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108 説得

 ◯ 108 説得


「次に無礼を働いたら、式の間中は音楽はこれにしてやるぞ」


 そう言ってヘッジスさんは僕のベールを二人の花嫁に渡して、僕に目配せをした。良いのかなぁ、本当にやって。僕はヘッジスさんから睨まれる事になった、あの音を聞かせてあげた。ベール越しに聞こえるその音は周りにいる僕達にも被害が来たけれど、花嫁達がベールを投げ捨てるくらいには効果があった。


「なんて事するの?!」


「酷いわ! 式を台無しにする気?」


「お前達の行動をよく振り返ってから、その台詞を言え」


 二人は悔しそうに唇を噛んで僕達を睨みつけていた。こんなので、おめでたい結婚式は出来るんだろうか? 祝福はどこかに行ってしまいそうな気がする。


「紹介した十人以上を断って、更にアキのベールの取り合いで死神の組合内を引っ掻き回して無茶苦茶だろう」


 ヘッジスさんも負けずに睨んでいた。


「ちゃんと、お願いしたはずよ。その返事もせずに逃げたりする方が礼儀がなってないわ!」


「そうよ、あのとき逃げたじゃないの!」


「その前にお前達が断っただろうが。それに貸してくれとは言ってなかったはずだ。いいとは言っていたが、まだその前の段階だった」


 ヘッジスさんはイライラをぶつけるように、二人の花嫁に向かっていた。


「それにまだ本人に貸して欲しいとは正式に依頼してないぞ、二人とも」


 ドゥーフェスさんが、横からだめ押しをしていた。


「そんなはずは無い……」


「知らないわよ?! でもあそこで逃げるなんて、卑怯じゃないの」


「そ、そうよ」


「逃げ出したくなる程酷いんだ。自覚した方が良い」


 ドゥーフェスさんがそう言った。僕は二人が喧嘩し出したあの時の映像をスフォラに頼んで大画面に映して貰った。今にもお互いに掴み掛かって行きそうな剣幕でまくしたてる姿を見せられて、二人は顔を真っ赤にして怒りの表情で固まっていた。これは……やりすぎたかな?


「この姿を俺は十回以上も見せつけられている。正直、祝福なんて考えられない」


 ヘッジスさんが吐き出すように言った。


「鬼の形相とはこの事を言うんだ」


 ドゥーフェスさんも辛辣だ。


「思うんです。二人は見栄を張り合ってる場合じゃないって。周りの人を傷つけていたら結婚式に誰も来てくれないですよ?」


 二人の表情が怖くて声が震えたが、なんとか言えた。顔色が赤から青に、そして白くなって無表情の顔になった。正直何を考えてるのか分からなかったが、僕は打ち捨てられたベールを拾った。映像にはヘッジスさんの妹さんのナミリルさんも困った顔をしているし、カフェのお姉さんも迷惑そうな顔をしてみているのが映っていた。


「分かったわ」


 二人はそれだけを言って帰って行った。後から二人は別々の衣装屋に行ってそれぞれ違う日に結婚式を挙げる事になったと聞いた。ナミリルさんや、ヘッジスさんには招待状は送られて来なかったそうだ。謝罪すら無かったらしい。

 これはかなり経ってから聞いた話だけれど、一年後くらいに手紙で謝罪文が送られて来たそうだ。あの時は自分のした事に羞恥と許して貰えないんじゃないかとの思いが強くて会いに行く勇気が出なかったと書かれていて、反省しているようなので会いに行って許してあげたとのことだ。

 ところで僕のベールは評判がすこぶる悪い。何故なんだろうか……。悪魔のささやきが聞こえるとか、赤子の幽霊の泣き声が付いて来るとか酷く嫌な噂が流れていた。おかげでその後は誰も僕の闇のベールを結婚式に望む人はいなかった。


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