38 贅沢
◯ 38 贅沢
ポースを迎えに行ったら、意外と元気だった。どうやら悪神達の事はさっぱり分かってなかったが、自分史はばっちりで、ずっとそれを語っていたみたいだった。
自分が作られた経緯は覚えてないが、魔導書として意識を持ち始めた頃からの話だったみたいで、何世紀と渡り歩いた話はかなり盛られていて、史実と照らし合わせて調査員達が突っ込むとそうだったかな〜、と誤摩化しまくっていたみたいだ。かなりのお調子者だ。
調査員達の疲れた顔からして、ストレスを受けているのはポースではなくて調査員達だなと認識を変えた。失礼しました、誤解してました。
「一旦切り上げて家に来る? それとももうちょっと演説する?」
と、僕が聞いたら、
「勿論、ここで引き返すなんて出来やしないってもんだ、聴衆がいるんだ! 俺様の偉大さをもっと広めるためにもここはアッキ、寂しいのは我慢してくれ」
と、言われてしまった。横で調査員達が何かこっちに期待の目を向けていたが、なんだろう?
「分かったよ、大事なんだね。応援するよ」
溜息が周りから聞こえて来た。何かおかしかっただろうか?
「分かってくれるか、終ったら更なる歴史を刻もうぜ!」
「うん。自伝でも出す勢いだね」
「……アッキ、ナイスなアイデアだ。ここから先は俺様の偉大なる歴史を刻む為に、一肌脱いでくれないと話せないぜ?」
あれ、何かものすごく睨まれてる……いや、なんかダメだったかな?
マシュさんの作った魔力の魔結晶化アイテムは、自動で僕の魔力を少しずつ負担の無い程度に引き出し貯めていく物だったので、寝てる間に身につけているだけで良かった。この方法だとスフォラと一緒の体な為、純粋に僕の魔力が取れないので、幽体で寝ている。
困った事に朝、ぼんやりして起きにくい。訴えたら、自分のベールでも被って寝れば良いと言われてしまった。なるほど、自分で回復機能を実感せよとのお達しですか。
おかげで問題は無くなったので良かった。どうせなので光のベールと闇のベールを交互に出して、どっちが効果が高いか試しているが違いが分からなかった。
「紫月、そのおやつ美味しい?」
「うん、甘い」
どうやら紫月には甘く感じるみたいだった。日本の神界では妖精はクッキーを食べると言ってたけど、紫月は僕の魔力と何かを吸収して、カシガナの木や、他の植物達からも何か吸収しているみたいだった。
「そっか、直接食べるときは僕の何を食べてるの?」
「うーん? 分かんない」
首を傾ける仕草が可愛い……僕が動物の姿の時の方が構うので、最近はずっと動物の姿が多い。マリーさんは折角作った服を着てくれなくて、ちょっぴり寂しそうだ。時々はあれを着せて上げよう……。
「そっか、ごめんね、難しい質問して。いつか分かったら教えてね?」
「うん。アキ、また後で食べる」
紫月に魔結晶キャンディーを返された。溶けるのを止めて、綺麗にしてから大事に仕舞っておく。米粒ぐらいの大きさはちょっと小さいけれど、紫月のおやつには間違って飲み込んでも喉に詰まらない大きさで調度良い。小さいから無くさないように瓶に入れてある。
マリーさんも今、楽しそうに自分の魔結晶を作っている。マリーさんならマシュさんの大きめの魔結晶を作る装置でも十日程で出来ると言っていた。
レイとメレディーナさんは自分で作れるみたいだった……。それどころか、神力でお守りを作ったりするのも似た様なもんだよ、と言っていた。力を込めすぎて逆に害を及ぼさない程度に調節するのが難しいとか訳が分からなかった。
僕に掛けた守りも、すごく気を使ったと言っていた。力で吹き飛ばないように慎重に作ったからね、と自慢げに言っていた。うん、何となく分かったよ、ありがとう。付ける人に合わせてちゃんとオーダーメイド仕様ってことだよね? 贅沢だ。




