132 捜査
◯ 132 捜査
三日後に到着したトーイの木の栽培地はおかしな感じだ。取引所のある街は何となく緊張した空気が漂い、よそ者を見る目が突き刺さるように痛い感じだった。何かあったんだろうか?
「何か変な感じだね」
「そうね〜、この雰囲気はおかしいわね」
僕達は取引販売所に行ってみた。すると金髪エルフのお姉さんが、受付案内をしてくれてたので色々と聞いてみた。トーイの実が良い魔法アイテムの素材として価値が上がったのだが、それでいざこざや問題が出ているみたいだった。言葉は濁していたが、お客様には問題ないからと言って詳しくは教えてもらえなかった。
「随分な差がついてるのね〜」
「ええ、こちらの新トーイの実は買い手も多く、大口の取引もあるのでそれに合わせた値段になってます」
「でも、旧トーイの五倍以上あるよ?」
三倍は値が張るとは聞いていたけど……こんなに上がってたんだ。旧トーイの値段が下がっているのもあるけど、これじゃ育ててる人のもうけが無くなりそうだ。
「はい、品数が足りずに値段が上がるばかりで……」
「見本は見せてもらえるの〜?」
「はい。こちらが見本の実で、こちらが製品化した物ですが……」
そう言ってエルフのお姉さんはゴムの品質の調査票まで出して比較してくれた。そこまでされるとものすごく良さそうに見えるけど、魔力の籠ってる感じからは旧トーイの実でも十分な気がした。
「新トーイの実は主に何に使われてるんですか?」
「さあ……私にはそこまでは分かりません。お客様の使い道までは追究はしてませんから。あ、転売目的の物は取り締まるようにはしているので、もしそういった取引を持ちかけられても断って下さいね? 犯罪行為として売り買いしている両方を捕まえますから」
僕達は顔を見合わせて内容に驚いた。
「そんな事まであるのね〜?」
「気をつけます。教えてくれてありがとうございます」
「はい。それで今日は取引をされるご予定ですか?」
エルフの受付のお姉さんのシェリルさんはにこやかに本題に入った。
「ええ。旧の方で良いのでこの百セットを五つは欲しいわ〜」
「旧でよろしいのですか?」
「そうね〜、新の方は十個もあれば良いわ〜」
「そうですか。旧トーイの実は在庫がたっぷりございますので、ご用意出来ます。係の物に案内させますので少々お待ち下さい」
暫くして、シェリルさんと来た狸耳と尻尾のおじさんが挨拶した。
「おお、旧の実を買ってくれるんだってな。儂はティッシヴだ。こっちだ。良いやつ持って行ってくれや」
嬉しそうにおじさんが案内をしてくれた。取引所の裏手にある倉庫の方に移動して、現物を見せてもらっていたら、知らない人達に囲まれた。
「よお、売れもしない旧作にしがみついてよ、馬鹿じゃねのか?」
「そろそろ新しい方に移った方が良いぞ? 良い暮らし出来るし、子供にも良いもん買ってやれる」
「そうさ、意地張ってんなよ」
三人の少し若い農家の人らしき人がおじさんを取り囲んで口々に言った。
「だが、土地がおかしいたい。気が付かんかね?」
ティッシヴさんが反論した。取り囲んでいたトーイの実の栽培者達は少しひるんだ。
「あれはちょっと薬をやりすぎただけたい。元に戻って来とるけー、問題ないたい」
「ビリベルスター商会なんつー得体の知れんとこさ、信用出来ねーベ。妖精達が嫌がって森の奥さ行ったままでねえか」
それは問題だ。
「しかしよ、出来てる物は良い物だべ?」
「そうかもしれんけど、土地を汚しちゃ意味ないべ」
何やら言い合いが始まったけど、どういう事だろうか? 薬? 農薬とかだろうか……。害虫対策に虫の嫌がる臭いを散布したり、他の植物を間に入れて一定の虫だけが増えるのを防いだりとかは分かるけれど、それ以上をするのは紫月達は確かに嫌がる。
虫の妖精達も増えたので、うちの庭はバランスよく廻るように気をつけている。食べられすぎてもダメだけど、虫達もお腹をすかせてる状態は良くないので、折り合いをつけれるように色々と工夫がされてる。庭の気を操って沢山の葉を付けたり花を多めに咲かせたり、卵が孵るのを遅らせたり色々されてる事を知っている
。紫月達はただ遊んでるみたいに見えるけど、意外と庭の管理を違う方向からやってくれている。森の中から庭に必要な植物の種を渡してくれたりするので、それを一緒に植えたりして楽しんでいる。それなのに、今ここではそれを壊している様な言葉が出てきた。どうなっているんだろう?
「お金じゃ買えない土地の恵みさ放り出して、そんな訳の分からん薬なんぞに頼ったらいかんべ」
「しかしよ、今じゃ、五倍も値段が上がっとるべ。それだけ良いもんだって事だべ?」
「お前らも、騙されとるけーこっちさこいよ。新しい方が良いからさ、そっちを買った方が良いだ」
取り囲んでいた三人の内の一人が僕達に声を掛けた。
「あら〜? 在庫はないんじゃないの〜」
「多少はあるべ」
「なあ?」
「そんだべ」
何かおかしいな。旧を買おうとしたらこんな風に邪魔をして、在庫があると言って買わせるのって変だ。僕達は新トーイの実の在庫を見せてもらった。……たっぷりあった。
「どうしてこんなにあるのに市場に出さないの〜?」
「なんだ? これはビルベルスター商会の物だべ、新しいのを諦めて旧のを買ってる人の為に特別に置いて下さってるのよ」
「……」
マリーさんの眉間に皺が刻まれた。
「これって転売とどう違うの?」
僕にはさっぱり分からなくなった。
「大本が転売する為に他を封じてるのね〜?」
どうやらそういう事らしい。目的は何だろうか? この変な争いは作為を感じる。地元の人はそれに乗ってはいけないと思うんだけど……。
「どう見ても仕組まれた争いね。貴方達が気が付かないと止まらないわよ?」
マリーさんが探る様な目で彼らにいったが、
「何の事だべ?」
と、一人が首を傾げながらそう聞いてきた。分かってないみたいだ。他の二人は何となく目を逸らしていたので少しは自覚しているみたいだ。
「いいわ〜、これを買ったら幾らなの?」
「特別に四倍で良いさ」
「へえ、安くなるのね?」
「そうだべ。んでここにある工場なら、ただで運んで貰えて安くで加工出来るぞ?」
工場とも手を組んでそうな勢いだ。
「まあ〜、それはすごいのね〜」
マリーさん、棒読みですよ? 目に剣呑な光が灯り出してるし、威圧が抑えれてませんよ?
「お得だべ」
「それで、その工場主は何処かしら〜?」
「あっちの倉庫ださ」
「案内してくれるのね〜?」
「じゃあ、これにサインしてくれよ」
買い取りのサインを見せられた。
「良いわ〜」
「え、良いんですか?」
「良いのよ、実体を調べるには大事だから」
マリーさんに耳打ちされた。成る程、調査ですね? そんな訳で、次の倉庫に連れて行かれた。
「実は、発注が重なってまして、加工の方が間に合ってないんです。この値段ぐらいになるんですがよろしいでしょうか?」
「場所は何処になるの〜?」
「隣の国になります」
「あら〜、関税がかかるから高くなるんじゃないの〜?」
方眉を上げてマリーさんが聞いた。
「その心配はございません。独自のルートがありまして、それで商品をやり取りしてますので殆ど税金はかかりません。というのも隣の国では新トーイの実と旧トーイの実の区別もついてませんから。今だけですよ?」
今だけですよって、怪しいセールスの手口と同じだ。考えさせる時間を与えない巧妙なやり口だ。
「そうなの〜?」
ところで加工ってどうするんだろうか?
「加工って何処までやるの?」
僕が聞くと、取引の責任者は答えてくれた。
「実の中身を丁寧に取り出させていただき、その後、加工しやすいように一旦熱を通しまして皮の汁と混ぜた物を販売しております。この状態ですと、その後の製品化が容易ですし、手間が省けると好評です」
「そう、前段階までやってくれるのね〜」
「そうでございます。この行程は実は失敗する人も多いのですが、こちらではその分も保証しておりますので安心です。では納得頂けましたら、こちらにてサインをお願い致します」
そんな感じで取引が終った。僕達はディッシヴさんの所に戻って、旧トーイの実を五百個程買った。新しい実は十個程サンプルとして欲しいと工場の取引担当の人に話してもらっておいた。加工する新しい実はマリーさんが買った事にして、僕は見習いだから旧の実で修行に使うという事にした。




