28 荷造り
◯ 28 荷造り
ホングは神の御使いの一人として教会には認識されてるみたいだ。あの大都会が教会の一番の本拠地で、神の信仰の威光を示す場所としてあるみたいだった。教会の力が絶大で、それに逆らったら終わりだという。十人の神々を祀っていて、ホングはその十人には会った事は無く、異世界間管理組合の一人に教会で落ち込んでいるときに声を掛けられたそうだ。
世界を出て行くなんて考えた事も、そんな概念がある事も知らなかったので、目から鱗が落ちたそうだ。最初は悪神の一派かと疑ったが、どの道ここにいても追放されるのは時間の問題、というところまで追いつめられてたので付いて行ったそうだ。
「そんなに大変だったんだ」
「そうだね、良いように使われてるのが耐えられなくてね……よくない発言を繰り返してたんだ。だけど拾って貰ってからは、良かったよ。その人から、こっちの管理をしてる神々と交渉して貰って居場所も出来たし、仕事も紹介して貰えたよ。あのままだったら、家族にも迷惑を掛けて後悔してたと思うよ。こっちの部屋は殆ど飾りで帰ってないんだ。外の世界で仕事してる方が良いからね」
そんな経緯だったんだ。かなりシリアスな話だ。
「色々あったんだね」
「アキはどうだったんだ?」
「僕? 僕は……」
学校で授業を待っていたら、召喚された事を話した。そのまま、管理組合で弾かれて、働く事を条件に帰って良い事になった話をした。
「うわ、めちゃくちゃ確率低そうな話だ」
「そうなのかな?」
「ああ、多分そうだろう。よっぽど人手が足りないのか? その話が本当なら……」
「さあ、そこまでは分からないよ」
「確かに、新人だとそこまでは分からないよな」
宿の部屋で朝食を食べながらそんな話しをした。さすがに田舎なだけあって、食べ物はどれも新鮮だった。特にサラダが絶品だ。
今日は町の中を案内してもらって、明日はヴァリーと合流してから西にある港町まで行く事になっている。どうやらそこに目的の動物がいるかも知れないそうだ。本当は海を越えた大陸にいるみたいなんだけど、珍しい動物として港で取引されてる可能性があると聞いて、行ってみる事にしたのだ。
ついでに魚介類のおいしい店がそっちにあるみたいで、期待している。
「じゃあ、植物の調査と採取だな?」
「うん、付き合わせてごめん」
「いいさ、気にするな。旅の準備もしないとな……その収納スペースはまだ入るのか?」
昨日、僕が収納スペースを使っているのをみて、驚いていたのを思い出す。
「え? あ、こっちの仕事のは一杯だけど、僕の方のはまだ余裕があるよ」
「どのくらい入るんだ?」
「えーと、こっちは二メートル立法くらい入って、四分の一は僕が使ってる」
「分かったよ。それに入るくらいで大丈夫だ。食料をどうするかだな……」
「これ、時間が止まるから何日か分は入れれるよ?」
「めちゃくちゃ良い奴じゃないか。メチャ高いんだぞ! 何で新人でもないのに使ってるんだ……待遇が違いすぎるじゃないか!」
ホングはまたしても驚いて、そして怒っていた。声が裏返りかけている。聞いたら、組合の通信販売のページで売ってるそうで、スフォラの強化型の値段と同じくらいに高かった。組合に所属している何処の世界でも使える共通の移動用収納スペースだ。許可がどうたら書いてあるが、良く分からない。
「知らなかったよ……借り物なんだ」
「こ、壊すなよ? そんな値段恐ろしくて弁償出来ないぞ? 何年働いたら返せるんだ?」
借り物だと分かって顔色が悪くなった。
「分かってるよ。そんなに引かなくても良いじゃないか」
「意外と肝が据わってるんだな……僕は庶民気質が染み付いてるから無理だ。ドジの固まりみたいなアキに渡すぐらいだ、金持ちだと思おう」
何か失礼な事を呟いてませんか、ホングさん? まあ、借金の値段を思えばこれくらい増えても同じという気になるから感覚の麻痺は怖い。それに多分このスフォラと僕の体の方がどう考えても高いと思うんだ……改めて大切にしようと思う。
町の外に出て、植物の調査データを磯田部長に送った。僕が機械を操って調べているのを興味深そうにホングは観察していた。菜園部でも家でもやってるから慣れたものだ。
10分くらいで返事が返って来た。採取しろと。なので、慎重に丈夫そうなのを二、三株採取し、容器に詰めて収納スペースに入れた。動物も専用の容器に入れて、睡眠状態にしてから持ち出す事になっている。
その後は町を一通り案内して貰った。この世界では魔法が当たり前のように使われていて、火をつけたり、水を出したりと生活の至る所で使用しているのをみる事が出来た。
また今日も、ホングの家で夕食をごちそうになることになった。ホングが夕食のついでに明日からの旅の食料の調理をお姉さんにお願いしていた。僕が手伝うと言うと、喜んでいた。買い出しと調理を手伝ってお弁当を作り、レシピ交換しながら楽しく調理した。
僕がお土産に持ってきたハーブ入りのクッキーとチョコケーキがおいしかった、と褒めて貰えた。アンデッドの町では住民には良くない食べ物だったが、その反省からちゃんと大丈夫かどうか調べてあるので、安心して渡せる。
勿論、サンドイッチも常備している……異世界での旅行が大変なのは前回で経験済みだ。こっちは非常食として入れてある。
僕達が食事の準備をしている間、ホングは旅の準備をして、僕の収納スペースに色々詰め込んでいた。どうしても一泊は野宿になると言われた。近道で二日掛けて港町まで行けば、後は港の市で直ぐに見つかるという話だった。野宿とかした事無い。大丈夫かな?
行きに連れて来て貰ったあの鳥に連れて行って貰う事になっている。あの鳥達はここの生活に欠かせない動物で、どの町にもいて買ってから移動して、次の町に行ったら怪我の無い良い状態なら買ってくれる、そんなシステムみたいだった。
次の日、ヴァリーが来る時間まで少しあったので、転移装置に登録を先にする事にした。ホングについて行って、教会奥の祭壇の真下にある関係者以外は入れない場所に堂々と入って行った。
どうやらこの部屋はここの管理神の許可が無いと入れない場所らしかった。ホングが管理組合に入るまで、ここには転移装置は無かったので、ホング専用と言っていい物だ。なんだ、ちゃんと優遇されてると思うよ?
そのことを言ったら、まあね……と、嬉しそうな顔をした。一つずつ登録しないと使えないのは、かなり不便だけど、ここの世界のルールだから仕方ない。
ここの教会には神官が一人いるだけで、ホングが来ると神官はあっさりと部屋を退出して、どこかへと行ってしまった。干渉せずといった具合だ。
暫くしてヴァリーが来た。相変わらず目立つ。
「しばらくだったな……お前も髪を伸ばしてるのか?」
目敏く開口一番に髪の事を言われたが、これはセーフだと思う。前髪を鬱陶しそうに掻き揚げながら不機嫌な表情でこっちを見た。
「そういえばヴァリーも髪が伸びたね」
確かに少し伸びている。……身長も伸びてませんか?
「なんだ、ヴァリーも伸ばしてるのか?」
ホングも今気が付いたみたいで、聞いていた。
「それが、成人の儀に向けて伸ばすように母に泣きつかれてな。仕方ないから一年は伸ばす事になった。結い上げるとか面倒な事を言ってたぞ、廃止すれば良いのに……」
「ヴァリーも母親には頭が上がらないんだな」
ホングがヴァリーの様子がおかしかったのかちょっと笑っている。
「そうなんだ」
ヴァリーにも弱点があったんだ。
「お前らはどうなんだ?」
「……無理かな」
ホングが目を逸らしながら答えた。
「母さんに逆らうなんて恐ろしいよ」
僕も皆に同意した。嫌まあ、きっとこれは共通したものなんだ。世界が違ってもそこは同じだと思っておこう。ホングが行き先が変わった事をヴァリーに告げた。了解とすぐにヴァリーは請け負った。
「なんだ、仕事を押し付けられて来たのか?」
僕達は直ぐに出発した。行き先が変わった事の経緯を話したら、ヴァリーが聞いてきた。
「そうなんだ……決まってたのに悪かったよ」
「いや、こっちの方が良いよ。三日間の野宿よりは良いさ……それにアキのおかげで近道を通れるしな」
ホングがホッとした顔でそんな告白をしてくれた。三日も野宿コースの行き先だったんだ? 良かった、部長に感謝だ。
「ああ、あの荷物を引き受けてくれて助かったぞ……よく入ったなその中に」
「ヴァリーの荷物が一番多いよ、何を持ってきたの? 旅慣れた人は荷物が少ないって聞くけど……」
何でこんなにあるんだ? 入りきらなかった他の荷物を移動用の鳥を一匹余分に買って進んでいた。おかしいよ?
「いや、まあ……そうか、多いか?」
ホングと僕は同時に頷いた。それをみてヴァリーはバツが悪そうだった。後で二人でチェックするとヴァリーに言っておいた。




