127 新曲
◯ 127 新曲
本来なら、まだ仕事であの教会にいるはずなので、僕は予定が狂った事に何をするか迷っていた。現地時間で残り九日間だけれど、もう一度あのルージン神のいるメラードノスト世界に戻るべきか考えた。トリージアシスターがいないなら戻っても良いかもしれない。
「仕事する気になったの?」
僕が荷物をまとめ出していたら、レイが声を掛けてきた。
「うん、中途半端に投げ出してきたから。行ってくるよ」
「そうだね、権威と結びついた信仰としての姿は醜いけれど、あれはあれで都合がいい時もあるからね。ちょっと放置しすぎて腐敗しかけてるけど、ルージンが頑張ってるみたいだから、酷い所は切り取ってると思うよ」
レイが心配は無いと言った顔で言ってくれた。
「そうなんだ。じゃあ、街の人達の憎しみの目は直りそうかな?」
「……そこまでいってるとなると、難しそうだね。アキは行かない方が良いね。下手に刺激しない方が良いよ。ルージンに良く言って聞かせとくよ」
直ぐにレイの目が逸らされて眉間に皺が現れた。なんだか責める口調で最後は言っていた。
「そ、そうなの?」
「そういう微妙な時には、外の力が入らない方が良いからね、余計なものを広げて収集付かなくなったら困るし……アキは庭の世話でもしてていいよ」
「分かったよ」
纏めかけた荷物を元に戻して、のんびりと庭掃除を始めた。妖精達が歌を歌っている。紫月以外の妖精達も歌い出したので、庭はいつも賑やかだったり、落ち着いた感じだったりと歌の調子で変わった。
ポースは今夜の飲み会の予定を聞いてからは発声練習をしていて、新曲の披露だと張り切っている。ポースの歌に深みが出てきた、とレイとマリーさんは言っていた。何か心境の変化があったんだろうか。
「やっぱり仕事は行かないから、ポースの新曲披露を見に行くよ」
「おう、アッキそいつあ良かった。やっぱりサポートが有る無しじゃ違ってくるからな。じゃあリハーサルは出来るか?」
「いいよ。ここの掃除が終わったらやろうか」
僕達はリハーサルをやって、妖精達はそれに合わせて宙を舞った。第二声部を途中から妖精達が歌い出した。時折重なって綺麗なハーモニーが響いた。確かに良い感じかもしれない。二人の言ってた深みってこれかな?
「紫月、ポースがバラードを歌ってるね」
「そう、ミディアムバラードだってレイが教えてくれたよ」
「へえ……恋でもしたのかな?」
「レイがノリの良い曲のあいだに入れると、もっともり上がるって言ってたからがんばって作ってたよ」
「レイのアドバイスを聞いたんだ」
そっか、それで作ったんだ。ちゃんと妖精達のパートまで入れて、今までとは違ってメロディーが主体で良い感じだ。
曲が終ってから、ポースに話しかけた。
「今日は何処に呼ばれてるの?」
「水道局の方だ」
「ナザレさんの家?」
「そんな名前だ」
「水車のある家?」
「そこだ! 良く知ってるな」
「何回か行った事あるよ」
「おうよ、あそこの庭は面白い事になってるぞ、船で渡れば宝島だぞ」
「ポースもあそこに行ったんだ。面白いよね、近所の子供達が自由にお菓子を探しまわってるんだ」
ナザレさんのワクワク島の場所だ。子供達の遊び場にもなっている。ボートレースまで出来るので大人でも楽しめる。
「じゃあ、子供達が来るのかな?」
「そうなのか?」
「時間が早いならきっとそうだよ」
「そういや、いつもより少し早いか……」
「じゃあ、前半と後半で曲目変えておこうか? 子供の場合は賑やかな方が喜ばれるし……」
「成る程な。ファンサービスもちゃんとしとかねぇとな」
「そうだね、好みはあるよね。しっとりと飲みたい人にはバラードの方が良いかもしれないね」
「そうか、またこういう感じのも増やしとくか……」
「そうだね、場の不雰囲気が音楽で変わっちゃうからね。気を使うよね」
「うーん、そういう難しいのは分からねぇが、俺様なりのかっこよさを、じっくりと聞かせる為に作ってるんだ。たまには良いなこういうのも」
「そうだね、確かにポースの違った一面が見れる一曲だったよ」
「そうか、やっぱり俺様の才能は留まる所を知らねえな……。次はもっと期待してくれ、俺様と皆の熱い友情の歌だぜ!」
「おおー、出来上がりが楽しみだよ」
ナザレさんの家に着くとやっぱり子供達が揃っていた。最初は乗りよく始めて盛り上げた。時間が過ぎて遅くなり始めた頃、ポースの新曲が始まった。いつもよりもゆっくりとした大人な雰囲気の歌は割と好評だった。夫婦で踊っている姿とかを所々で見かけた。成る程、カップルには調度良いのかもしれない……。




