110 過疎
◯ 110 過疎
僕はホングとヴァリーと一緒にクリッパーランダ世界にいた。勿論仕事だ。転移装置の設置の仕事は二人に取っては美味しいらしく、依頼を見つけたので取って来たみたいだった。今度設置する場所は、熱帯雨林な気候の国の中に家を建てる所からならしい。……あのー、その依頼は僕が役に立つと?
「勿論だ。国と言っても村が点在する程度だから、家さえ立てればこの国では立派に住民になるって書いてある。で、テントさえ立てれば良いってことだ。後はゆっくり小屋を建てれば良いだろ?」
成る程、テントの中に転移装置を置いて技術者を呼んでしまおうっていう作戦か……。うまくいくだろうか?
「なんだかまた酷い目に遭いそうな気がして来た」
「大丈夫だって、楽勝だよ」
ぼくはスフォラに木の家を立てる方法を調べておいて貰った。ここの通貨はたまに買物に来ているので持ってはいるが、国が変わると通貨も変わるみたいだから、両替をした方が良さそうだ。
「ちょっと待ってて貰っても良いかな?」
「? なんだ? 抜け駆けは止めろよ」
「食料を調達してくる」
現地の話を聞いて、食料はもう少し用意した方が良さげなのに気が付いた。
「なんだ。付き合うぞ?」
と言ってくれたので、二人を連れてリーンベイトの港町に移動した。そこで一週間分の食料を買い込んで、収納スペースに入れた。ついでに両替商に行って件の国の通貨を調べたら、住民同士は物々交換が主だった。通貨はあるけれど取引出来ない程価値が下がっているらしい。
更に詳しく聞いたら、自由貿易国のナハージン国との交易があるのでその通貨が周辺では出回っていると返ってきた。なのでそのナハージン国の通貨と交換して貰った。
組合の新しく更新された地図を見ながらナハージン国の位置とこれまでの転移装置の位置、それからこれから行く場所の位置を見た。まだ世界の十分の一ぐらいにしか管理組合は転移装置を置いていなかった。ナハージン国にも置かれていない。何かあるんだろうか?
スフォラにその辺りを調べて貰ったが、答えは無かった。後でマリーさんにメッセージで質問を送っておこう。
僕達は三つ先の国まで転移装置で飛んだ。北の方は別の人が転移装置を据え付けているみたいだ。僕達は赤道直下ぐらいの小さな島国に向かった。聞いた通りにその近くは既にナハージン国の通貨が有利だった。信用度が違っていた。
「統一通貨じゃないのは面倒だな」
船の上でヴァリーは面倒くさそうに言った。
「確かに。でも割と多いみたいだから、慣れた方が良いんじゃないか?」
ホングがヴァリーにダメ出しをしていた。
「そうだよ、ヴァリーは旅行関係だし」
「分かっているが硬貨が増えるのは困るだろう。財布の中身がごちゃつく」
変なことを言っているヴァリーに、まさかと思いつつ聞いてみた。
「普通、財布ごと変えないかな?」
「? なんだ?」
良く分かってなかった。
「通貨ごとに財布を増やすと良いよ。中身が混ざらないし見やすいし。何処の通貨か書いとけば迷わないよ?」
「良い案だな。採用しよう」
ビックリだ。普通考えると思うんだけどな。
「今までどうしてたんだ?」
見せて貰ったヴァリーの財布は中がぐちゃぐちゃだった。お金はお金としてしか認識してないのかな? 仕方ない、後で整理して上げよう。僕の財布を見せてた。二カ国対応の財布でチャックが二つ付いていて、一方がアストリューでもう一方がクリッパーランダだ。地球の財布は紙幣が入るのでまた別で置いてあって、神界用と人界用と分けてある。
クリッパーランダの通貨が増えたのでアストリューとは別の財布にしようかな。マリーさんの作ってくれた鹿革の財布を見ながら、そんな事を考えた。今度はがま口の財布も良いな。靴作りの為に皮の扱いにも慣れた方が良いと言われて、鹿革で巾着袋ぐらいは作っていたりする。その内にベルトやアクセサリー、財布と広げて行こうと思っている。木の皮とかも良い物はこの動物の皮と同じようにいい味が出るのがあって、それも捨てがたいと思っている。どちらも生きていた物同士愛着が湧く。
「後で巾着を作って渡すよ」
「分かった」
「ホングは? 足りてる?」
「ああ、巾着は一つくれると有り難い」
今回は確かに僕も予測してなかったから巾着は持ってこなかったな……。今度から通貨が増えたとき用に持ってきておこう。旅行のリストに書き加えておいた。なんだか荷物が増えて行ってる気がする。ヴァリーの事が言えなくなってきた。今度ちゃんと厳選しよう。暫くして港に着いた。
「なんにも無いぞ?」
「村が見えるよ? あれがそうじゃないかな?」
「まさか、うちの町より小さいぞ?」
「村だからそんなもんじゃないのかな?」
三十人足らずの村が見えた。行ってみるとやっぱりそこが国の主要な入口の村だった。村人に聞くと、家を建てるならこの付近はダメだと言われた。住人募集している村は隣の隣にあるチコトソ村がそうだと言われた。
大雑把に地図を書いて貰ってそこに向かって行った。話の感じから歩いて三日ぐらいかかるみたいだ。飛行能力のある者はこの辺にはいないみたいだ。この世界では少し珍しい方に入る力だったので、僕達は村人達の前では自重した。あの盗賊達は意外にも精鋭部隊だったんだと今更ながらに感心した。何処で道を間違えたんだろう。不思議だ。
「ところで、付けられてるこのパターンは余り良い予感がしないんだけど……」
海岸をぐるりと歩いている間にジャングルの中に人影がちらついているのが見えた。
「そうだな、嫌な感じだな」
「思い出したくないな」
二人とも渋い感じの顔で本当に嫌そうに言った。
「一応話を聞いた方が良いと思うんだ。ちらっと見えたけど、話をしてた人とその他の人っぽいし」
スフォラが望遠機能の目で確かめてくれた事を伝える。
「やっぱりか? 盗賊って感じじゃないけど、でも剣呑な感じはちょっとあるんだよな……」
「嫌だな……子供もいるぞ。荷物を置いて行けとかか?」
「村の感じからすると、これで生計を立ててる気がしてきた」
慣れた様子なのが気になる。
「確かに何も無かったし、船が来たのに何の荷物の取引も無かったのは怪しい。一人捕まえてみるか?」
そんな事を話していたら攻撃され出した。ナイフが飛んできたので僕達は逃げ出した。ジャングルの中を進み先頭で仲間と離れすぎた一人を捕まえて、気絶させてから木の上に隠れた。三人で引き上げたので苦労はしなかった。
「で、他の村に人は本当にいるのか?」
他の村人が諦めて帰った後、僕達は尋問を始めた。
「分からねえよ。皆、働きに行ったきり、か、帰ってこないんだ。ナハージン国に行ったら帰ってこないんだ」
「何でかは知らないんだな?」
「ああ、分からねえ」
答える度に諤々と頷いて必死に目で本当だと訴えてきている。
「この島の人達は、出稼ぎに行ったきりなんだ?」
「ああ、老人と子供しかいねえ」
確かに村の人は年齢が高かった気がする。言うこの人も皺が顔に目立ち始めている。
「旅行客は襲ってどうしてるんだ? 殺すのか?」
ヴァリーが聞いた。
「仕方ねえだろ? 俺達だって死ぬかもしれないんだ」
「あーでも余り成功してないんだろ?」
もう一度ヴァリーが聞いた。
「何でわかんだよ」
村の男は情けない声で聞いた。
「そんな感じの動きだった。付けるところまでは良いんだがそこからの動きがな、挟み撃ちするとかもないし素人過ぎて」
「そうだったの?」
「アキ、分からなかったのか?」
……二人ともそんなに呆れる事無いと思うんだ。そんなの分かる訳が無い。泥棒に追いかけられるのなんて二回目だよ。
「素人がここにもいた……」
村人の話を聞いて何となく分かった。通貨の信用度からして、ナハージン国は経済的にかなり強国であると。で、そこに行ったらここには帰ってる気を無くすんじゃないかと。もしくは都会の生活で騙されて帰って来れないか……。そんなところだと思う。
設定が甘すぎですが、お許しを……。
そして最終章に向けて分かりにくい話に突入予定です。しかもかなり特殊な独自解釈をやらかしてますが、余り深く考えずにサラッと流すくらいで大丈夫です。作者も太鼓判な適当な設定です!




