109 提供
◯ 109 提供
そんな事をしている間に、日本では梅雨が明けようとしていた。
「ジメジメいや〜。なんとかして優基〜」
成田さんにしなだれ掛かって甘えていた沖野さんは、
「無理だから」
と、何か難しそうな本を片手にしていた成田さんに体を捻って避けられていた。
「千皓クーン、優基が冷たいの〜、助けて〜」
大げさにリアクションしながら、助けを求められてしまった。
「冷たさを提供しているんじゃないかな?」
「ハッ、そうだったの〜? 気が付かなかった……」
「そんな訳ないだろ」
「「違うの?」」
「う、あ、いやまあ」
「相変わらず変な事を言ってるな」
「そうだな。ここのアイスは美味いが、値段が高いのが学生には痛いな」
僕達は時計塔前の噴水広場の芝生に座り込んでいた。木の陰はまだ風が吹けば良い感じだった。珍しく木尾先輩と加島さんもいる。
「勉強会は最近どうなんですか?」
「法則が見えない。行き詰まっているな……」
「二人とも器用だから、何でも出来るのが良くないんですよ。得意はなんですか?」
「分からん」
木尾先輩が答えた。
「速読……」
加島さんが答えた。
「す、好きなのはなんですか?」
「金勘定」
「貯金」
「……金融機関にでも行くんですか?」
「良いかもしれない」
「夢縁銀行に潜り込めないかな」
「どうだろう、あそこは入れるのか? 入った奴らを聞いた事が無い」
「神界関係で纏められてたら狙っても意味が無い」
「講師とか?」
また聞いてみた。
「教えるのは得意じゃない」
「安月給だと聞く」
「頑張って下さい」
「もう諦めたのか?」
「はい。無理でした」
「「早っ」」
「考えたら僕も成り行きばっかりで、こうって決めた事は少ないです。興味があったことの延長が多い気がする」
「興味ね……」
「梅雨明けが何時なのかは興味あるな」
「確かに……」
「夏休みはどうするんですか、みんな」
夏期講習があるとか、塾に入り浸りだとかそんな答えだった。沖野さん達も海に行く計画があったけれど、ほぼ塾で埋められていた。僕も仕事三昧になりそうだ。
夢縁は夏休みはあったけれど、八月の一ヶ月間だけだった。自分で調節して二ヶ月とか休んでも良いけれど、僕がやると勉強が遅れそうだった。通信の高校の勉強はマシュさんとマリーさんに教えて貰いながら、なんとか付いて行っている。
「そういえば、あれから草ブレザーは増えてないな」
「空ブレザーに昇格した奴もいない……」
「何が足りないんだ?」
「凡庸なままだと困るよ……」
「弟は二つ星から上がったのか?」
「いや、上がってないな……。夢縁に来ているのかすら分からない」
「夢縁に入る大人はあれからあの実力テストを受けないと入れなくなってるって聞いたか?」
「というか、一般になった奴ら全員だろ?」
「過去の栄光も書き換えられる、って戦々恐々みたいだぜ?」
「で、成績よかった人は何か声が掛かってるって聞いたぜ?」
「本当か? かなり入れ替えが激しいな」
「何が起ってる?」
「さあ……」
どうやら怜佳さんは一般人になった人も、その後も入園の際は一度実力テストを受けて貰ってるみたいだ。結果は一般人なので評価は表には出ないけれど、成績優秀者にはスカウトをしているみたいだった。どうやら職員が足りていないみたいだ。実力テストの基準を超えてない人は次々と容赦なく左遷させてるせいだと思う。
まあ、過去にお金で単位を買ったかどうかはテストで丸分かりだから、自覚のある人は夢縁に入り辛いはずだ。
「そういえばなんか主婦の人が新しく入学して来たって聞いたな」
「そんな年齢で初めて入ってくるなんて、今まであり得なかったろ?」
沖野さん達の仕業だ。近所の三十代の主婦が超能力を持っていると噂だったので確かめたたら、透視の力を持っていたらしい。で、声を掛けて話を聞いて伊東さんと面接したらしい。うまくいけば草ブレザーは確実だ。
「今まで見過ごされてた人がいたんだね」
「これからだよね〜」
「ああ。しかし、働くようになったら離婚するって言うのはきついな……」
確かに。それについては部外者な僕らは何も言えないよ。その内に僕達のやっている調査活動も、地域の密着型の人には有利な仕事として夢縁の仕事に出てきそうだ。
それは試しに動いている僕達の活動が成功するかどうかに掛かっている。活動困難な時は次の人に引き継ぎをするように取り決めもあるし、伊東さんがやってるようなサポートも充実させて行くみたいだった。まあ、人材を確保しつつのゆっくりとした活動だから焦る必要も無い。新しい働き口を増やしているってことだと思う。




