30 信心
◯ 30 信心
ヴァリーに揺さぶられて起きた。もうすぐ夜が明ける時間だ。ボーッとする頭を振りながら、昨日決めた通りに港町まで行って、直ぐにホングの家まで引き返す事にした。港町の教会は大きいので転移装置が使えるはずだった。ただ、神界が占領されているなら使うのは悪手だ。それまでにマリーさん達が何か情報を掴んでくれてれば良いのだけれど……。
お昼過ぎぐらいに後ろの連中が追いついて来た。どうやら夜を徹して追いかけて来たらしい。こんなにしてまで付け狙うなんて一体何だろう? 普通に考えてホングの関係だとは思うけど、ヴァリーも追い掛けられる様な心当たりがあるのか、追い掛けてくる連中を探る感じで見ていた。
普通なら丸二日掛かるところを、かなり急いで進んだために後、半日の所だった。鳥達もかなり疲れていた。向こうも同じで疲れているはずだ。まあ僕は相変わらず一番にばてていたけど……。鳥達から降りて、一緒に走りながらなんとか逃げるしかない。
とうとう、後ろに張り付かれた。なんとかここまでたどり着いたけれど、戦うしか無くなった。
後ろから魔法が飛んで来た。スフォラが防護を張ってくれているが、余り通用していない。こっそりポケットに魔法陣の用意をした。相手がプロなら役に立つか分からないけど、兎に角やるしかない。
走りながらなんとかホング達が後ろを牽制している。ヴァリーは懐から銃を出して狙いを定めて撃っている。銃弾ではなく銀の炎が飛び出していた。ホングは風で援護していて、銀の炎は軌道を修正されて後ろの連中に当たっていた。
スフォラが脇から飛び出して来た一人に電撃を浴びせた。
「やるな」
「はあっ、はあっ」
ヴァリーの質問には、もう答える事が出来ないくらい息が上がっている。ホングも元々が頭脳系なので、同じように息が続いてなかった。後三人追いかけてくる。体力が切れるまでになんとかしないとダメだった。
後ろから大きな魔力が迫ってくる……。スフォラが反発の魔法陣を握りしめて受け止める。すぐに打ち込んで来た方に返って一人が倒れた。その動揺を狙って、ヴァリーが銀の炎を撃ってもう一人を片付けた。ホングが風を送って最後の一人を逃がさないように砂で目つぶしをし、ヴァリーがすかさずにそいつを殴った。
「こいつら一体なんなんだ?」
ホングが肩で息をしながら疑問を投げかけた。
「おい、誰に頼まれた?」
ヴァリーが殴って倒れた奴を縛りながら聞いた。当然ながら答えは返ってこない。ヴァリーの多い荷物の中身にロープが入ってた事に驚きつつ倒れこんだ。もう走れないから……。
「はあ、はあ、はあ」
「大丈夫か?」
僕は水を荷物から出して飲んだ。なんとか頷き返して全員の無事を確認した。ホングが腕をどこかで切ったみたいで血が出ていた。ヴァリーは殴った拳が痛そうなだけで、他は大丈夫だった。息が整った頃に僕はホングの傷を霊泉の水で洗ってから治した。まあ、全部は無理だけど、血は止まった。
「へえ、さすがだな」
ヴァリーが目を細めてじっと見ていた。
「治療系がいるのは助かる」
ホングも頷きながら認めた。
「まだそんなに出来ないから期待しないでよ」
傷薬を塗りながら答えた。光のベールを包帯のように細長くして、巻き付けておいた。これで大丈夫だろう。
「それだけ出来れば充分だ」
「ああ、助かったよ」
「悪神の徒では無いのか?」
それまで黙っていた人物が口を開いて尋ねて来た。顔に動揺が出ている。何だろう?
「はあ? そんな訳けないだろうが?」
ヴァリーが切れている。
「誰に頼まれた? 何の目的だ……」
ホングがもう一度、同じ質問をした。
「そんな、騙されたのか? 我々は悪神の徒が出没しているから退治を命じられたのだ。本当だ」
話を聞くと、町の神官に頼まれたそうだった。
「あー、僕か……悪かったよ二人とも」
ホングの追っ手だと決まったみたいだ。
「そんな事いうな、友達だろ?」
「そうだよ、ちょっとスリルがありすぎたけど、大丈夫だったし。誤解も溶けたみたいだし……ダメだよ? ちゃんと確かめもせずに襲ったら」
後半を縛られてる人達に向けて言った。
「はい、申し訳ございません。御使い様」
そう言って縛られてるにもかかわらず、膝を付いて頭を下げて謝ってきた。これは居心地悪い。どうやら、僕の癒しの力で誤解が解けたみたいだった。
教会と言えば癒しの力で奇跡の力なんだそうな。知らなかったよ。ここの世界ではそんな感じらしい。それで、他の人達は大丈夫か聞いてみたら、御使い様に手を出した我々は放っといて大丈夫です、とか言い出して困った。とりあえず、港町まで行く前に彼らの一番酷い人を少し手当てしてから進んだ。めちゃくちゃ感謝されて全員に平謝りされた。
「なんか気が抜けた……」
「確かに、疲れがどっと出たよ」
「そうだね、もうちょっと進んだら、休憩しようか……」
「そうだな、あの丘を越えたら町が見えてくるから、一旦休憩しよう。日が暮れるくらいには付くだろう」
「折角のホングのお姉さんのご飯もあるし……ゆっくりしようか」
「賛成だ。もう歩きたくない」
さすがのヴァリーも疲れたみたいだ。道を少し外れて僕達は座り込んだ。鳥達も直ぐに座って疲れを癒し始めた。僕はホングに雑食かどうか聞いてから、クッキーを鳥達にあげたらものすごく嬉しそうにがっついていた。多分、ハーブでリラックス出来ると思うんだ。
あの追いかけて来た人達にも少し配った。僕達が意外に逃げ伸びて、彼らは殆ど飲まず喰わずだったから……誰か知らないけど、盛大にお腹が鳴ってて可哀想だったし。
ホングの家族には手は出してないみたいで、そこはちょっとホッとした。でも、あの神官が何かしないと決まった訳じゃない、気を引き締めないと。




