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10 期待

 ◯ 10 期待


 地球では正月休みも終わり、トシは学校に通い出した。

 僕も夢縁に通い直しだ。高校の勉強も出来るみたいなので、追加で高校の授業を取った。何故か録画通信だったりしたけど、授業は何処からでもいつでも何回でも受けれた。図書館の個室でも見る事が出来、テストは学期末だけだった。生徒数が圧倒的に少ないのだとか。需要が無いので供給も簡素化されたという。侘しい……。

 12月、1月と新人が増えたみたいで、授業の人数が増えていた。隣に座った人がジロジロと見てきたので、そっちを見たらニッコリ笑われた。

 講義中なので話す事は出来なかったが、何となく分かった気がする。同じ銀色の刺繍だ。推薦枠で青銀だ。僕のは白銀で留学生枠とかいう謎の枠だ。董佳様には訳が分からない奴にはそれを与えるのよ、と言われたので深く追求されると困るのだ。

 講義が終ってから案の定、彼は話しかけて来た。


「やあ、初めまして、さっきはじろじろ見てごめんね?」


「はい、初めまして。え、と、新人さんですよね?」


「そうなんです、12月に入ったんですけど、他に推薦枠の人を見かけなくて……困ってたんです」


「困ってた?」


 何が困るんだろう……。


「推薦枠の人を集めた勉強会があるって噂、知りませんか?」


 ちょっと遠慮がちに聞いて来た。


「さあ、聞いた事は無いけど」


「本当? 良かった。君、今月からだよね? 12月中は見なかったし。お願いがあるんだけど、その勉強会に一緒に行ってくれないかな」


 愛想笑いで頼まれた。


「え、でも僕も忙しいし、これ以上は勉強会と言われても、出席は出来ないよ」


 それでなくても死神の方も先輩がアストリューに来て指導してくれると聞いていて、どう考えても無理だし困る。


「一回、一回だけ……ね? 今からちょっとだけ。お礼はするから、ね?」


「ごめんね、僕は……」


 一回行ったら、断れないかもしれないし遠慮したい。って、今から?


「どうだ、来てくれそうか?」


 後ろから誰かが声をかけて来た。


「いや〜、松田さん今からですよ」


 知り合いみたいだ。この人も銀枠の人だ。


「そうか、悪い事したな。俺からも頼むよ、少ない銀枠同士だ。参加して損は無い」


「あの、でも本当に僕、これからまだ……」


「一回来てからでも判断は遅くないからさ、良いだろ? 少しくらいは」


 さっきからしつこいし、うんと言うまで誘う気みたいだ。


「どうしてそんなに銀枠にこだわるんですか?」


 ちょっとその松田と言う人の目が、睨んだ気がした。


「人がこれだけ頼んでいるんだ、どうして断れるんだ? 君の良心は傷まないのか?」


 今度は何やら責められた。断ったら、そんなに酷い事なの? どうしてそんなに怒ってるんだろう。


「そうですよ、こんなに、こんなに頭を下げているのに……」


 そうだっただろうか? って、泣きまねしてるし、わざとらし過ぎるんですけど。泣き落としはちょっと無理がある。この必死すぎる態度が怖過ぎる、こんな事こっちが困るよ。


「あのこの後、講義があるのですいませんが……」


「人を見捨てて……君って人はなんて酷い人間なんだ!?」


 今度は貶し始めた。僕の事情はどうでも良いんだ。君達の事情が必ず優先されるのはおかしいと思うんだけどな。僕には受け入れられそうに無いよ、どうにか逃げたい。


「すいません、本当にごめんなさい。僕は11月からなんですけど、どうしても12月は来る事が出来なくて、講義が押してるんです。だから参加は諦めてもらえませんか?」


「謝って済む訳ないだろ。それは君が怠惰なせいで、頼み事を断る理由じゃないだろう!?」


 下手に出てみたが、効果は無かったみたいだ。態度が大きくなっただけだった。どうも、松田という人は僕の頼みは聞く気がないみたいだ。僕もだけど、お互い様には……してくれないみたいだよね。


「そうですよ、酷いです。このまま来てくれれば良いだけなのに、そんなくらいしてくれても良いと思うよ?」


 そうかもしれないけど、それだからなんだか変というか、信用出来なさそうな人に付いて行くなんて……それこそ危険だ。


「どうしてそんなに必死なんですか? どうして急ぐんですか? どうして普通に講義を受ける事を責められなくてはいけないのですか? 僕の権利よりも君達の事情が勝っているという何か確実な事を言いましたか? 感情論だけでは付いて行きません、嘘泣きでもです。では、失礼します」


 言い出したら止まらなくなった。何処からこんなにすらすら出て来たのか、自分でもビックリだ。取り敢えず急いで次の講義に向かった。久しぶりに切れた気がする。

 講義が終ったら、実習だった。気を練って方向を決めて(念を込めて)力に変換だ。癒しの力は分かりにくい……。ゆっくり確実にやれば何となく出来てる気がした。その日はそれで帰った。

 講義に向かうときから誰かに付けられてたけど、どう考えてもあの銀枠の人達だろう。十日も一香の中で影と追いかけっこをしていたから、付けられてるのがすぐに分かった。何なんだろうあの人達は……。


 アストリューに帰ると、マシュさんが上機嫌で迎えてくれた。なんだか妖気を発したマシュさんな気がする。背中に変な汗が……。メレディーナさんはそんなマシュさんを苦笑いしながら見ていた。


「喜べ、体が完成したぞ!」


 なるほど、それでか……。握りこぶしを作って、ふふふと不気味に笑っている。大丈夫だろうか、心配になって来た。


「大丈夫ですよ、私も拝見しましたが、それほど常識を外れてませんから」


「そうですか……なら安心です」


 メレディーナさんが言うなら安心だ。


「スフォラの本体を改造してみた。この体は両方の体となるからな。筋繊維の一部はカシガナから取った葉を培養して、樹木から採って加工してみた。そこは実験だから合わなければ取り替えるが、いけるはずだ。スフォラと意識融合しているのを利用したかなり無茶な、いや、実験的なものを含んでいるが至って普通の体だぞ」


「……」


 その内容で普通なんだ……。話しながら僕の体を見せてくれたけど、真っ裸だ。僕、これからこれに入るんだよね? お願いだからそのシーツを掛けて下さい。僕は無言でマシュさんの手に握られているシーツを体に掛けた。


「まあ、そう恥ずかしがらずに……。慣れてますから」


「う、うん。そうだね」


 マシュさんが気に入らなかったのかとムッとしていたが、メレディーナさんが正解を言ったので僕の様子が羞恥心だと分かったみたいだった。


「ま、その様子だと、早くも自分の体だと自覚したという事だな」


「そうだね……」


 気を取り直して聞いて来たので、肯定した。見かけはどう見ても僕だった。ちょっと半透明で髪が長いけど……。スフォラが元だと言っていたので、そうなったんだと思う事にする。

 マシュさんが言うにはスフォラの半霊半機械の体を人体サイズに、そこに色々と改造をしたそうだ。今のところアストリュー内と、管理員の本部ではこの体で動けるはずだと言われた。地球はちょっとこの規格は無理だから今まで通りに幽霊で動くように言われた。

 僕の意識とスフォラの意識が融合というのは、スフォラに完全に体の主導権を移しきっていたにもかかわらず、池田先輩と話をしていたのは僕だったという矛盾から分かった事だった。

 僕とスフォラのその繋がりを利用して、今度は僕がスフォラの体を一部乗っ取って動かすという実験があるみたいだ。どう違うのか知らないけど、マシュさんがデータを取りたいだけだと思う。

 準備が出来たので、早速中に入る事にした。変な電子音が聞こえた後に目が覚めた。


「どうですか?」


「変な感じ……」


 僕は起き上がったときの違和感を伝えた。


「どう変なんだ?」


「体が軽い?」


「そうだろう、体重は三分の二しか無い」


「あ、本当に軽いんだ」


 僕はシーツを掴んでゆっくりと立ってみた。思ったより普通に動ける。体も半透明では無く、普通の体に見えた。


「ネックだった体力も倍増だぞ? と言ってもやっと平均になったと言うべきだがな」


 マシュさんは僕が無事に動いているのを嬉しそうに見ていた。いや、起動の成功を噛み締めてるみたいだ。


「すごいね」


「スフォラはもうその体を使いこなしてるからな、マリーも褒めてたぞ」


「すごいんだ、スフォラ……」


 照れる様な感情が返ってきた。ああ、やっぱりこうでないと。ずっと分体と一緒だったけど、この繋がりは寂しい事に無かったから……やっと会えた気がする、良かった。

 あの、一香のせいでスフォラの本体がパックリ割れてしまったと聞いたときは、どうしてくれるんだとショックを受けて泣いた。マシュさんがちゃんとバックアップは無事だったから、元に戻ると言ってくれるまでパニックだった。脅かさないで欲しい。

 マシュさんが分体を出して来て、本体に収納した。取り敢えず、しばらくは新しい体での融合の状態に僕が慣れるまではペット機能を止める事にした。本体と言っても、大事なところは別で取り出せる仕組みみたいだ。邪神に見習って三重構造だとかマシュさんが言っていたが、何がどう三重かは僕の頭では理解出来なかった。

 食事も普通に摂取して良くて、ちゃんと消化されるし、エネルギーに変えて活用出来る様にしてあると言われた。血も流れてるし、普通だぞ、と説明された。ただ、何かあったときは病院ではなく、マシュさんの所に運ばれるみたいだ。ちなみに輸血は禁止だと言われた。

 僕の体の部分は変身機能は付いてなかった、換わりにエネルギーを体内に貯める機能を付けたそうで、スフォラの使える力がちょっと増えると聞いた。今はどうやら充電(?)中みたいだ。分体はこれまでと同じで変身機能が付いていて、食事も要らないと言われた。了解です。


「別にアキが分体でも良いんだぞ、なんせどちらの体でもあるんだからな」


 ニヤッと人の悪そうな笑顔でマシュさんが言った。


「う、か、代わりばんこだからね?」


「まあ、真に受けなくても良いのですよ」


 クスクスとメレディーナさんは笑って言ってくれたけど、スフォラはきっとそのつもりだと思うんだ。だから、期待には答えないとね?


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