訓練場の真ん中に穴を開けて固定して置き、スフォラが穴の外周を外れた空からカーブする電撃を飛ばした。穴の中で光の筋が走ってバリバリという音がした。一瞬で終った。
「いや〜ん、あたしが持ってなくて良かった〜。お洋服が黒こげになっちゃう〜」
頬を握りこぶしで覆ってマリーさんは体をくねらせている。
「本当だね。あんなの死んじゃうよ。迷惑かけてごめん……」
危なかった……。
「普通の人間はショックで死ぬな。6日分の魔力だしな。何で入るのか分かったし、まあ良いだろう」
「もうしないよ、危な過ぎるし」
「そうね〜、これはちょっとダメね。使い方が難しいし……魔結晶が一回であんなにもろく壊れてしまうぐらいの威力なんて、アキちゃんにはとんでもないわ〜」
事前に調べた結果では、僕の魔結晶は魔結晶と魔力状態との間の中途半端な状態で入っていた。僕の魔結晶はマシュさんもマリーさんも使えた。紫月にも使えるみたいだ。律儀にも食べるのに許可を求めて来ていたのは教育のおかげかな? 可愛く育ってるみたいだ。顔がにやける……。
人間には余りいないけど、妖精の中には同じ様な性質の魔結晶を作るものがいるので、カシガナの影響を直に受けてる僕にはあり得る話だと説明された。もっと妖精ぐらい魔力を扱えるようになれれば、紫月くらい器用に魔法を使えるはずだと言われ、責められた。すいません。
「魔力自体は普通なの〜?」
「ちょっと柔くてきめ細やかだから、それを意識すれば大丈夫だろ」
「それってどんなの〜?」
「魔結晶にギュウ詰めに入れても良いくらいだし、動きが小さいが、それだけ細かい事には向いてるはずだ。後は本人に考えさせろ」
「だって〜、アキちゃん分かった〜?」
「何となく……柔かくて、細かい事だね?」
水で言ったら霧とか雲とか水蒸気みたいな感じじゃないかな? 水魔法はあれからさっぱり進化していないからここは一つ頑張らないと!
マリーさんに相談して取り敢えず、訓練内容をそっちに変えた。結果はやっぱりマシュさんにいわれた通りにやり易かった。
霧と微風と組み合わせてスモーク演出したら、小人紫月と小人スフォラが喜んでいた。ライトを軽く当てて、ちょっぴり幻想的な感じに仕上げた。
庭の妖精達が歌を覚えたら、発表会をしようと心の中で計画を立てた。かなり慌ただしい舞台演出だ……どれかは自分の魔結晶に頼ろう。
「あら〜、霧の演出ならあの二重魔結晶も良いんじゃない〜?」
マリーさんがお風呂上がりに声をかけて来た。
「その手があった。それだと庭が舞台でも大丈夫そうだ」
それなら危なくないし、広範囲に演出が可能だ。
「何の舞台〜?」
「妖精達が合唱を覚えたら発表会をしないと」
僕がマリーさんに言ったら、
「いいわね〜、春には生まれるし来年には間に合いそうね」
と、言いながら何やら微笑んで頷いている。
「なんですか?」
「アストリュー世界の生まれた日を祝うのよ、正確には十日間あるからその間はみんなお祭りよ〜」
「お祭りがあるんだ。どんな感じなんですか?」
「そうね〜、地域によって色々だって聞いてるから分からないけど、神殿では連日、アストリューから旅立った神官や巫女達が殆ど集まってきて、こっちの人達と一緒にパーティーよぉ。確か催し物も開かれてるわね、アキちゃん来年はそれに参加よ、早速衣装を考えなくっちゃ〜」
マリーさんはもう既に衣装の心配をしていた。
「楽しそうですね……。今年はそこに行ってどんな感じか偵察ですね?」
「そうね〜、これは二人で内緒よ〜」
「うん、サプライズだね?」
マリーさんと僕は一緒に計画を立てた。どうやらその期間は、親しい人にはプレゼントを感謝を込めて渡すみたいだ。忙しくなって来た。




