133 操作
◯ 133 操作
ティッシヴさんは実が売れてちょっとホッとしていた。僕は取引所の隣にある村のティッシヴさんのお宅に泊まる事にした。マリーさんは調査に本格的に乗り出したので、僕は旧トーイの実の現状を調べる事にしたのだ。妖精達が姿を見せないのはちょっと異常だし、薬というのも気になる。
「まあ、可愛い見習いさんね。私は妻のターシャンテよ。よろしくね」
「はい、こちらこそ突然お邪魔してお願いします」
「今時熱心だべ、トーイの実の事から勉強したいんだなんて」
「あら、古い方でいいの?」
「はい、伝統ある方から学んだ方がためになりますから」
僕は自分でも良く分からない説得をしながら、旧トーイの実の扱いを聞いてみた。どうやら、加工の段階では同じみたいだ。別に失敗とかはなく、加工は簡単で少し熱を通してドロドロになった所に皮を絞って取れた汁を混ぜて魔法で加工しやすい形にするだけだった。失敗とかあるのか聞いたら、あれで失敗するなんて聞いた事ないと言われた。
工場の取引の人と話が全然違った。新トーイの実だけがそうなんだろうか? 良く分からない……。畑の方は色々な作物の合間に植えてあるトーイの木から取る形だった。家の庭と良く似た感じだ。元々は森の中にも自生している物だそうで、それを取ってきては村に植えて数を増やして今の形にしてきたみたいだ。先祖代々の畑なのだそうだ。時々妖精達が来て遊んで行ってくれていたのに最近は姿を見なくなったらしい。
「それはおかしいですね」
「そうなんだべ、村の半分はそう思ってるけど、若いもん達を中心に良く分かんねえ栽培法で魔力の強く籠ったトーイの実が栽培され出したんだ。それには何やら魔法の薬を掛けないといけないみたいだけんど、それを掛けると周りの野菜やら植物がやられてトーイの実だけが残るんだな。隣同士でその薬の影響で野菜が枯れたとか関係ないとか色々と揉めてる所も多いんよ」
エルフ達も妖精が嫌がる事はしたくないって言ってるが、収入の多さが魅力で黙る奴らが増えてきたんだと説明された。どうやら、森の奥では普通に妖精達は暮らしているので、場所を特定しておけば問題ないとエルフはしたみたいだった。
「収入を増やさないといけない事態なんですか?」
「んだ、今まで通りならそんなこたないんだけんど、最近やたらと高くて良いもんが出回ってきて、女連中がそれを欲しがってな。流行とかなんとか言っとるんだが、何が良いのかおいらには分かんねえべさ」
ティッシヴさんは頭を掻いてそんな事を言った。奥さんのターシャンテさんの話と合わせたら何となく分かった。どうやら流行のお菓子、流行の服、アクセサリーからインテリアまで、お金が欲しいというか必要というかそんな感じならしい。流されるものに乗っかって何処までもお金が必要という事みたいだ。
そこに、この新トーイの実の高騰で薬を使ってでももうけを出そうとする人が増えたみたいだった。でも、なんだかこれはちょっとマッタを掛けた方が良さそうだ。
「新トーイの実は実際はそんなにすごいという程は感じなかったんですけど、どうしてこんな事に成る程になってるんですか? 何かすごい製品が作られたとかですか?」
「いや、それがそんなものは聞いた事がないべ。この騒動が始まって三年以上経つけんど、ものすごく良い製品が出来たなんてそういや一度も聞いてないべ」
ティッシヴさんが今気が付いたみたいな表情で首を傾げた。
「それどころか、新トーイの実の製品だって物は見てないわ。いつもと同じ物なら出回ってるけど、どうなってるのかしら?」
ターシャンテさんも首を傾げていた。そこら辺にこの事件の鍵が隠されてそうだ。なんか探偵になった気分だ。その日はそのまま話を聞いただけで終ったが、明日は畑を見てまわる事になっている。隣の国に勉学に行っている息子さんの部屋を借りてその日は眠った。
次の日、ティッシヴさんの家の周りの畑を見せてもらった。トーイの木はヤシの木にも似た感じで、てっぺん近くに実が付く形だった。今はこのトーイの実は売れないので他の野菜とかで生計を立てているみたいだった。しばらく歩くと風景が変わった。トーイの木ばかりが植えてある区画に付いたのだ。確かに他の木や草がない……。それになんだか木も元気がないように見える。薬のせいだろうか?
「昨日、薬をまいてたから近寄らない方が良いべ、こんな近くでされると困るんじゃが」
そう言って自分の畑に被害がないか調べていた。
「木の元気がない感じですね」
「んだ。わかるベか?」
「まあ、少しは……」
僕は隣の畑の土を少し採取しておいた。どうやら定期的に薬を何種類かまかないと育たないらしい。なんだか儲かってもその薬にお金がかかってるんじゃないだろうか? 聞いたら、助成金みたいな物が出ているらしい。何処からそんなものが出てるのか聞いたら、国じゃないのかと言っていた。詳しくは分かってないみたいだ。
しばらく歩いていると、市があったので覗いてみたら、可愛い物が沢山売られていた。服やアクセサリーに化粧品と綺麗な色の物が並べられていた。隣の国からの物だそうだけど、商人の顔がここの人って感じがしない。なんだかナリシニアデレートの人のイメージに合わなかった。そこで小さいアクセサリーを一つ買って、畑の方に戻った。
お昼からは森の中に案内してもらって、野生のトーイの木を見に行った。森の中は空気が綺麗で気分が良かった。しばらく進むとトーイの木がちらほらとあるのが分かった。このまま奥に進むとだんだんと気が濃くなってエルフ族の集落があるらしかった。ティッシヴさんは野菜と木の実の交換をしに行くので、そのまま進んだ。ロバで二時間程進んだ所にエルフの集落があった。そこにもトーイの木ばかりの場所がいくつかあった。が、こちらの木はそれほど元気がない感じにはみえなかった。周りの木が助けてるんだろうか?
妖精達の姿はここまで全く見かけなかった。ちゃんといるのだろうか?
「エルフ達の中でもこのトーイの木は問題になっているみたいだべ」
交換の終った帰り道に教えてくれた。どうやら情報収集してくれたみたいだ。
「そうなんですか?」
「んだ。どうもここの木は周りの木の栄養を吸い出し始めてるって言ってるだが、良くわからんべ」
助けてるんじゃなくて吸い出されてる? それはおかしいな……。
「じゃあ、このトーイの木は取り除く事になるの?」
「そこまでは分からんが、これだけの敷地にあるもんを取り除くと言ったら、大変だべ。大損害だ」
「でも、周りの木に影響してるのなら早く対策しないと取り返しがつかないよ?」
「それもそうだべな」
「なんだか作り替えられてるのかな。その魔法の薬で」
「そんたら恐ろしい事いうでねえべ」
僕は黙った。帰りにトーイの木に触れてみた。何も感じなかった。そっと悪い所がないか調べてみたら、空洞のように感じた。中身が感じられなかった。これって木なのかな? なんだか死体のような気がして来た。気持ち悪い。何でこんな物を放置してるんだろう。おかしいよ。
僕はそこに落ちていた木の葉と土を採取して帰った。夕方にティッシヴさんの村に帰るとマリーさんが来ていた。調べ物は済んだんだろうか? その日も二人でお世話になって次の日に、ティッシヴさんとターシャンテさんにお礼を言って僕はマリーさんとの旅に戻った。
「どうやら、あそこにある在庫は全く動かしてないみたいね。工場にある在庫を使ってあたかもこっちから運んだかのように見せてるのね。実際は運んでないから運び賃が要らないのよ。それに、加工工場は隣の国じゃなくて森の奥に勝手に作ってるのが分かったわ〜」
「じゃあ、騙してるんだね?」
「ええ、それも旧トーイの実で加工された物を新トーイの実の加工品だと言って売ってるの。証拠を掴んだから帰ってきたわ〜」
旧トーイの実に新トーイの実を少し混ぜていいように見せかけた物を出荷しているみたいだった。
「そんな酷い事してたんだ」
「そうね〜、それに隣の国に加工工場があるのは本当だから、一応偵察によるわ〜」
「うん、そうだね」
僕はマリーさんにこっちでの僕の調べた事を話した。
「そう〜、エルフの方も気が付き出したのね?」
「うん、トーイの木が周りの森の木々からエネルギーを吸い出すってよっぽどだと思うんだ。それになんだか木が空っぽな感じがしてすごく不気味だったよ」
「そう、アキちゃんがそう感じるならよっぽどね。その魔法の薬の出所を掴まないとダメね」
ビルベルスター商会を調べる事になった。そう言えば、村の商品を下ろしているのもそこの商会だったと思い出したので商品を見せた。
「あら〜、綺麗ね……樹脂かしら?」
プラスチックっぽい綺麗な色の物だったが、ここの物価からすると高い目の設定だと思う。少し無理すれば手が届く感じの物だ。でも、これを手に入れる為に薬を使うのはなんだか悲しい。きっと騙されてるんだって思うし、その事にきっと本人も気が付いてる。ただ、あれじゃ後戻りが出来ない。そんな風にしかけられてる気がする。止めなくてはダメだ。
「ラークさんにも言った方が良さそうだね」
「そうね〜、隣の国に入るまでに連絡しとくわ〜」
「うん。僕もなんだか嫌な感じだし、少し纏めてから報告した方が良いよね」
このトーイの実の取引所がある街は神殿のある方向とはずれてるから、見落としているのかもしれない。ラークさんもこんな地方までは廻ってないだろうし、何となくだけど、神殿の中の誰かが手引きをしているのかもしれない。嫌な感じだ。
隣の国との境目の森に入った。ここを二日程進むと隣の国に入る。今夜はこの森の中で野宿だ。森を半分程進んだ位置で夜になり、僕達はテントを広げてたき火をした。夜は少し冷える……。報告書と映像をまとめてマリーさんと一緒にラークさんに送った。僕の採取した土と木の葉もスフォラの転移装置で送った。半刻程してラークさんとマシュさんがマリーさんのスフォラーに連絡して来た。
「この土から、妖精の反応が出た。言いたくないが、殺されて加工されたと見ていい」
「そんな……」
僕はマシュさんの言葉に愕然とした。そんな恐ろしい事をする人がいるなんて……。
「それの出所がどこかを調べないとダメね〜?」
「妖精達の姿が見えないとなると、どこかにおびき寄せられて捕まってると考えるしかない。で、トーイの木の分布とそっちの資料を見てこの辺りだと検討は付けた。今、ギダ隊をそっちに向かわせるから、もう一度、転移を準備してくれ。こっちは神殿の中の間諜を探る」
「闘神が動くとこっちの動きがばれるからね。済まないが頼むよ」
ラークさんの目が怒っている。
「分かったわ〜」
そっか、神殿の方もラークさん達が動く為に何か準備してるんだ。こっちは妖精達の捜索が優先事項になった。僕はテントを閉まって転移の準備にかかった。道から少し離れて目立たないように術を開始した。ギダ隊の十人が着いた。僕達を含めて十二人だ。通信で絞り込んだ場所の確認をして移動を始めた。
「アキちゃんはあたしから離れちゃダメよ〜?」
「分かったよ」
「一番妖精の気配には、気が付きやすいから期待している」
「はい」
ギダ隊長が声を掛けてくれた。確かに紫月達の気配とかは分かるかもしれない。僕達は森の中を進んだ。ロバは収納スペースに入れて眠らせている。こういう時はこの収納スペースは便利だ。森の木々の情報を頼りに進んで行く。
木の洞に隠れていた妖精を見つけた。傷ついて動けず警戒していたが、光のベールを洞の前に置いてあげたら、それに包まり出した。なので癒しが効いて落ち着いてから話しかけたら保護する事に成功した。木の洞の辺りから結界が張られていた為、全員で闇のベールを被って中に入り、探索しようとした矢先だった。
土の妖精だった。落ち葉を分解するタイプなのか姿がきのこだ。僕はマリーさんの収納スペースに妖精と一緒に入った。ロバの横で一緒に寝かせるつもりだったが、何やら話をしてくれた。話と言っても頭に直接映像が流れ、感情がダイレクトに届く感じだ。安心させる為に即席のベッドを作って、助ける為の調査に来ている事を伝えてから眠らせてあげた。ベッドは旧トーイの実を敷き詰めただけの物だけど……。
外に出ると、何か術の跡を見つけてそれを記録していた。
「これは妖精達を外に逃がさない為の結界だな」
ギダ隊長が嫌そうな顔で結界の跡を見ていた。
「ああ、似た物を見た事がある」
この術で逃がさないように囲ってから連れ去ったみたいだ。荒れた感じがあるのはそのせいだろう。囲いを伝ってぐるりと廻って確かめた。その中の中心部分に池があるのでそこに闇のベールを被ったまま向かった。辺りを警戒しつつ探りを入れて、一旦集まって情報を整理した。闇のベールの時間が切れるため感知結界の中では脱ぐのは良くない。収納スペースに全員で入った。木の葉の間に収納スペースを隠し、順番に入った。最後に僕が入ればバレないはず。
「便利ですねー」
ナッツさんが僕達の収納スペースを気に入ったみたいだった。
「だから売りには出せないわね〜。アキちゃんが効果を限定出来ないと危なくて悪用されまくりよ〜」
「う、そう、ですね」
「確かに敵に渡ると困るな。部隊が丸ごと運べるなんて危険だ」
ギダ隊長も納得だ。
「これ、僕が持ってない方がいいかな?」
自分の収納スペースを服の下から出した。使い勝手はいいけど、危険性を考えたらこの機能は過剰なんだなとなんだか複雑だった。この中で生活出来ちゃうから、こんな危険な場所でもキャンプスペースに早変わりだ。バーベキューの用意をしているマリーさんに一時、預ける事にした。戦闘地域に持って行くならマリーさんに渡しておいた方が安心だ。
「そうね〜、念のために預かるわ〜」
僕は休憩の間に普通の組合で買った収納スペースを出して、霊泉水とかサンドイッチとか薬とかを入れた。マリーさんが自分のリストに僕の収納スペースを追加した。いい匂いが漂い始めた。
「戦いの準備はまずは腹ごしらえよ〜」
「ビールが飲みたい……」
ミッキさんが呟いた。
「言うな。余計に飲みたくなる」
デリさんが咎めた。
「ジュース、おかわりだ」
ボローさんはマイペースだった。テッシさんが焼けた肉を皆に配ってい世話を焼いていた。二時間程の休憩が終って作戦開始だ。忍び込むからまずは消臭からだね? バーベキューの後は臭うからね……。




