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116 孤立

 ◯ 116 孤立


 七月に入り、梅雨が明けた。妹がすごく気持ち悪い人が学校にいると相談してきた。何でも、その人の悪口を言うと怪我をするらしく、呪いが掛かっているという噂が出ていて誰も近寄らないらしかった。


「じゃあ、見に行ってみるよ」


「うん、気をつけてよ。お兄ちゃんはすごく弱そうだから」


「そ、そうだね、気をつけるよ」


 暑くて幽霊にも厳しいけれど、妹に付いて学校へと向かった。景榎(けいか)学園と書かれた校門を通って、中に入って行った。僕の通っていた高校と比べると随分と綺麗な学園な気がする。

 妹がここのフロアの教室だ、と小声で言って案内してくれた。どうやら二年生の教室のフロアで、一年生である妹には用もないのにこれ以上は進むのが難しいみたいだ。C組の岡田という名前の女の子だと聞き、

 僕は慎重にそこに近寄って教室を覗いてみた。まだ、授業が始まっていない為に、みんなバラバラだったが一人でいる女の子はすぐに分かった。しばらく見ていたら、いきなり振り返って僕を凝視してきたので慌てて隠れた。


「どうだったの?」


 妹が待ち合わせのふりで、階段の踊り場で待っていてくれた。


「何か目が合ったよ。でもすごい怖いんだけど……」


「でしょ? 目が合うとあの睨みが怖くて……みんな避けるの」


「分かるよ。あれじゃ声を掛けれないね。伊東さんか、加藤さんに放課後辺りに応援を頼むよ。玖美は授業に戻っていいよ」


「うん、無理しちゃダメだよ? お兄ちゃん」


「ありがとう」


 そこで僕達は別れた。僕は授業の始まるチャイムが鳴るのを聞いた。さて、放課後までは時間があるから、マリーさんとの買い出しを先に済ませようと階段を下り始めた。ぞわりと背筋に寒気がして後ろを振り返ったら、あの岡田という女の子が階段上の縁に立ってにたりと笑っていた。

 怖すぎて僕は走って逃げ出した。スフォラにいつも通り誘導して貰いながら、玄関口までひたすら走った。神界警察にも映像付きで送った。近くにいるマリーさんにも助けを求めて、外に出ようと校舎から一歩外に出た。瞬間、中に引き戻されたかのように玄関に戻ってしまっていた。


「ええっ?」


 振り返ると玄関口に渡り廊下から入ってきた岡田さんが、後ろの下駄箱の影から現れた。


「お前、何?」


 目が合った瞬間に岡田さんが聞いてきた。


「えーと、幽霊です」


「じゃあ消えたら?」


 狂気に血走った目が僕を捉えている。池田先輩よりもやばい感じだ。


「……どういう意味でしょう」


 聞いている間に、どういう意味か分かった。異常に伸びた爪に禍々しい瘴気を集めて、長く物質化した爪で襲いかかってきたからだ。


「ひぃー」


 切り裂かれた服を見て悲鳴をあげつつ岡田さんから離れた。


「ふはははっ、消えろ! 逃げるな!」


 普通は逃げるから! 異常な瘴気を感じて振り返れば、口から瘴気の固まりを吐いて飛ばしてきた!


「いっ、やーっ! 出たーっ!」


 思わず叫んでしまった。怖過ぎる! もう、ホラーだから! 口から吐き出された瘴気は調度耳の横辺りの壁にぶつかり消えた。なんとかそれで叫んだ後の体の硬直が解けて、きびすを返して逃げた。スフォラに闇のベールで隠れるように言われた。ありがとう、忘れてたよ。怖すぎて、逃げるにも足が震える。なんなんだ! あれは!


「狩りをしなくては。あたしがあの世に送ってやる!」


 こんなに騒いでいるのに、どうして誰も駆けつけてこないんだろう? 空間がおかしいことにやっと僕は気が付いた。玄関口から出られずに、この空間だけに閉じ込められている。闇のベールを被って、もう一度外へと幽霊らしくガラスドアを通り抜けて出てみた。今度はなんとか外に出れた。校門に向かってそのまま走った。

 岡田さんは、憎しみの籠った顔で、僕の出た空間を引きちぎるかのように消して、こっちに走ってきた。影から出て日の光の下を走っているからばれてる。


「はああっ!」


 後ろからの瘴気をスフォラの誘導で避けて、校門へとひたすら走る。目の前で校門をあっさりと乗り越えて入ってきたマリーさんは、こっちに走ってきながら、闘気を手に溜めているのが分かった。


「マリーさん!!」


「アキちゃん! 伏せて!」


 僕は後ろも見ずにすぐに伏せた。伏せたというよりも走っていたので、スライディングした感じだけど……。頭上を闘気が通り過ぎたのが分かった。その後も何発か間髪入れずにマリーさんが、両手でばしばしと闘気を練った力を飛ばしていた。僕はその隙に起き上がってマリーさんの後ろに四つん這いで移動して回り、岡田さんの様子を見た。

 全身から瘴気が溢れ、ゆらゆらと黒い影のように体の周りを包んでいた。体も、黒い斑模様が出来ていて、とても人間には見えなかった。


「ダメね、もう、理性が無いわ」


「そんな……」


「があああぁっ」


 そこに神界警察と死神の黒スーツの人が現れて、岡田さんを囲んでの戦闘になった。僕達はそれを遠くから見る形になった。だけれど、何故か僕を狙ってその囲みから出ようと岡田さんは暴れまくった。その異常な執着に怖くなって震えていたら、マリーさんが抱き寄せてくれて大丈夫だと慰めてくれた。


「本能で分かるのね、取り込めそうな者が。余計に苦しいのに……どうしても手を伸ばそうとするのよ。アキちゃんはああいうのには目を着けられやすいから、気をつけないとダメよ〜?」


「どう、して……」


「美味しそうだから〜」


 マリーさんがおどけて言った感じが、おかしかったので、ちょっと緊張が解けた。岡田さんはそのまま捕まり連れて行かれた。あそこまで闇に捕われた人間はもう、自力では戻って来れないらしい。そのまま学校の皆からおかしかった時の記憶が消されて、しばらく池田先輩と同じように入院生活という事になった。

 董佳様から、まだ理性を失って直ぐだったから、魂は綺麗に出来ればまた生活出来ると聞いて少しだけホッとした。妹の記憶からも岡田さんは消えた。この事に関してはその方が良いと思う。僕も説明が出来ない。


「この人、メーイデル教団に入ってた人だよ」


 神殿であちこち擦りむいたり瘴気が掠めた所を治療してもらっていたら、レイがいつも通りスフォラの映像を確かめて、新しい情報を口にした。


「え?」


「そうだったの〜?」


「うん、レイカちゃんがさっきそう言ってたよ。灰影だけれど誤摩化して夢縁に入ってたから、あの空間の術も使えたんだろうって」


 どうやら、この映像を董佳様にも送ったらしかった。名前と、容姿が一致した事から、元夢縁に通っていた灰影の人だと分かったみたいだ。


「まだ残っていたのは驚きだけど、あの様子だと普通の周りの環境に、なじめなかったんだと思うって、言ってたよ」


 仲間がいなくなってしまって、どうすれば良いのか分からずに、孤独と焦りで余計に理性をすり減らしてしまったんだろうと見られている。取り敢えずは捕まってよかったと思う。


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