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32 奪還

 ◯ 32 奪還


 ここに着いたときの場所だった大都市は光を失い、どす黒い影に覆われた戦闘地域になっていた。都市の外れの教会の一角に僕達は現れた。ヴァリーとホングはあの場所の警備を、この部隊の隊長から仰せつかっている。

 こっちも同じ様な人達と死神達が集まっていた。隊長が作戦を開始し、全員がそれに合わせて各目標を狙って進み出した。都中にスケルトンや、気持ち悪そうな魚っぽいものが宙を泳いで、どす黒い影を吐き出していた。それを回避しながら、進んで行った。なんだか町中に何か気持ち悪い匂いが濃く、漂っているみたいだ。

 どうやら、ポースの持ち主は、都市のど真ん中にある一番大きい教会に立て籠っているみたいで、異界との境目に無理矢理穴を開けて逃げようとしているみたいだ。

 神界は取り戻せたが、悪神に厄介なものを持ち出されているのでこのまま取り逃がすと、かなり不味いらしい。持ち出されたものの奪還が最優先だった。


 スフォラが体の主導を持ったままの僕とマリーさんは、部隊の後ろに付いて行っている。この世界ではベールが何処まで保つかは分かってなかったけど、ぶっつけ本番でとにかくやるしか無かった。

 まずはベールを人数分出して、渡した。一人が200メートル程離れて確かめる。オーケーの指令が飛んで中に侵入を開始した。ハンドサインじゃないのが慣れないと誰かが漏らしつつ進んだ。

 教会の敷地内部を探し、20分程進んでターゲットを捉えた。マリーさんに手を引かれながら進んで神の一人が彫刻された柱の影に陣取った。

 ここまで近づくと闇の生物をさける事は出来ず、同じ闇同士だからか気配を察知した闇の生物達が反応を示して、部隊の存在がバレたみたいだった。悪神とその手下との戦闘が始まった。

 ドガッという音が連続で聞こえたり、バリバリッという音や、キシャーとかいう変な甲高い声が聞こえたりと、ものすごい怒声と部隊を動かす指示の声がひっきりなしに聞こえて来た。

 戦いの余波を受けないようにマリーさんに連れられて場所を移しながらも、なんとか通信の内容を聞いていた。部隊は悪神を追いつめる事に成功しているみたいだ。僕には皆の動きが速すぎて目で追えないのだ。

 10分後、界を壊して逃げる為の装置を壊され、どこかに逃げ込んだ悪神を探す事になった。まだ、目的のものは奪還出来てはいなかった。折れた柱の影から出て行くと、闇の生物達が黒い影になりながら消えて行く所だった。10メートル以上はありそうな蛇の様な生物が所狭しと三体もいる。

 背の高い尖塔のある教会の壁は穴が空いて外が見えた。死神達が蠢いているのが何となく分かる。外に逃げ出さないように見張っているみたいだ。怪我人が多いみたいで動きがぎこちない。僕達はゆっくりと移動しながら、悪神を探した。

 10分後、悪神が外に逃げ出したのを死神達が追いかけ始めた。それを追って僕達も移動を始めた。スフォラのスピードでも追いつけずにマリーさんは僕を抱えて走り出した。


「しっかり捕まってアキちゃん」


「うん」


「追いつきます」


「了解」


「死神達が闇生物に押されてます」


「デリ、ナッツはそっちに応援に」


 隊長の声がした。見上げると、さっきの蛇並みの大きさの怪物が何匹もくっ付いた様な生物がいた。ヒュドラとか何処からか聞こえる。ビルのように細長い建物が建ち並ぶ場所を、音も無く飛び移りながら進んで行く。


「了解」


「ターゲット捉えました。捕獲に行きます」


 その後は声が交錯して、何がなんだかさっぱりだった。時間が後一分を切る頃、ようやく目的の物を取り返した。空を見ると逃げている悪神の手が片方無かった。もう片方の手にポースがいた。ポースの表紙を口で破って部隊の人達に投げつけた。すると、大きな黒い龍が現れた。


「ポースが……ああっ!!」


 どうやら、最後の悪あがきにポースを破って生け贄にしたみたいだった。


「アキちゃんしっかりして、大丈夫よ」


 マリーさんがしっかりと抱きしめてくれる。そこに隊長が背後から迫って悪神の首を刎ねた。首から漆黒の影を噴き出しつつ、体は地上に向けて落ちて行った。頭はそんな状態でも何かを叫んでいた。そのまま死神達がマントを掛けて悪神を回収し始めた。

 僕のベールはゆっくりと消え始め、一時間が過ぎた事を教えた。正確には一時間と三分だった。僕はマリーさんとポースの所に行った。黒い龍は持ち主がマントに捉えられた途端に消えていた。多分繋がりが断たれたんだと思う。ゆっくりと闇が晴れて光が差し込み始めた……。

 マリーさんがポースの表紙と本体を拾って渡してくれた。泥にまみれて、中身もぼろぼろでもう本とは言えないくらいだった。


「ポース?」


「よう、アッキじゃないか……俺様はもうダメだな。こんなになっちゃ誰も拾ってくれねぇ、地獄の業火に焼かれて消える運命さ」


「ダメだよ、僕がいるじゃないかちゃんと修理するから」


「本当かい? そいつぁ豪儀だな、俺様を手にしようなんて馬鹿げた事を考えるなんて、よっぽどの悪神かい? アッキ」


「違うわよ〜、邪神や悪神をやっつける方よ?」


「そりゃまた正反対の持ち主になるんだな……」


「あら〜、契約する気なの〜?」


「もちろんさ、こんな俺様の為に涙を流すなんて……他にはいねぇ」


「俺様なのに謙虚なのね〜」


「これは長年の癖さ。何たって最高の魔導書たる俺様だからな」


「ちなみにアキちゃんは、魔法があり得ないくらい下手だから心するのね〜?」


「なに? それはだめだぞ、アッキ? 魔導書としてそれはダメだぞ? 選ぶ権利があるからな?」


 さっきのいい感じが台無しだ……。


「ポース……」


「う、その涙はいけねえぜ。……俺様そういうのに弱いんだよ、頼むよアッキ」


「魔法頑張るから……」


「だあ、お子様の涙にゃ勝てない〜」


「まあ、まずは綺麗に修理しないとね? アキちゃん、お友達の所に戻りましょう〜」


「うん」


 僕達はホングとヴァリーのいる所に戻った。二人は転移装置から出て来た僕達を見てホッとしていた。二人して武器を構えて緊張をしていたみたいで、その場にへたり込んでしまっていた。


「頑張ったわね〜、お子様達〜」


「終ったのか?」


「ええ、もう大丈夫よ〜」


「はあ〜、一昨日から大変だったから保たないよ……」


 ホングが弱音を吐いていた。珍しい。ヴァリーもその横で溜息を付いていた。こっちも同意見のようだ。


「じゃあ、後始末はここの人達に任せて、あたし達は帰るけど良いかしら〜?」


「分かったよ。俺達も帰るか?」


ヴァリーも帰る気のようでホングに同意を求めている。


「あら、ここの復興を手伝ったら良い報酬が出るわよ〜?」


マリーさんが二人に微笑みながら情報を与えたら、


「それは本当か?」


 二人の目の色が変わっていた。


「勿論よ〜?」


「「やるっ!」」


 何故か元気が出たみたいだ。


「じゃあ頑張ってね?」


「じゃあ、アキちゃんも帰るわよ?」


「うん、僕も手伝「ダメよ、見てもらわないとマシュが怒るわ」」


 そう言ってマリーさんは僕を連れてアストリューまで帰った。


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