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世界を繋ぐお仕事 〜カウンターアタック編〜  作者: na-ho
うつくしいよそおいにかれんなうそをささげよう
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125 出世

 ◯ 125 出世


 星深零の間にいたのはリシィタンドさんだった。偶然に驚きつつ、僕は質問に答えた。


「最後に罰の要望はありますか」


「……はい」


 またしても思い切りよく注文しておいた。心無しか審判の顔が笑っていた様な気もするけれど、気にしないでおこう。マシュさんの要求はまた別だし、良いと思う。新人だというのにまたしてもこんな事になるなんてついてないと思う。折角忘れた頃だったのに、蒸し返されて最近の僕は不機嫌だった。

 外に出ると、ホングが待っていた。中の様子を聞かれたが、僕が余りにも不機嫌で慰めの方が必要だと判断したのか途中から余り聞かれなかった。


「仕事場に、不適切な宝飾品を持ち込んだのが悪いって言われたよ」


「ガラスだろ?」


「うん。宝飾品じゃないよ」


 証拠品だからずっと預けていた物が帰ってきたところだ。ホングに見せた。


「微妙だな……パッと見はそんな感じにも見えなくないか。じっと見たらガラスって分かるけど……綺麗だし、この鎖も凝ってるな」


「僕の手作りだよ」


「アーティストか。なら、盗みたくなるくらい欲しがったって事だから、気に入られたんじゃないのか?」


 からかうようにホングに言われた。


「……思いつかなかったよ。これは皆とお揃いだから渡せないけど、作品が気に入ったのならファンってことなのかな? でも、宝石だと思ってたのなら、売るつもりだったのかもしれないし……」


「そんな事を言われたのか?」


「アメジストとアクアマリンのペンダントだって言われたよ。でも少し気分が良くなったよ」


 苦労して輝きを付けたせいかもしれないと思うとちょっと複雑だけれど、もしこれを欲しいと思ったのなら少しは許せそうだった。


「奪おうとするのは良くないな。わざと人の信用を貶めてから取り上げようとする方法は、ちょっと人道的にどうかと思うよ。それに、上手く無人島に落ちたから良かったけど、他だったらもっと酷かったかもしれないだろ? 海の中とか、空の上とか……気を失ってたんなら余計に危ないよ」


「う、そうだね、そこまで考えてなかったよ」


 一歩間違えば死んでたんだ……いや、死んでるしこの体で言えば故障だけど。もしかしたらそれを狙ってたかもしれない事に、今度はぞっとした。こんな物一つでそこまでされる覚えは無い。


「だからそんなに怒ってると思ったぞ? 何に怒ってるんだ?」


「それは……」


 僕はスフォラが壊れてから、言葉が通じない上に、手錠をかけられて鉄格子の馬車から丸一日出して貰えず、トイレも無かった事を言った。


「苦労したな……。ヴァリーとの旅行でもそこまでは無いよ」



 次の日は断罪の儀だった。僕はリシィタンドさんに、もし僕のこの作品が気に入ってした事なら少しは許しても良い、と言って新しく作ったガラスのペンダントを渡しておいた。

 僕の罪は無かった。宝飾品ではなくガラスアートで、作者なのだから持っていても仕方ないと言われた。ただ、美しい物は狙われるから、次からは自覚して仕事場では気をつけるように言われた。言いながら、何故か吹き出されたけれど、何がおかしかったんだろうか?


「マシュさん。どうでしたか?」


 外で待っていたマシュさんに聞いてみた。


「ああ、戻ってくるぞ。当然だ。明らかに殺意があったろうが」


「そうなんだ?」


「…………」


 何かものすごく言いたげな目が返ってきた。……もう一回映像を見直しておこう。吹き出された事と同じな気がする。

 家に帰って庭で妖精達と遊んでいたら、レイが帰って来た。


「また要求したの? 何かやるみたいだよ」


「また通ったの? どっちをやるんだろう」


「なんて言ったの?」


「……笑わない?」


「いいよ」


 既に顔が笑っている事は、もう仕方ないとして説明した。


「僕が経験した無人島での四日間の生活と、鉄格子で手枷を付けて丸一日揺られて移動するんだ。トイレ休憩無しで。それがダメなら、嘘つきな彼の為に、星深零の皆とずっと過ごすと良いと思うって提案したよ」


「それで、星深零の区画に移動が決まったんだね。エリートの区画だから、出世だと本人は思ってるよ?」


「そうなんだ? 本人には罰だって言ってないの?」


「みたいだね。彼、耐えれるかな?」


「さあ……」


 リシィタンドさんからガラスのペンダントが返ってきた。フォーニさんにガラスのペンダントが欲しいか聞いたら、要らないと言って投げ捨てられたらしい。……残念だ。ちゃんと光の魔結晶付きなのに。これが付いてたら結構価値が出るのにな。


「まあ、あそこで面倒見てくれるなら、借金も返せるだろ。一石二鳥じゃないのか?」


 マシュさんは気分が良さそうだった。


「そうだね、良い提案だったね。彼の矯正にもなるだろうし、それが成功したら三鳥だね?」


 レイも楽しそうだ。


「途中で壊れなければね〜。あの区画からは許可が無いと出れないんでしょ〜?」


 マリーさんは少し心配しているみたいだ。


「大変だね。あそこで勉強する事って、難しい事だらけだよ?」


 考えたらあの区画の勉強は、生半可じゃ無理だと思うんだけど……。


「努力は罰だから強制だろう」


 マシュさんの台詞は厳しい。


「借金が終るまでは組合も逃がさないと思うよ」


 当たり前のようにレイが言った。


「そうだな、あれは仕方ない出世だ」


 マシュさんも頷いて納得の表情だった。……出世も身の程にしないと大変そうだ。


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