21 無形
◯ 21 無形
次の日、神殿に着くとメレディーナさんが、嬉しそうに微笑んで迎えてくれた。
「アキさん、おめでとうございます。光の力に目覚めて……本当に良かったですわ、昨日はレイさんがそれはもう、喜んでそちらに向かわれましたから」
メレディーナさんはクスクスと笑ってから、レイの方を見ていた。
「だって、ボクがアキを育てるはずなのに、横取りされたら泣いちゃうよ?」
「そうでしたかしら? ガーディアンなら許すとか言っていませんでしたかしら?」
「もうっ! メレディーナの意地悪!!」
そんな事を言ってたのか……確かに、あのベールを付けて帰ったときに馬鹿呼ばわりされたっけ。確かに管理員の組合から死神の組合に横取りされたら、気分は悪いと思う。
「心配かけたんだね、ごめんね?」
よくわかんないけど、寄道したせいで随分レイには気苦労させたみたいだ。
「そうだな、ちゃんと謝っとけ。このままアキが癒しの力を伸ばさないで、死神になったらどうしようとか言ってたからな」
「そうよ〜、あたしだって責任感じてたのよ〜。あんなに気を揉んでたのに、心配が目の前でごそっと取れたからどうして良いか分からなかったわよ〜」
それであんなに複雑で難しそうな顔を二人でしてたのか……。今は苦笑いしながらこっちを見ていた。
「う、うん。皆ごめんね?」
「さあ皆さん、そのくらいで、今日は綺麗になって下さいね」
メレディーナさんがにこやかに締めくくり、そのまま美容のコースに案内された。僕よりスフォラがやる気満々なので、本体を譲って、僕は分体に入って小人状態だ。紫月も興味津々で付いて来ている。
デトックスコースでリンパマッサージを受けたり、新陳代謝を高めたりと何やら説明されたが、まあお任せで良いんじゃないかと。
最後に良い香りのする部屋でお昼寝までしてしまった。なんだか勝手に眠くなって、気が付いたらお茶の時間にしましょうと誘われた。
メレディーナさんが僕の光と闇の両方のベールを見ながら、どちらのベールも癒しの効果がありますね、と言い、光のベールが淡く白っぽく発光しているのをじっくり見ていた。レイの力は金色掛かっていたからそれぞれ違うのかもしれない。日の光に当たると動いた所に微かに虹色に色が付いた。
「きれいねぇ、やっぱりアキちゃんにはこっちの方が似合うわ〜」
マリーさんが白いベールを手に取ってスフォラに当てていた。
「……そうかな?」
「こうやってみるとなんだか真珠の輝きに似てるね」
折り重なった状態の物を見てレイがじっと見つめていた。
「そうですね、アキさんらしい優しい光です」
何か照れる。浄化の力はそれほど強くなく、癒しの力が殆どみたいだ。
「安らぎと調和の波動を感じますね。ベールという形を取っていますが、本来は無形のものです、アキさんの想いそのままに変化するはずです」
「そうだね、闇のベールを参考に作ってるからこんな感じだけど、どっちも本来は形にこだわらなくてもいいからね。まあ、分かりやすくていいけど……これからは色々試して行こうね?」
「うん、頑張るよ」
どうやら、次の修行が始まるみたいだ。また忙しくなるかもしれない。僕もベールを見ながら、何かならないかと見ていた。白と黒のベールを重ねてみたが、別に何も起こらなかった。マリーさんは光のベールを気に入って、この生地でドレスを作りたいわ〜、なんて言っている。
紫月もさっきから光のベールに包まってみたり、闇のベールに潜り込んだりと遊んでいた。
最近は時々アキと呼んでくれたり、抱っこ、とか片言で話すようになって来た。音を言葉にすることを覚え始め、コミュニケーションの方法が広がったおかげで、マリーさんやマシュさんとも最近は何やらやり取りをしていた。
この日はゆったりと皆で過ごせ、穏やかに時間は流れた。




