35 半端
◯ 35 半端
そんな感じで魔結晶を作っている間にも色々とあった。マリーさんに誘われてスキーを初体験したり、神殿での祈りに参加したりだ。皆で癒しの力を水に込めるの為の儀式は、祈りを捧げてるとき以外は和気あいあいとした感じで緊張も無く出来た。
水の精霊や光の精霊が現れたり、レイや、メレディーナさんの大きな力に驚いたりした。祈りの場は神域で、立ち入りは巫女や神官のみだった。慣れない新人の神官達の力は精霊達がサポートをしてくれたので安心だった。
ヴァリーとホングは復興の手伝いで、かなり良い報酬が貰えたみたいだった。ネメル神官長の不正の追求も認められて、待遇が少しだけ上がったと喜んでいた。僕の仕事のことは追求はされ無かった。多分、あの時の隊長が上手く言ってくれてんだと思う。
夢縁では色々な噂が出始めていた。金枠の人達のクラブやサークルが学園の施設を占領しているとか、銀枠の人が普通枠の人達を食い物にしているとか色々だ。どれも根拠が余り無かった。
意外にも健全にテニスサークルとかスポーツ系の集まりもあると知ったのは、沖野さん達からの情報だった。勉強会だけじゃなかったんだ。
どうやら夢縁食べ歩きの会まであるそうで、沖野さん達も基礎クラスの時はスイーツ巡りの会に入って色々と食べ歩いたらしい。学食の建物の一角に会員募集の張り紙があった。気が付いてなかったよ。
「今は夢縁のアルバイトを真剣にやってるよ」
沖野さんとクレープ屋の屋台の近くのベンチで、クレープを頬張りながら話をした。クリームが滑らかで程よく口の中で溶け、しっかりと甘さを味わえてから消えるのでかなり満足出来る一品だ。
お勧めなだけある。
「へえ、基礎クラスが終ったら出来るあれだよね?」
「そう、それ〜。クラスアップの試験に受かったから、一ランク上の仕事が出来るの」
「そんな仕組みなんだ」
「もう千皓君、ちゃんと聞いてなかったんだ〜、大事だよ? これは就職にも響くんだから」
頬にクリームをつけた沖野さんが注意してくれる。
「そっか、それは大事だね。やっぱり白のブレザーを目指してるんだ」
「もっちろん。あのブレザーは憧れだもん。優基も頑張ってるし、あと三回もクラスアップしないとダメなんだけどね」
「頑張ってるんだね」
「そうだよ。千皓君も頑張ってね」
「ありがとう」
うん、僕も頑張ろう。何か一つでもちゃんと形になれば良いけど、今はどれも中途半端な気がする。
「さて、この前はぶっつけ本番で、その上自己紹介もまだだったな」
と、マリーさんの元部下のギダ隊長は名前を教えてくれ、部下達も自己紹介をしてくれた。今は死神の組合が探してきたマントを分離出来る人達とも連携の訓練をしていて、僕の所でも訓練をするみたいだった。その内、部隊同士でも実戦に近い感じでやってみると言っていた。
どうやら、持ち主が変わるとベールやマントの特徴も変わるので、慣れる為に色々あたっているみたいだ。外の音が聞こえなくなる物まであるみたいだった。それは不便だね。
「元々は癒し、守りの性質が高いのが月の衣の特徴だと聞いてきた。戦闘向きとは違うが、疲労の回復が多少あるので中々捨てがたい」
「そうね〜、アキちゃんのベールは確かにそうよね。でも、話からすると音に寄る攻撃には弱いってことかしら?」
「それも確かめに来た」
と、言って色々と実験を繰り返していた。その様子をぼんやりと眺めていたが、どうやら、結果が出たみたいだった。
「内側の気配、音の隠蔽は完璧なので諜報活動にはぴったりだが、物理的な攻撃には弱いな。他のマントは衝撃吸収も付いてたし、丈夫だったが……」
「アキちゃんの特徴が出てるわねぇ、繊細なのよ〜。こんなにぼろぼろにして……」
「じ、実験だから、睨まないで下さいっ」
マリーさんが隊長に威圧の視線を送っていた。何となく、布を粗末に扱ったせいだと思う。
「でも、音には弱い訳じゃなかったから良いわ〜。むしろ、ちゃんと守ってるし」
「そうですね、意外にそっちは大丈夫でした。精神攻撃的な物も中和してから聞こえるみたいで、むしろそっちに特化しているぐらいですね、音波による物理攻撃も中レベルまではちゃんと防護してます。魔法等の攻撃は他の物と比べても平均ですね。呪術の類いは平均以下ですが、問題ないレベルです。見晴らしが良いですし、光の攻撃は相性が良いせいでこれも中和されてます」
どうやら、音に関してはジェッダルのあの歌の呪いのせいで付いた特徴だろう、と後からその話を聞いたマシュさんとレイが笑っていた。
少しでも丈夫な物をイメージしてベールをもう一度出してみたが、結果は同じだった。ただ、破れたベールを僕が修復するのはすぐに出来た。離れていても出来たので、破れたら申告する事にした。
そんな事をやっていたらナッツさんが無茶な提案をした。武器を中から使ってわざと穴を空けるというのだ。武器を出した時点でバレるから、いっそ、ベールごと切り裂いてしまおうという荒技だ。
確かに出来たけど、銃を乱射して次々穴を空けられたら修復が間に合わないよ。それに全員でそんなのされたらスフォラにフォローして貰っても1分と保たなかったし、ヘトヘトだ。
「無理をさせて悪かったな、だが良い収穫だった」
「まあ、切り札的な物ね〜、実際は無理よ?」
「他の死神連中にもやらせてみるから問題ない」
ギダ隊長は苦笑いして答えた。それは良かった。もう懲り懲りだ。




