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23 好物

 ◯ 23 好物


 大きなカニを目の前に、味は大丈夫だろうかと心配しつつ食べた。心配は無用だった。美味しい。

 幸せとはこうだと思う。カニづくしも良いけど、こうやってひたすらカニのみも良いかもしれない。美味しい物を食べると無言になるのは仕方ない。

 董佳様の目が僕のカニを狙っている。カニ爪が好きなようだ……仕方ない一つは譲るとしよう。もう一つは現在食べている、これはあげませんよ? 睨まないで下さい。

 レイはカニの身をマリーさんに解して貰っていた。食べ慣れないと難しい。

 怜佳さんはその横で大空と大地に挟まれて嬉しそうだった。ねこ耳としっぽの美寿さんがお盆を持って殻入れを変えに来てくれた。怜佳さんはしっかりと目がしっぽに釘付けだった。

 美寿さんは友人と一緒に、神殿の職員用の食堂のウエイトレスを始めたみたいだった。まずはそこからスタートだそうだ。ねこ耳としっぽはそこでも問題なかったので、安心して働いているようで女将さんも安心なようだ。

 入れ替わりで僕は菜園班ではなく、自宅の庭でのカシガナの世話に変わったから宙翔に聞くまで知らなかった。

 美寿さん達からしたら、神官の食堂と言った方がしっくりするみたいだ。まだ、しっかりと意識が神官だと思ってないから僕としては職員なんだけど……。何処からどう見るかで違ってくるんだなと言う事は分かった。もうちょっと力が安定したら、僕も神殿で神官らしい仕事をする。

 やっぱり僕的には気恥ずかしいので呼び方は職員だと思う。公務員的な仕事も多いから間違いは無いはずだ。


 雨森姉妹は三日間の滞在予定だったが、半日は僕達の家に来る事になった。家にはお福さんを呼んで準備は整っている。今日は三日目の夜だ。カニの食べ納めと大量に食べている。

 宙翔は隣でカニを焼いている。一緒に食べているが、焼き加減に一番煩かったので任せている。意外に鍋奉行タイプだったみたいだ。


「焼けてるぞ、アキ」


 宙翔が鼻を利かせて焼けてる事を教えてくれる。それを取りながら、カニの感想を言った。


「ありがとう。美味しいね、無言になっちゃうよ」


「そうね〜、やっぱりカニは最高ね〜」


「美味しいよ、皆が勧めるだけあるね」


 レイは意外に初挑戦だったみたいだ。


「カニを食べてないなんて、人生損してるわよ?」


 董佳様はレイに、カニとエビの美味しさを力説し出していた。その横で、怜佳さんが噴き出しそうなくらいに笑っていた。

 スフォラも気に入ったのか、好きな食べ物に分類したみたいだった。意識の融合から味覚が共有されてるみたいで、二重に食べてる感覚だ。


「ここは美味しい物が多いし、自然が豊ね……ゴミゴミしてなくていいわ」


「そうね、怜佳お姉様。特にこのカニは美味しかったわ」


 気に入ってもらえてよかった。宙翔も嬉しそうだ、しっぽが揺れてる。


「こういう所の地酒も良いわね。中々良い発掘が出来たわ」


 董佳様がどうやら温泉街で見つけたらしい。確かにこの近所はお酒好きが集まってるから良い物があるんだろう。いつもの宴会の集まりを思い出しつつそんな事を考えた。好きなもの同士は自然と集まってるのかな?


「お父様も喜ぶわね」


 なるほど、家族へのお土産みたいだ。お酒の味は僕にはまだ分からない……今なら飲んでも問題なさそうだ、その内チャレンジしてみよう。

 このまま宙翔の所に泊まってから、次の日に雨森姉妹は家にやって来た。庭の花畑を怜佳さんは嬉しそうに散歩している。董佳様は紫月がカシガナの枝で歌っているのを聴いていた。


「妖精の歌ね。この庭なら妖精がいてもおかしくないわ。むしろ少ないんじゃないの?」


 さすが董佳様、鋭い。


「あー、これから増えるみたいです……」


 僕は庭に植えた違う種類のカシガナの場所に案内した。どれも実の中に妖精が育っている。ピンクの実からはきっとピンクの妖精が生まれるんだと思うし、黄緑の実からは黄緑の……植えたカシガナの種類分、生まれそうだ。

 こっちのカシガナは一年草だから、紫月と同じに生まれるときに消えるんだろうか? このカシガナ達は血を吸ってないから普通に妖精として生まれるみたいだし、少し違っている。

 何となく、紫月から色々情報を受け取っているようで、時折に紫月がこのカシガナに向かって魔力を渡しているのを見ている。

 血を掛けて植えたものも普通に育っていて、血を吸うことも無かった。すべての実は春に向かってゆっくりと成長していた。紫月に弟分か、妹分が出来るのは良い事だと思う。


「あの可愛いのが増えるのね?」


 董佳様が期待の目で見ていた。意外と可愛いもの好き?


「はい、その内に合唱してるかもしれませんね」


「そう? しっかりと育てなさいよ?」


 何となく嬉しそうだ。


「それは勿論です」


「どうだか、邪神の卵ごときに食べられかけてるようだとね……」


 疑いの眼差しを向けられながらも、


「う、そ、それは、あんなのに会うなんて思ってなかったし、なんとか帰って来れたから、良いじゃないですか」


 と、なんとか答えた。


「言い訳は見苦しいわよ、要はしっかりしなさいって事よ」


「う、分かりました」


「全く、情けないんだから」


 きっと、この文句は照れ隠しだなと、何となく思っていたら、足を踏んづけられ、生意気よという目で睨まれた。はい、すいません。


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