12 都合
◯ 12 都合
「こんにちは、鮎川君だね?」
「こんにちは……」
誰だろう、知らない人だ。夢縁の食堂で話しかけられたが、覚えの無い人だった。ちなみに今日はあったかスープとオムライスのセットだ。
「あの、前にお会いしましたか?」
「いや、初めましてだよ。実は謝りに来てね。僕の後輩が強引に君を勧誘したみたいで、怒らせたみたいだし気分を悪くしていそうだから、立ち上げた僕が直接謝りに来たんだ。済まなかった」
勧誘の言葉でああ、と思い当たった。あの銀枠の勉強会とかいう……あれか。深緑のジャケット、という事は二年以上前からの生徒だ。頭を下げてちゃんと謝ってくれた。
「そうでしたか、それはわざわざすいません。こちらも切れたりして大人げなかったです」
と、一応頭を下げた。
「ああ良かった、話しの通じる人で。それで、許してもらえるだろうか?」
「はい、そんなに怒ってないですよ。勉強会頑張って下さい」
そう言ったら、苦笑いを浮かべてこっちを見た。
「やっぱり入っては貰え無いみたいだね」
「はい、その今は余裕が無くて……」
「なるほど、では入る事で余裕が出来るのなら?」
「……あー、ここでの勉強もなんですが、リアルの方も忙しくてちょっと難しいんじゃないかと」
「なおさら、入った方が良いよ。授業の意見交換や、試験の対応策を皆で共有しているから」
「情報交換ってことですか?」
「そうだよ。金枠の生徒達同士でも派閥で分かれてそういったものがあるみたいだけど、銀枠はそんな派閥は無いからね、皆で協力し合えればいいなと思ってね」
ちゃんと活動内容を教えてくれたし、悪い人ではなさそうだ。
「そういう勉強会だったんですか。それなら参加の意味はありそうですね」
でも、あの勧誘の仕方だと活動を広げる為のノルマとかあったりしないよね?
「本当? 良かった。勧誘した人には何も説明されなかった?」
少し探る様な感じで聞いてきた。正直に答えておく事にする。
「はい、ただ、お願いだからと頼まれて。自分達の都合しか言わないし、泣きまねとかしてなんだか怖いくらい必死で、危ない宗教の勧誘みたいでしたよ?」
アチャーと顔を片手で覆って先輩は項垂れてしまった。
「それは、もう一度謝るよ。ごめんね? 全く何をやってるんだか」
早川 兼常先輩とその後、メール番号を交換し、ホームページのアドレスを送って貰って別れた。
この後はまた眠りの術の講師だ。気合いを入れ直して向かった。今日は呪符、魔法陣等の記号の有効活用だった。記号、模様、図形、絵、文字 数字と色々と説明された。何処にどう組み込むかで変わるとかなんとか、最後に簡単な呪符の組み合わせを集めた本の紹介だった。
そういえば、購買で呪符って売ってた気がする。本を見て自分で作っても良いのか。まあ、無理とは思うけど考えてみるのは楽しいかもしれない。
購買で本が売られてたので買った。後、購買の人に魔法陣の本も勧められたので買ってみた。中級編は図書館においてありますと言われた。どうやらそれは貸し出しは無理のようだ。上級編は危険なので僕達には読む事は出来ず、第一図書館にあるらしい。白か黒ブレザーにならないと見てはダメなようで、何となく分かる気がする。
中級編は図書館でぱらぱらとページを捲って目を通しただけで、複雑怪奇で目が回りそうだった。それに僕にはここまでのものは必要なさそうだ。今の段階では理解出来る自信が無い。
「あれ? 君は……えーと」
本棚の前で本を元の場所に戻そうと、あった場所を探していたら、横から声を掛けられた。
「あ、こんにちは。また合いましたね、鮎川です。え、と、加島さん」
確か前に図書館であった人だ。スフォラに教えて貰って名前を言った。
「そうそう、そうだった鮎川か。うん、思い出したよ」
「また、本の寄り分けですか?」
加島さんの抱えてる本を見て、個室で選り分けてたのを思い出した。
「ああ、そうなんだよ……その本は難しいだろ? 僕も無理だから諦めたよ」
「はい、意味不明です」
僕の戻そうとしている本を見て、加島さんは苦笑いした。
「やっぱり、そうだよな。それを理解出来る奴は天才だよ」
大きく頷き、目が分かるよと同じ意見な事を強調していた。
「本当ですね……難解すぎてやる気が失せます」
「だろうだろう、じゃあ、またな鮎川」
「はい、加島さん」
ここに来るとあの先輩と会うみたいだ。第一図書館は難解な本が多いから、ここに入ってるのかもしれない。




