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106 慣れ

 ◯ 106 慣れ


 アストリューのいつもの訓練場は、鳥肌を立ててある物体から目を逸らしている人しかいなかった。


「アキちゃん……頑張るわねぇ」


 力なくマリーさんは僕の様子を見ながら、応援なのか呆れているのか良く分からない感じで声を掛けてくれた。現在、ポースの中に閉じ込めた黒バッタの大群と対面していた。ギダ隊長も隊員達もしっかりと気持ち悪がっていた。大量のバッタが訓練場を埋め尽くし、羽根がパタパタいっているのが重なって重低音に変わっていた。

 確かにいう事は聞いてくれる。でもこのバッタ、気持ち悪いだけで何も出来ない。僕は諦めて、空に文字を書いてみたいりして遊んでいる。そろそろこれにも飽きて来てどうしたもんかと思ったら、デリさんが


「鳴かないですね」


 と言ったので、一度鳴かせてみた。全員怪我をする程の音波攻撃を受けてしまった。ポースも新しい体に傷が入ったとパニックだったし、僕は自分の血に驚いて座り込んで後から来る痛みでやっと現状を把握した。ポースにバッタを収納しつつ、全員を包む感じで治療を掛けた。そこでギダ隊長も何が起ったか気が付いて止血を始め、警戒して周りを見ていた隊員に治療を優先させた。


「ごめんなさい……」


「いや、デリの奴が不注意に言ったせいだ」


 片方の耳がおかしいのか変な感じだ。隊長の声が良く聞こえない。


「そうよ〜、気にしなくて良いわ、こんなのいつもの事だもの。泣かないで〜」


 マリーさんが僕の止血をしてくれた。皆に謝って光のベールの包帯を渡した。マリーさんの服が少し破れてる所もある。着てなかったらもっと酷かったかもしれない。


「しかし、この攻撃は厄介だな」


「そうね〜、無効化させれる手段を持ってなければ、かなりきついと思うわ」


「あれで、全部じゃないんだろ?」


「確か、三部隊のうちの一つよ」


「全部隊がやった時の被害を見ておいた方が良いな……」


「そうね〜、攻撃力、破壊力は上がりそうね〜。見た目もだけど」


「見た目は変わらんだろ。既に許容範囲を超えてる。気持ち悪くて攻撃したいのを我慢してるんだ」


「今日は無理よ〜、アキちゃんの精神が保たないわ〜」


「そうだな。動揺が収まってからにしよう。こっちもそれ向きの装備を着けよう」


 バッタが意外な攻撃力を持っている事が分かった。皆で神殿に運ばれて怪我を治して貰い、僕は反省をたっぷりやった。

 皆は鍛えてるだけあって一晩で怪我は塞がり朝には動き回っていて、次の日には怪我の後が薄らと見えるか見えないかになっていた。三日目にはもう跡形も無かった。僕は三日目にやっと傷が塞がって、動けるようになったぐらいなのに……おかしい。


「何か理不尽だ……」


 すっかり綺麗に元通りになったマリーさんが、ヨーグルトにバナナをカットして入れてくれていた。


「仕方ないわ、アキちゃんはそれだけ戦闘には向いてないのよ〜」


「俺様の怪我を一瞬で治すとは、良いヒーラーじゃねえか。俺様の歌の支援もばっちりだしな」


 ポースの体は僕の魔結晶で維持された闇のベールが使われているから、表面に付いた傷は簡単に治せた。ポースが慰めてくれてるのが分かった。


「ポース、ありがとう」


 どうやら傷の深さも違っていたらしい。メレディーナさんが言うには、筋肉量も違うし外からの力への抵抗が全く違うと教えられた。それでまだ僕だけベッドから動けてないのかと少し納得した。そして同じ治療をしても受ける側の力で随分変わるのだと勉強した。スフォラも同じ痛みを共有していて、しっかりと謝っておいた。でも、バッタの力は使いこなせるようにならないと、ダメだよね……。


 五日後、僕達は重装備で訓練場にやって来た。訓練場に三部隊全部が集められた。僕達は外側に出て、あちこちに置かれた計測器をマシュさんが触っているのを見ながら、準備の出来るのを待った。


「出来たぞ」


「じゃあ、一鳴きで……」


 しっかりと音を消す防護を張って実験が開始された。訓練場は音を立てて崩れた。思ったよりも大きな力が働いたみたいだった。


「あー、こりゃすごい」


「うわ、埃が……」


「すげえ破壊力」


「防護は一回で壊れたのね〜?」


「機械がいかれる。煙が出てないか?」


「埃ですよ」


「いや、あそこだ! 消化器だ!」


 実験でのバッタの合唱は、破壊力がすごすぎて正確には計測出来なかった。前の時とは比べ物にはならないくらいの力だ。最初がこれだとミンチになってたに違いない。バッタ達は何の変わりもなかった。 

 一部隊を退却させて、ポースの中に帰してもう一度実験がなされた。次はちゃんと計測出来たみたいだった。最後に一部隊分のものを計って、その日の実験は終った。


「一部隊ごとに、破壊力が二乗されるみたいだな。破壊力が2ぐらいが、最終的には三部隊で16っておかしな事になっている」


「うわ……それであんな事になったんだ」


「三部隊は封印だ。アストリューでは使えないだろう」


「そうだね、危ないね」


 一部隊だけでも充分だと思う。


「でも、瓦礫を片付けたら綺麗に更地が出来ますわね……いずれは綺麗にしようと思っていましたが、手間が省けました」


「土木事業か。それなら使えるな」


「役に立つの?」


「ええ、この周りの施設一体を綺麗にする必要がありましたから、調度いいですわ」


 どうやらこの前の契約の時に見た聖域の計画地図にここが書かれていたみたいだ。カシガナの地の守りの場所だ。女神の一言で僕とバッタ部隊は土木工事をする事になった。

 メレディーナさんが力を使って建物を消す事も出来たけれど、僕達がやる事に意味があると言って僕達にやらせてくれた。確かにここにカシガナの聖域を作るのなら、僕がやる意味はあると思う。

 瓦礫を土に帰すのも忘れずにやった。それはナリシニアデレートで岩を消してしまったあの力で、砂か土にするようにとメレディーナさんに許可を貰っている。マリーさんとギダ隊に力を貸して貰いながら工事は順調に進み、最後の建物が綺麗に無くなった。

 人工物が全部無くなったそこは、青空がよく見える空き地に変わった。そこにいる黒バッタはそう悪くは見えなくなった。まあ、蠢いてるのを見ると拒絶反応は出るけれど、最初程ではなくなったと思う。


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