25 鏡
◯ 25 鏡
ヴァリーとホングからメッセージが届いた。見てみたら、女性達に囲まれて楽しそうな写真だった。どうやらどこかの世界のリゾート地みたいだ。それを見せたら、マリーさんが対抗心を燃やしてこんなの送って来たのね? 自分達が断ったくせに、幼稚なのよ〜、とお怒りだった。
確かにそうだね。きっと後悔したんだと思うよ、あの水着の美女達との写真は嫌みかなと思ったけど、アストリューの良さを見て欲しくて送ったのだから。
まあ、こんなにあからさまに対抗してくるとは思ってなかったけど、意外と子供っぽいところがあったんだ……。
二人も別でだけど楽しめたんだから、まあ良いか。場所はナリシニアデレートという世界の、ナッド大陸のレナガザキ国だと書いてあった。どうやらヴァリーの出身地みたいだ。次はホングの出身地に行くけど来るか? とのお誘いが最後に書いてあった。
そういえば、あの海の写真を送って以来連絡してなかったなと思い出す。なんせ、邪神の卵に捕われて十日も闇を彷徨ったのだから仕方ない。はて、こっちは死んで体を作ってもらって、更に死神の訓練と癒しの力の特訓が始まっている。何処まで喋っていいんだろう。レイに聞いてみよう。
「死神と言ってもガーディアンの話は出来ないから黙ってて欲しいな。死神の組合のバックアップがついてからだね。メーイデル教団についてもあの瘴気の固まりのこともあるからトップシークレットだよ。知ってるだけで危ない類いの情報だから、新人には教えられないよ。関わった事にはされたくないな。光のベールもダメだよ。闇落ち、邪神達の今の狙いははっきりと癒しと浄化の力だからね? アストリューが襲われたの分かってるよね?」
「う、ん。じゃあ普通にここで植物の世話をしてるのは?」
よかった聞いておいて。って僕は何やってるんだろう……残念な目で見られる意味が分かった気がする。
「んー、こんなに妖精が生まれる場所なんて、普通の世界なら聖域扱いで良いくらいだから、ちょっと認識が変わったんだよ。いずれ精霊界と繋がるんじゃないかって事になってるからね、悪いけどもうここには新人の友達は呼べないよ。神格のある者、神殿の関係者でないと無理だよ。ここに呼ぶ人は僕に聞いてからにしてくれる?」
そんな事になってたんだ、知らなかった。
「どうしたら良いの? それと精霊界って?」
「大まかにアストリューで植物を育ててるで良いんじゃないかな? フリーマーケットに参加したとか生活の事は大丈夫だよ。精霊界は魔法と相性良い世界だよ。それまでに魔法の力を頑張って覚えようね、アキ」
「う、ん。何か修行が増えていくね……。魔法の練習は言っても良いの?」
「勿論いいよ。むしろ管理員には必修だよ」
「そうなんだ。じゃあ、色々修行してるで良いかな?」
なんか頭がこんがらかって来た。守秘義務って言っても僕の頭がついてこないよ。
「大丈夫だよ、ちゃんと整理しよう」
「うん、僕は変なの?」
なんだか不安だ。
「違うよ、ちょっと順番を間違えただけだよ。それにアキは苦手な事が多いじゃないか、魔法とか全然進んでないし、マシュが数学音痴だって言ってたよ? 一番出来ないといけない事が出来てないなんてダメだよ?」
「ぐ……確かに」
「大丈夫だよ。友達は優秀そうだから、直ぐに一人前になってこんな守秘義務も乗り越えてくるよ」
「うん、そうだね。頭良さそうな二人だし」
「ボクも助けるよ?」
「うん、ありがとう。いつも助けてくれてるよね、頑張るよ」
「その調子だよ。じゃあ、復讐しよう」
「うん」
ヴァリーとホングには行くと返事をした。
確かにレイに指摘された通りに、新人としては能力が低すぎる魔法の力がネックだった。アストリューにいるなら、せめて水を出すくらいは出来た方が良いと言われた。
レイと紫月の猛特訓で七日後にはちょろちょろと指先から水が流れた。紫月との繋がりを利用して水を出してるときの感じをまねしてみたり、水に触ったり色々試してやっとだった。感動だった、出来たよ。目からも水が溢れる程だ。
「まあ、出せるようになったけど、相変わらず魔力を扱うのが下手だね……あんなに特訓してるのに」
水の魔法の特訓と同時にマリーさんには魔力の扱いを見て貰っていた。スフォラが例の反発の魔術を使って特訓をしている間、使った分の魔結晶に魔力を注ぐ練習を繰り返していた。それでも最初よりはかなり良くなっている。
闇のベールの扱いも気を練るのに合わせて大分長く保てるようになっていた。大きさはあまり変わらなかったけれど、一時間はしっかりと保てる。
さて、色々試すと良いよ、とのアドバイスを元に考えてみる。透明な光と闇。何か出来ないかな?
鏡を作ってみるつもりで何か間違えた。ちょっと透明な何かが出来た。じっと見て触ってみたり向こう側を覗く……なんか閃いたかもしれない。なんかの映画に出て来たあれだ、透明のマント……出来ないかな?
光を吸収しても黒くなってしまうし、反射してもダメだ。光が通り抜けるイメージで水の透明を光で再現し、反射しないように必要外を闇に取り入れる。鏡の前で何となく消えてるっぽいのが出来た。影が消えてなかったり、輪郭が丸分かりの色々出来の悪い透明マントだ。
取り敢えずはマリーさんに見てもらったら、ぶっ、とお茶を噴き出された。
「お子様の夢よね〜、アキちゃんにしては頑張ったわね」
ちょっと苦笑いしながら出来の悪いマントを見ている。
「本当? 洒落で作ったんだけど」
頑張ったと言われてしまった。
「ジョークだったの?」
そこで驚くんだ?
「うん、こんな映画があったから……本当は鏡を作ろうとして失敗したんだ」
「失敗だったの〜?」
「まあ、ね」
どう考えても、こんなの使えないし……ジョークネタだよ。ホラー街でもお化けの役が出来るかもしれない。
「必死に考えたんだと思ってたのにぃ……」
「でも、役に立たないよ?」
「そのままだとダメね……本当の本物を頑張って作るんじゃないの〜?」
「え? いるかな?」
需要を考えたら要らないと思うけど?
「いや〜ん。アキちゃん、そこは頑張って考えてよ〜。ロマンを追いかけるのよ〜」
それはネタの完成度を上げろってことかな? 難しすぎるんだけど……。取り敢えずマシュさんに聞いてみた。
「確かに、良い宴会ネタだなこれは……」
「もうちょっと完成度を上げないと、マリーさんが納得してくれないんだ」
「……意外とノリがいいな、マリーにしては。最初はベールだと難しいから、板か、レンズで考えたら良いぞ、光を通り抜けさせるところはいいが、最初は光を真直ぐに抜けさせろ。中で屈折するようにもう一枚重ねると良いぞ」
色々アドバイスをされた。
「うん、分かったよ」
そんな訳で透明ドームが出来た。秘密基地みたいだ。なんか分かるよ、これがロマンなんだね?! 周りから見たら誰もいないのに実際はいる。中で動ける空間が実際より少ないのは仕方ない。二重構造で作ったからこんなもんだと思う。
残念ながら二、三人ぐらいしか入れない。それでもマリーさんは満足していた。
「これよ〜、ロマンよ〜、基地を動かすとばれるのは愛嬌ね」
リビングで基地の外からマリーさんの『スフォラー』の分体で、映像で確認しながらマリーさんが納得の笑顔を見せていた。ネタが出来た。後は最初の課題に戻ろう。
寄道のおかげでなんだか出来そうだ。
闇のベールを広げる。その上に光のベールを重ねて、光は透明に、闇は光を吸わない様になるべく反射させるイメージで……。やっぱり出来ないのかな? 光を調節して映り込む様にした。鈍色の鏡が出来た。思ってたのとは違うけどこれはこれで使えなくない。ちょっと変だけど最初だからいいか。
「……何のまねだ?」
マシュさんが嫌そうに眉をひそめつつ、出来た鏡を見て聞いた。
「鏡を作ろうとして、何となく出来た。きれいなのってどうやったら出来るの?」
眉間の皺と目力に負けて正直に答える。
「……意識しては作ってないのか?」
がっくりと肩を落として気が抜けた表情になった。
「? 何を?」
横からマリーさんが鏡を見て、複雑そうな顔をした。
「あら〜、また冥界のアイテムね……」
「そうなの?」
「確か、凶問獄答の姿見とかそんな名前だったと思うわよ〜」
「怪しい名前だね。良くないの?」
「確かねぇ、地獄の門に付けるって聞いたわよ〜」
「噂ではそうだったな」
「こんなのを?」
何だそれは。
「そう。アキちゃんには何の意味も無いけど、地獄の住人には効果があるのよ〜」
「そうなんだ? でも、ぼんやりしか映らないよ」
「魂の姿見よ〜。だって死神のマントで作ったでしょ、これ〜」
「そうだよ。……あ、だからなの?」
「そうよ〜、誤摩化しの利かない自身の姿が映るの〜。ぼんやりとなのは、まだアキちゃんがそういう存在だからね。はっきり写るようになったら、成長したって証拠よ〜」
「まあ、時々作って確かめれば良い。自分で確かめれるんだ良いじゃないか、わざわざ冥界に行く必要なくて」
その後、マシュさんに普通の鏡の作り方を教えて貰った。惜しいところまでは行ってたみたいだ。光で反射板を作れば良かったみたいだ。
後ろからの映り込みを無くす為に壁に付けるか、闇のベールを掛ければ完成度が上がった。無理に闇で光を受け止めるようにしたのが、間違いだったみたいだ。でもおかげで妙なアイテムは作れたけど……。




