1 祈り
辛気くさいのはこの回までです。多分何処かで笑えるはず……? 保証は出来ませんが。
いたずらなじこ
◯ 1 祈り
あの邪神の卵であった一香の事件から、アストリュー時間で七日程静養し、少し回復した位から僕は時々地球の家に戻っていた。要するに、1日で戻って来ちゃってるんだけど……。自分の部屋に入ったり、リビングでお福さんと戯れたり。自分でも馬鹿だとは思うし、覚悟は出来てたつもりでも未練はあるみたいで……地球では幽体のままだと普通では物質には触れないけど、そこはスフォラを実体化するのに頑張ってた甲斐があって、触れて小さいものなら動かせた。
トシの様子も気付かれないように、遠目からこっそりと見たりして確かめたりしていた。
家族の団らんもちょっと元気が無いみたいだった。葬儀も終って初七日も済んで、新年を迎える今日も普通に過ぎて行った。
しかし、うちの宗教は一体なんなんだろうか? 床の間に飾られている謎のオブジェを見て思う。遮光器土偶? いや、オーパーツって訳じゃないよね? それが紫の布が掛けられた台に三体並んで、その後ろに僕の遺影が飾られていて、何故か赤いサンタ帽子が遺影の横に置かれているし、その横には青竹踏みが立てかけてある。……謎が多過ぎる。
「お兄ちゃん、馬鹿だよね」
不意に玖美がそんなことを言った。コタツの上にあるみかんを転がしてる。
「玖美、もうそれは言わないの」
「だって、ちょっと頭の打ち所が悪かっただけだよ?」
頭の打ち所が悪かった事になっている。最近は監視カメラに写ってたりするんだよね……バス停でのあの痴漢えん罪事件でぶつけた傷が原因と処理されている。
一香に襲われた場所で倒れた僕はその後、病院に運ばれたまま意識が戻らずに死んだ事にされた。家族には犯人に恨みを抱かない暗示がかかっている。
「そうね、おかげで死に顔も綺麗だったわ」
少し寂しげな表情で母さんが言った。
「何、千皓なら天国でのんびりしてるさ」
「もう、父さんはそればっかり言ってる」
「あら、でも母さんもそうだと思うわよ。千皓なら向こうでもうまくやってるわ」
「そうだと良いけど、向こうでも何か鈍臭い事してそうなんだもん」
玖美……それは、言わないで。
「……それは、神様がなんとかしてくれてるさ」
当たってるよ、父さん。
「そうねえ、確かに千皓は抜けてたわねえ」
母さんまで……。
「ほら〜、絶対向こうでも変わらないよ、お兄ちゃんは」
「そうねえ、神様に祈っておくしかないわね、千皓をよろしくって」
「母さん、フォローをお願いします、だよ」
「そうだな、皆で祈っておこうか」
僕も祈っておこうかな……。全員で祈った。
「よし、じゃあもうやすもうか」
「そうね、おやすみ」
「おやすみ」
[おやすみ]
家族がこっちを振り返った。
「お兄ちゃん?」
「いたのかしら?」
「そうだな、いたんだろう。おやすみ千皓」
皆は寝室に行き、僕はそのまま、泣いた。しばらくしてレイが迎えに来てくれた。ぎゅっと抱きしめられてやっとアストリューに戻った。