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99 仕掛

 ◯ 99 仕掛


 契約なんて要らないと言ったにもかかわらず。早々に覆す事件が起こった。紫月と妖精達が何か怯えていたので聞いてみると、植物達にとっての敵が来たみたいだった。植物達も不安げな感じを送って来ている。


「こわいのが来たって、みんな言ってる」


 泣きそうな紫月を抱きしめながら、背中を撫でてあげた。


「怖いのがいるんだね? 害虫かな? 見に行ってみるよ」


「近くかしら〜?」


 兎に角、急いで見に行ってみる事にした。マシュさんに留守をお願いして、空飛ぶスクーターに乗って紫月から教えられた場所に向かって飛んだ。僕達の家から二十キロ程離れた場所に黒々とした小さい物体が大量に森の中の木々を喰い散らかしているのが見えた。バッタ? 黒いバッタだ……胸ポケットのポースに見せた。


「こいつらを取り敢えず契約して見るか……」


「え?」


「いや〜ん、こんな大量にもぞもぞ動いてるのだめ〜、鳥肌〜!」


 マリーさんは涙目だ。分かるよ僕も契約なんて嫌だよ?


「ここからだと家まで飛んでくるわよ〜?」


「それは困るよ」


 覚悟は決まった。ベールを空に広げて影の治療……いや、眠りの術を掛けていった。黒いバッタ達を鳥肌を立てながら見つつ、術をしっかりと一匹残らず掛けていった。中々動きが止まらない。かなりの時間を掛けてゆっくりと止まるように、染み込ませるように術を掛けてやっと終った。


「眠ったよ……って、みんな寝てるし」


 マリーさんが木にもたれかかって寝ている。ポースも返事が無い。仕方ないのでスフォラとポースを起こしてどうしたら良いか聞いてみた。


「初めてだから、安全を期してもう一度契約しよう。手順はこの間やった感じだ。で、それから俺様が取り持って、寝てるこいつらと契約だ。それでこいつらは俺様の闇で眠る事になる。いいな?」


「了解」


「始めようぜ」


 ポースに契約の文言を書いて、呪文を唱えつつ声に魔力を込めた。体を通るポースの魔力を感じた。これでポースとの契約が終わった。そのまま闇のベールをまた空に広げて、バッタを操って契約した。数が多いので、一カ所に集めて一括で纏めてさくっと契約した。

 ポースの力も契約のせいか、闇のベールを通ってバッタ達を一括で契約出来るように、アシストしてくれていた。無事に契約が済んだらバッタ達は、ポースの開かれたページに吸い込まれて行った。その時、体の力が抜けるくらいに魔力を吸い出された。全部吸い込まれたのを確認して、その場に座り込んだ。


「うへぇ、呼び出す事あるかな……」


 疲労もあるけれど、それよりも気持ちの悪さが勝った。


「さあな、まあ経験したから次も大丈夫だろ」


「そうだね、マリーさんを起こさないと」


 周りに葉の無くなった無惨な木が現れて、ちょっと心が痛んだ。マリーさんの術を解除して起こした。かなり深く眠っていたけれど、起きてくれた。


「虫は〜?」


「ポースが受け持ってくれてるよ」


「そうなの〜?」


「ちゃんと全部と契約したとは思うけど……範囲以外にいたら困るから、皆で手分けして探した方が良いかも」


「そうね、応援を呼びましょう〜」


「うん、何処からあんなのが来たんだろう」


「そうね〜、それも調べた方が良いわね」


 僕達は神殿にさっきの映像とその後を送って、取りこぼしの個体が無いか探した。ここに闇の生物があんなに増えるなんて不自然だ。何かおかしいと思う。

 その後、神殿関係者達が揃って探査し、動植物達に聞きながら出所を探った。はぐれた個体は何匹か見つかり、籠に入れられて研究班に渡された。


「これは……酷いな」


 食べられた木々が痛々しい姿をさらしている場所に、それはあった。バッタ達の卵が土の中に埋められていた後だ。何かの術の後か、壊れた大量の魔結晶と共に見つかった。


「他から持ち込まれた後ですね」


 イーサさんが、キュっと唇を噛み締めて跡を見つめていた。


「もしかしたら、他にもあるかもしれないな」


 ルカード部長が深刻な顔で言った。


「捜索隊を組んですべてを改めましょう」


 メレディーナさんが顔を上げて毅然と言い、イーサさんに向き直った。


「しかし……時間が」


「大丈夫です。この状態でなくても、被害が少ない方が良いですから」


 黒いバッタを止める為に、妖精達、精霊達更に住民の皆の協力を得て必死の捜索がされ、卵の状態が二つ見つかった。もう一つは群れを作って飛び始める前で、それは僕がまた眠らせてポースと一緒に契約してポースの中に納めた。

 最後の一つは違う大陸でかなりの被害を出していた。それでも一塊を捉えて、同じようにポースの中に閉じ込めた。


「これで最後ですね?」


 メレディーナさんが地図を見ながら確認をした。


「はい、卵を産みつけられる前で良かったです」


 お付きの人のフィリアさんが答えた。


「この感じだと、星始祭の時季にこれを仕掛けられた、と見るべきですわね」


「そうなりますね。しかし、これだけの仕掛けをあの中でするのは、一人では無理ではないかと……」


「非常に残念ですが、ヘラザリーンが相手だとすれば操られている可能性も……他の世界にも警告をして頂いていますから、何かあれば連絡が来ますわ。兎に角皆さん、一旦休みましょう。協力を感謝致します」


 メレディーナさんがそう言って、捜索は終わりになった。


「はい」


 みんな顔色が悪い。十日の間に世界中を探しまわった僕達は、やっと一息つけた。闇の生物を無闇に殺す事無く一網打尽に出来たので、僕の眠りの術はかなり良い評価を貰えた。

 ただ、みんな眠ってしまうのはどうしようもない……バッタは普通は眠らないので、かなり深く術を掛けないと、動きが止まらなかったのだから仕方ない。瘴気を出す事は無かったけれど、食欲はとんでもなくて、最後に見つかった大群が通った跡は酷かった。禿げた大地を見て悲しかっし、植物以外に動物も食べられた跡があって、骨が落ちていてぞっとした。動物達の魂が傷ついてない事を願うばかりだ。

 このアストリューにこんな闇の生物はいなかった。誰かがあの魔結晶を使った術でアストリューでも無事に卵から孵るようにされてたと見ている。人避けの結界も同時に見つかっていて、明らかに人為的な物だ。

 犯人が分からない以上、警戒はそのまま続行だ。静かな雨の中、妖精達と一緒に家で眠った。


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