121 泥棒
◯ 121 泥棒
夏休みに入った日本は暑かった……。姿は二、三時間ぐらいは普通の人として可視化出来るようになってるので、従姉妹として家族と一緒に小福モールに出かけている。
「このパンツはお姉ちゃんとお揃いっぽいね」
妹が僕のと自分の服と比べている。僕はクロップドパンツに夢縁のポロシャツを合わせている。
「どっちもマリーさんのデザインだし、色違いだよ」
「娘が二人も良いな……」
父さんはさっきから顔が緩みっぱなしだ。家族で出かけるのは本当に久しぶりだから嬉しいみたいだ。
「夏休みはさすがに人が多いわね、千皓ぶつかっちゃダメよ?」
母さんには気を抜いて幽霊だとばれてはダメだと注意された。
「うん、気をつけてるよ」
なるべく皆の真ん中を歩いている。皆と同じように認識されるのはちょっと嬉しい。幽霊も中々良いけれど、一緒に出られないのはやっぱり寂しかった。夏の買い出しを色々と済まして何事も無く家に帰った。
玄関を開けて入ったら家の中がぐちゃぐちゃだった。家族全員で驚きリビング辺りで固まっていたら伊東さんが振り返ったので、お福さんを抱いているのが見えた。
「伊東さんこれは……」
「帰ったか。もう、大丈夫です」
「大丈夫には見えないわ……」
母さんの意見はもっともだ。一体何があったというのか、リビングの強化ガラスが割られているしソファーは焦げてるみたいだし、テレビも真っ二つに割れている。玄関との間の壁は大穴が開いてるしキッチンはなんとか無事みたいだけど、テーブルの上の照明が天井から傾いてぶら下がっている。まるで乱闘があったかのようだ。いや、あったんだ。
「誰か襲ってきたんですか?」
上階から加藤さんが降りてきた。質問には加藤さんが答えてくれた。後ろにいるのは死神だ。
「ああ、全員捕まえた」
「一体何が……」
「説明するので座って……」
ダイニングテーブルはよく見ると足が一つもげてるせいで傾いていた。加藤さんは頭を掻いて苦笑いした。急遽片付けが、全員で行われた。
もげた足は添え木をして適当に釘で繋げたのでなんとか立った。床は穴があちこち開いていたけれど、靴のまま避けて歩く事になった。二階はどうやら無事なようで、今夜はちゃんと眠れそうだった。
なんとか机にお茶を運んで、聞く体制を整えてから加藤さん達の話を聞いた。
「前に襲ってきた者の仕業だった」
「タキの……」
「いや、ティランという女の方だ」
話の続きを聞くと、転移装置を奪いにきたみたいだった。正式に神界に入れる物なのでこっそり忍び込んで持ち出すつもりでいたらしい。神界警察の防犯カメラに捉えられていたので事前に家の中で待ち伏せて捕まえたみたいだ。ティランという女が来ていた訳でなくて仲間が来ていたらしい。
「どうやら、ヘラザリーンに切られたみたいだな。ティランという者は。だからか、異世界に自由に出入りが出来る手段を欲しがったみたいだ。余り日本の仕組みに詳しくはないようだから、この計画では強引な事に気が付かなかったみたいだな」
「じゃあ、また襲ってきたりは……」
「それは無いだろう。捕まえた者達の記憶の処理をしてから返して、目的の物ではなかったと報告させるからな」
「では、大丈夫なんですね?」
母さんが確かめていた。話の半分も分からないと思うのに、ちゃんと安全かどうかを確かめていた。
「ええ、問題ないはずです。ここもまた工事させて貰いますので、安心して下さい。我々もこちらの警戒を強めます」
どうやら、またここのセキュリティーが上がりそうだ。あの転移装置を狙うという事はそれだけ異界を渡るのが難しいという事なのかもしれない……。でもどうやってティランはこっちに入ってきたんだろうか? 確か出て行ったはずだったと思うけど。
「ティランはこっちに戻って来ているんですか?」
「いや、こっちにいる者に夢からの指示だったから、外だ」
「じゃあ、まだこっちにティランの手下がいるんですか?」
「そうなるな。だから彼らを返したんだ。仲間の所に誘導してもらう」
どうやら作戦として続行しているみたいだ。
「捕まると良いですね」
「ああ、期待はしている」
加藤さんも伊東さんもちょっと笑顔を見せた。捕まえることが出来ればここを襲う可能性のある者はいなくなりそうだ。僕達はホッとした。
加藤さん達は念のために今夜はリビングで警戒をしていてくれるみたいだ。僕達家族はお風呂に入って皆で固まって眠った。




