14 資金
◯ 14 資金
一日遅れて、伊奈兄妹はあちこち焦げ跡と痣を付けて、不機嫌な顔を見せに来た。僕は何も言わずに魔結晶を二人に渡した。気まずい無言のやり取りはそれで終った。
お茶を勧めたが訓練があると言って直ぐに行ってしまった。
「マリーを本気にさせるなんてやるね、アキ」
その様子を横から見ていたレイが、声を掛けて来た。
「本気なの? 何か楽しそうにあちこち行ってるけど……」
「だからだよ。マリーは人に教えるのも趣味だからね」
「そうだったんだ」
確かに言われれば思い当たるかも。……八つ当たりもちょっぴり入ってるとは思うけど、些細な事だよね?
「マシュさんが特許取れるか見てくれてるんだ」
「ふうん、取れたら結構すごいよ?」
「そうなの?」
「似た物は沢山あると思うけど、かなり単純だから使い道も多いし、反応が早いから多少接近してても使い勝手が良いみたいだね。それは既にマリーが宣伝してる」
「えーと、八つ当たりは宣伝にもなってるんだ?」
「八つ当たりなの?」
「ちょっと入ってるっぽいよ……。蒼史達が恨めしそうな顔で見てくるし。八つ当たりついでに教えてるんだと思うけど、驚かせてるのがめちゃくちゃ楽しそうだし」
「それは仕方ないよ。アキだって、スカート姿の逆襲だわ〜って、マリーに言われてるよ?」
「……うん、お互い様だね」
「そういう事だね」
その後作ったのは、わざと力を分断していくつかに別れて飛び出る物だ。これはマシュさんのアイデアが入ってる。僕は分断しただけだったけど、それを見たマシュさんが、これで攻撃範囲が広がると嬉々として改良していた。そこまでになると僕には複雑で何となくしか分からなかった。
当然、周りへの宣伝(?)もばっちりだった。スフォラから初めてその電撃を受けたマリーさんは、また進化してる〜、と叫んでいた。
ちゃんとマシュさんと作ったと言っておいたから、伊奈兄妹の視線攻撃は半分に減った。マシュさんと今まで作ったものと一緒に特許を取った、と言ったら喜んでくれ、組合から買えるのを待つと言ってくれた。
今回のはマシュさんとの共同制作だから勝手には渡せないし、複雑すぎて途中から分からない。遠目で見ればアラベスクの模様みたいだ。それに三種類もある。時間差にした物に、カーブを付けた物、ただ分断してずらした物だ。
特許は組合の方で管理してくれる。細かい所はマシュさんと詰めて全部ちゃんと考え直したから、効率も良くなってる。
実験で分かったのは、魔結晶は繰り返し使うと摩耗して壊れる事だった。出来上がった魔法陣は壊れにくいもう少し純度の高い物に入れ替え、スフォラはそれで練習している。
紙の魔法陣は基本使い捨てだ。少し高いけど魔結晶の方が使い勝手は良い。アクセサリーにして持つ人が多いみたいだ。
良い魔結晶は魔法の力を貯めておく事も出来るみたいで、魔法陣の本と睨めっこしながら、最初のアイデアを考えていた。まだ、全然だめだけど、何となく喉元までは来てる感じだ。その内に面白いものが出来るかもしれない。
「くくくっ」
と、マシュさんは何やらニヤニヤと笑っていた。聞くと借金が大分減ったらしかった。商品『スフォラー』の売れ行きが良いみたいだ。僕と作ったあの攻撃範囲が広がる魔法陣も、組合が高く買ってくれたみたいで、楽しそうだった。
「減ったと言っても百分の一くらいなんでしょ〜?」
マリーさんから衝撃の一言を聞いてしまった。どれだけ多いんだ?
「千分の一でも返した事は返したんだ、これでまた借りれるな」
何か桁が変わった気がする。しかもまだ借りる気なんだ……?
「借りるの前提なんだ?」
「当然だ! 組合には使っていい資金が山ほどあるんだ。使わなくてどうするっ?!」
力説して下さった。この調子だと人の財布は自分の財布ぐらい思ってそうだ。
「千分の一……呆れたわ〜、そんなに借金してたの〜?」
「これでも借金の額の多さは組合でも5本の指に入るぞ?」
「自慢にならないわ〜」
マリーさんも呆れている。
「それよりも、アキもポイントは見てるのか? あれは共同だったからそっちにも少し振り込まれてるはずだぞ」
「え、もう?」
「あら〜、まだ見てないの〜?」
「う、ん」
僕はそっとポイントを見てみた。実はマリーさんと投資をした後から全然見てなかった。……何ですか?! この桁は。
「あら〜、やっぱり特許は良いわね〜」
横からマリーさんが覗いてそういった。
「これって……お金持ち?」
「そうね〜、この家も半分買えちゃうわよ〜」
「そんなに?!」
「どれどれ? お、新人にしては良い数字だな」
僕でこれだけの数字なのに、千分の一しか返せなかったというマシュさんの方がおかしいからっ!!
組合からのもだけど、メレディーナさんからのポイントも多かった。よく見ると、あの新人の交流会後、アストリューの価値が上がっていた。やっぱりあの組合長のピースサインメッセージが効いているんだろうか……。




