2 勧誘
◯ 2 勧誘
今日も懲りずに家族の元にいる。
「何で新年は同じ様な番組しか無いんだ?」
朝からお参りだのの映像を見て、不満そうに父さんがチャンネルを回していた。
「えー、着物綺麗し、良いけど」
「確かにあの子の振り袖は綺麗ね」
「千皓、新聞取ってくれ」
[うん]
横にあった新聞を父さんに渡す……。ハッ、仕舞った、注目されている。みんな見えてるの?
「こんな簡単に引っかかるなんて、母さん心配だわ……」
しょうがないわね、と言った表情で溜息をつかれた。
「本当だよ。天国でちゃんと修行して来たら?」
玖美が呆れている。
「千皓〜、ずっといていいんだよ〜」
父さんは目が潤んだままこっちを見ていた。父さん……うれしいよ。
[うん……]
「ダメに決まっているでしょう」
後ろに董佳様が怒りのオーラを纏いつつ立っている。怜佳さんも一緒だった。何で二人がここに?
「初めまして、雨森 怜佳と、妹の董佳です」
そう言って怜佳さんはニッコリ微笑んだ。家族は固まっていた。董佳様が何かしたみたいで家族と目が合った。見えてるみたいだ。
「この度はこちらのミスもあり、千皓さんを死亡させてしまいました事を神界警察よりお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。ですが、彼も覚悟の上だったと思っていますので、これ以上はお互いにも良くありませんので追求はご遠慮願います。詳しくは話せませんが、彼の協力で一人の子供の魂が助かり、彼にはこのまま神界でも頑張っていただく事にしました。ご家族には大変申し訳ありませんが、彼の仕事の手伝いをお願いしに参りました」
[それは……どうなったの?]
「間抜けは黙ってなさい」
[う……]
「一般の方へ協力は依頼しておりませんでしたが、この度の事件で新たな情報経路が必要と感じ、地域ごとに調査員を立てる事に致しました。まだ設立したてでどうなるか分かりませんが、こちらの調査員の一員として身辺の情報に気を配って下さり、おかしいと感じた事を報告して頂きたいと思っています。承諾いただけましたら、息子さんとの接触を許可致します。こちら側との繋の仕事をして頂くので、会う機会も多いと思います。いかがでしょうか?」
「それは……千皓と暮らせるのかしら?」
「そこまでは無理ですが、こちらからは会う事は制限しませんので、彼と話し合いをして下さい」
「分かりました。千皓……」
母さんは嬉しそうに微笑んだ。
[母さん、父さん、玖美]
こんな処置をして貰っていいんだろうか……なんか視界が歪む。皆に近づく……母さんが抱きしめてくれた。
「お兄ちゃん……」
「皆、良いか?」
父さんが聞いた。二人が頷いた。
「その調査員とやらをやります。詳しい説明をお願いします」
「引き受けてくださって、良かったわ。では、早速説明と契約を」
怜佳さんが微笑んだ。後ろにいた黒スーツの女性が、食卓テーブルで母さん達に説明を始めた。
「間抜けには組合から依頼したから、レイからも説明があると思うわ。きりきりと働いてもらうわよ、有り難く思いなさい」
「私達はこれで帰るわ。じゃあ頑張ってね」
[はい、ありがとうございます]
僕は二人に感謝した。
「あ、そうだわ。また、ハーブティーを貰えるかしら?」
怜佳さんが振り返って聞いてきた。これで断れるはずが無い。
「あれはいい香りだったわ」
董佳様も褒めてくれた。
[はい、持って行きます]
二人は帰って行った。黒スーツの伊東さんが、家族に説明したのはどうやら近所での噂話や情報を集める事みたいだ。まずは僕が葬儀のときに、目のあったトシから実際に試す事になった。
トシの部屋に侵入してみて、気が付くか確かめた。最初は気が付かなかったけど、何か感じたのかじっとこっちを見ていた。手を振ってみた。
「アキ?」
[見えるの?]
「ぼんやりとだけど……ちゃんと成仏しろよ?」
[そっか……見えちゃうのか。今から家に来て貰っても良い?]
「何かあるのか?」
[家で説明するよ]
「わかった……っておい、家族にはなんて言うんだ?」
[家族にもバレてるし、大丈夫だよ]
二人で鮎川家へと移動した。
「連れて来たという事は見えるのか」
伊東さんが聞いた。ぼんやりと見えるらしいと説明した。
「ふむ、ぼんやり程度ならまだ早い。が、こちらの家族に協力して貰う事にする」
[分かりました]
そっか、トシは夢縁にはまだ来れないのか。この伊東さんが、今回の神界での新しい機関設立の責任者だと言う。
「君にはこちらの家族と協力して貰いたい事がある…」
トシは伊東さんに説明をされて目を白黒させていた。トシには意味不明だったみたいで、こっちにどうしたら良いんだと助けを求められた。池田先輩みたいのを見かけたら通報するみたいな感じだよと言ったら、何だそんなのまかせろと承諾していた。
トシの様に幽霊が見えるとか、変な力があるとかそういうのも届けるらしい。真相はこっちが調べるみたいだ。夢縁の生徒が請け負う仕事は大体こういう事が多いみたいで、僕の場合もそういえばそうだったなと、ふと思い出した。ジェッダルのあの事件の時に来た沖野さん達を思い出す。
トシはすでに幽霊が見えているので、街中で見かけたら連絡をという役割になった。
こっちからも事件の例を挙げて、実際に起きているかどうかを質問する場合もあるみたいだ。この地域は僕達担当だ。守秘義務があるので、この機関での契約者同士でしかこの話は出来ない事になった。
まだ試しなので、他の地域での契約者も少なく、そう会う機会は無いが、契約者同士は会えば分かる仕組みなので協力し合えると言っていた。基本、平和なのでそうそう事件は無いと思う。
「待ってろよ、俺もそっちで一緒に修行出来るまでになってやるぜ」
トシは張り切っている。拳を前に出して、よく分からないガッツポーズを決めていた。
[うん、僕みたいにバレないように気をつけてね]
何か心配だなあ……。
「アキに出来て俺に出来ない事は無いはずだ!」
[そ、そうだね]
「そうよ、お兄ちゃんに出来て私がダメなんて、無いんだから」
[玖美……]
家族にはもう僕の姿は見えていない。僕が幽体を可視化させる技術を覚えるか、トシと玖美が僕を見る事が出来るか……どっちが早いだろうか。家族達は何となく僕がいるくらいは分かってるから、ずっといたらそのうちに見える可能性があるんじゃ無いかとは思う。
伊東さんの少し不安げな表情は、僕は見なかった事にした。ここは僕が頑張らないとね。
その頃、雨森姉妹は一緒にお茶を楽しんでいた。
「良かったわ、このハーブティーがまた手に入ることになって」
これのおかげで神界で妖精達と仲良くお茶を飲める。葉も利用出来るみたいで、マリーが差し入れてくれたクッキーと一緒に妖精達に出せばご機嫌だった。
「マリーが言うには、アストリューでも色々問題を起こしてるみたいよ」
董佳は寄って来たりすの姿に似た妖精に、クッキーを渡しながら話を続けた。
「そうなの?」
「ちょっと、突ついたら酷い映像がぼろぼろ出て来たわ。しかも、疑わしい人物とも接触してるし。あれは近くにおいて監視しておかないと、とんでもないわ」
あれはダメだと首を振りながら言い、自分もクッキーを摘んだ。
「ふふ、董佳ったら、珍しくお気に入りなのね」
「ち、違うわよ。余りにも事件を引っ掛けてくるから、仕方なく見張ってるのよ、誤解しないでよ?」
「わかってるわ、みてると面白いものね」
怜佳がくすくす笑いながら、董佳を見ると不貞腐れていた。董佳が悔しげに唇を噛んだと思ったら今度は態度を変えて、
「怜佳お姉様こそ、お気に入りじゃないの」
と、振って来た。
「ふふ、猫ちゃんとの繋がりだもの、大切にしなくちゃ」
怜佳は優雅に微笑んで、いつも通りのぶれない発言をした。膝には猫の姿の妖精が乗っかって、クッキーを強請っていた。