29 尾行
◯ 29 尾行
町を出て暫くして、山道に入った辺りから付けられてるのに気がついた。二人にこっそりと聞いたら、直ぐに二人も気が付いたみたいだった。何か武器は持っているのかと聞かれたが、何も持ってなかった。魔法の杖でも持ってくれば良かったかな。
体の主導をスフォラに変えて備えた。分体は通信用にアストリューで転移装置に繋いである。マーロトーンで使われてる転移装置は管理組合の規格の物らしい。それ経由でスフォラが田舎でもマリーさん達と連絡が取れるようにしてくれている。地球とは違う仕様で驚く。ここの世界は地球と比べたら管理組合との関わりが薄いみたいだ。
「真っ先に気が付くとはな、ビックリしたぞ」
「一番鈍そうだからな……驚きだ」
二人にそう言われたが仕方ない……死んだ時の置き土産だ。
「向こうはプロっぽいな。仕事って感じだ」
「そんな……大丈夫かな」
「大丈夫だ、地の利はこっちにあるさ。ちょっと回り道になるがいいか?」
「任せる」
ホングの質問にヴァリーが答えたので僕も頷く。
「了解」
僕達は鳥達に駆けるように指示を出し、速度をいきなり上げて進んだ。後ろの連中が慌てて追いかけてくるのが視界の端に映った。
山の上に登って行くと崖が現れた。細い道を伝って進むと吊り橋があって、その先はまた崖だった。ぐるりと崖沿いを行くコースだ。ホングは橋を渡った後、吊り橋を落としていた。これで時間稼ぎが出来る。鳥達に水を飲ませ、休憩をしながら進んだ。
「あいつらに身に覚えはあるか?」
「いや、無いな」
「僕も無いよ」
「全員無しか……」
「盗賊にしてはちょっと身のこなしが綺麗だったからな……」
ヴァリーはそんな見分けがつくのか……どんな生活してるんだろう。崖を通り抜け、また山道に戻ったのでここで今日は夜を過ごす事にした。
夕飯はさっと済ませられるサンドイッチにした。マリーさんの手作りだ。いつものジュースを飲みながら話し合い、夜は交代で見張り番をすることにして眠る順番を決めた。マリーさん達には変な人達に追いかけられてる事を伝えてある。どうやらこっちの神に申し立てをしているみたいだ。
事情はまだ分かってないけれど、ホングの家族も心配だ。スフォラを繋いでる装置から転移システムをたどって、マシュさんがここの神界にハッキングを試みているみたいだ……なんだろう不穏だな。
「このサンドイッチは美味しいな……ホングの家族か?」
「いや、これはアキの手作りか?」
質問が回って来た。口の中のサンドを飲み込んでから答えた。
「ううん、マリーさんの手作りだよ、料理上手なんだ」
「へえ、良い嫁になりそうだ、来てくれるかな?」
ヴァリーがサンドの味を気に入ったみたいだった。
「……それは無理じゃないかな」
ぼんやりと答えたが、
「む、お前の女か?」
と、勢い良く聞かれたので否定する為に答えた。
「いや、違うけど……まあ、家事は完璧だよ」
……そういえば男が好きなのかどうかは聞いた事が無い、どっちなんだろう。
「違うなら今度紹介しろよ?」
「分かったよ、聞いてみるよ」
ちゃんとマリーさんに確かめてからにしよう。
「よっしっ!!」
もし、オーケーなら会わせても良いかもしれない……ヴァリーは大丈夫なんだろうか? まあ良いか、性別を聞かなかったのが悪い。
「じゃあ、くじの通りにアキが最初に番をして、次はホング、最後は俺だ」
「「了解」」
本当はヴァリーの要らない荷物を捨てたりしたいのだけど、時間が惜しい。二人が眠っている間にマリーさんと連絡を取ったら、僕達が出かけたあたりから、ここの神界と連絡がつかなくなってる事が分かった。どうやら何かが起き始めているみたいだ。
魔導書のポースも心配だな……。それとなくマリーさんに聞いてみたら、ポカレスですって? と驚かれた。どうやらかなり厄介な相手ならしい。現在の持ち主は指名手配犯で、組合の受け持つ何処の世界でも立ち入り禁止の悪神だった。
「そんな、アミーゴでポースとアッキで呼び合う仲になったのに……」
僕がそんな事を言ったら、マリーさんが首を傾げて、
「あ〜、間違いかもしれないわね。ちゃんと調べるから、待ってるのよ〜」
と、言って通信を切った。五分くらいでまたマリーさんから連絡があった。魔導書の画像が送られて来た。
「ポースだよ。もうちょっとぼろぼろだったけど、赤い石も付いてたし、表紙の模様も同じだよ」
「そ、そう、アミーゴなのね?」
と、何か納得いかない顔で聞かれたが、頷いたら分かったわ、と言って通話を切られた。
「ポース……大丈夫かな」
きっと持ち主が悪いんだ。しばらくしてから時間が来たのでホングと変わった。しっかり眠らないと明日も大変だ。




