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104 氷狼

 ◯ 104 氷狼


「すっかり群れの仲間になって……どうするんだ?」


「え? どうもしませんよ?」


 ビギーの寝癖をブラシで梳かしながら答えた。今日で目的の村にたどり着く予定だ。少し天気が悪くなってはいるが、村にたどり着くまでは持ちそうだった。ここからなら、夕方前には着く予定だ。


「昨日のオオカミ達は大丈夫ですか?」


 朝食の席で昨日のオオカミの事を聞いた。


「だと良いんだが、こればっかりは分からん。この隊を狙うとは限らんから」


「じゃあ、そんなには怖がらなくて大丈夫ですか?」


 ケイトさんが聞いた。


「そうだな。だがもし遭遇したら、あいつらは氷の礫を飛ばしてくるから気をつけた方が良い。射程距離が結構あるからな防護は早めにしっかり張れ」


 僕達は頷いた。魔法を使うオオカミか……。来ない事を願おう。三日目の道はちょっとカーブが多かった。森の間を抜けて行く形で道が曲がりくねっていたから、そりの扱いが難しかった。倒れないように気をつけながら進んだ。昼過ぎ頃に、後ろから馬の集団が追いかけて来た。よく見るとその後ろにオオカミ達が走っているのが見える。

 昨日同様、スピードを上げているけれど馬達には敵わず、追いつかれ追い抜かれた。オオカミ達の標的は僕達に変わった。僕が先頭で、女性達が真ん中ジグさんが一番後ろになった。

 スフォラに誘導して貰いつつ、犬達に声を掛けながら村へと急いだ。防護を張っているけれどオオカミ達はどんどん礫を飛ばして来てだんだんと最後尾のジグさんに近づいていた。

 ジグさんが、風魔法を放ってオオカミを牽制し出した。横から別働隊のオオカミが近寄って来て、女性達も魔法を放ち始めた。ナーセイさんの炎が命中してオオカミから悲鳴が上がった。メイナーさんも水を飛ばしてオオカミの顔にぶつけていた。ぶつかった瞬間にオオカミの苦しむ声が森中に響いた。全員がビクッとするぐらいの悲痛な声だった。

 酸? スフォラの目にはオオカミの毛が溶けるのが確認出来たみたいだ。マシュさんが新しく付けた機能で、広角レンズのように全体を見たり、望遠したりと色々出来る。暗視は僕が光と闇の適性持ちなので見えるらしい。下手に同じ機能は付けない方が喧嘩しなくていいからそれは僕にまかされた。

 背筋が凍りそうな声が耳について離れない。その攻撃の後はオオカミも戦意喪失したのか追いかけてこなかった。

 休憩の間に犬達の回復をして、なるべく早く進む事にした。ひたすら走って村には予定よりも早く着いた。


「ジグ隊長。あんな攻撃では、逆にオオカミをつけあがらせるだけです。ちゃんとして下さい」


 コーロップ村の入り口で、メイナーさんが隊長を責めていた。ジグさんは犬達の防護もしていたからそれは無茶だと思うけど……。


「そうか? 俺はそうは思ってない」


「私達を危険に晒して、上に報告しますかから!」


 ミントさんとナーセイさんも睨みつけている。


「でも、ジグさんは犬達の防護を……」


 僕が口を挟もうとしたら、メイナーさんに睨まれた。


「あんたは回復しか出来ないの? 先頭を走るにはとろいのよ!」


「アキは良くやった。ペース配分も考えてのスピードだ。あれ以上は持たない」


 僕達の様子を見て、ケイトさんはどうして良いのか、迷っているみたいだった。


「今日の残りと明日一日は、ゆっくりと村を廻っていい。出発は明後日だ。解散」


 ジグさんが溜息を付いて、雪が降り始めた村の方へと入って行った。村の宿泊施設は三つあった。ジグさんは自分の自宅があるのでそこに犬達と一緒に帰って行った。僕は温泉宿を選んでそこに泊まる事にした。村の役場で観光の案内をして貰って、お勧めの宿を聞いたらそこを案内してくれた。役場の人の名前を出せば少し割引して貰えて良かった。女性達とはあんな言い合いになってしまったので、別行動になってしまった。うーん、うまくいかない。

 温泉は透明で少しぬるっとした質感のお肌に良さそうなお湯だった。犬達と一緒に、ジグさんと息子さんが温泉に浸かり出した。


「犬達も温泉に入るんですね……」


 お福さんもアストリューで温泉を覚えてからは、風呂好きになってしまった。犬も分かるんだ。


「旅の後は入れてやってるんだ」


 犬専用の浴槽で、気持ち良さそうに目を細めて入っている姿は人間と同じですっかり気が抜けてる表情だ。しっかり暖まって、村の名物料理を食べた。……オオカミの肉だった。

 次の日に村を観光をしたけれど、何かがあると言う訳ではなかった。村の工芸品もオオカミの毛皮で作ったコート等だった。お土産にオオカミの毛皮と牙、鹿革を何点か買った。マリーさんが何か作ってくれると思う。防寒も魔法の防護も結構高いみたいだ。背中が灰色でお腹の方は白い毛の綺麗な毛並みだ。犬よりは硬毛だけれど、お腹の毛はフサフサだった。

 僕がその手触りを楽しんでいたら、ジグさんに呆れた目で見られているのに気が付いた。良く会いますね?


「オオカミを食べて生活してるんですね。毛皮もちゃんと使ってこれで生計を立てて、村の生活が何となく分かります。」


「ああ、ここの連中の糧の一つだから余り手出しはしたくなくてな……」


「他所から来た僕じゃ分からないですけど、ここにいる人達に取っては大事な資源なんですね」


「ああ、もっと買って行っても良いんだぞ?」


 にやりとジグさんは笑っている。


 どうやら僕達新人はここの観光をして、金銭を落として行って貰う客としての役割も兼ねていそうだった。さすが管理組合……一石二鳥か三鳥を狙っている。


「えーと、僕のいる所はそれほど寒い土地では無いので、マリーさんが気に入ったらまた来るかもしれないし」


「何処だ? アストリューです」


「あー、あそこも温泉地だったな。犬は入れるのか?」


「はい。犬も猫もドラゴンも入れますよ」


「ドラゴンとは一緒には入りたいとは思わんが、家族と出かけたいもんだ」


「ええ、来てくれたら案内しますよ?」


 そんな交換交流の約束をして、僕はジグさんの家に招待された。お昼ご飯をごちそうになって、奥さんにお礼にアストリューのスキンケアセットを渡した。何かの為に持ってきておいたお土産だ。十二、三歳の息子さんにはチョコを少し分けてあげた。ジグさん達はここの村に住んで子育てをしている最中なのだとか。そろそろここ以外の外の世界を一度は見せたいと言っていて、アストリューなら全く違っているし安全だからと話は弾んだ。

 宿に戻って眠って次に気が付いたら帰る時間に迫っていた。急いで集合場所に着くとジグさんが待っていた。


「皆は?」


「帰った。リタイアだ」


 どうやら、さっき転移装置で帰ってしまったみたいだ。女性達の中で買物とかでのいざこざがあったみたいだとジグさんが言った。……詳しくは分からないが、村の中で喧嘩があったのを村の人から報告されてたみたいだ。まあ、内容を詳しく聞くのはプライバシーの侵害だと思うので、それ以上は聞くのはよした。


「あー、工芸品はどうするんですか?」


「俺達だけで運ぶ。問題ない、犬だけでもそりは走るからな」


 目を逸らしながら言われた。……確かにそんな気はしていた。帰りは犬達と遠慮無く戯れながら心ゆくまでしっかりと毛皮を堪能しつつ進んだ。何事も無く、天気にも恵まれて予定通りに戻った。帰りはコーロップ村の肉類をロッジに補給しながら進んだ。行きにも穀物を少し入れて行ってたみたいだ。成る程、この犬ぞりで狩りの拠点や村々の連絡地点の管理もやってるってことか。帰ったらこの仕事のレポートを提出して終了だ。

 テストは無事に通ったみたいだ。評価も普通だった。犬と遊び過ぎを指摘されたが、仕事のパートナーとの仲を良くするのは評価されたのでプラスマイナス零だった。遊び過ぎの指摘はレポートに可愛い犬達の温泉での様子を、写真入りで提出したのがいけなかったんだろうか? 

 女性達との関係悪化は何故か言及されなかった。僕からしたら当たり散らされて迷惑したと言った感じだし、正直彼女達とのことは気疲れした。二度と会う事もないと思う。


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