97 平均
◯ 97 平均
夢縁では連日のように、制服ファッションの人気投票のイベントの話題が出た。久しぶりに図書館で会った木尾先輩と、加島さんとその他の勉強会の面々に会った時もその話をしていた。
「まさかこんなイベントまで開催されるとは、変わったな」
加島さんがけだるげな雰囲気の勉強会のメンバーに、図書館の壁のイベントの説明を見つめつつなにげに呟いた。
「なんか開かれた夢縁というか……」
「生徒に近くなった?」
「上から目線じゃないっていうか、楽しませようっていうか、何かそういうのを感じる」
「悪く言えば、取り入ろうとしているとか……でも、あの旧生徒規則本を読むと元々の体制は悪くなかったんじゃないかって思える……」
「取り敢えず、良いんじゃないかな? みんなは参加したの?」
このメンバーに唯一の紅一点の質問に、皆は首を振っていた。
「いやー、ファッションって柄じゃないから」
と、そんな感想が聞けた。うん、怜佳さんは優しいし、そんな上から無茶を言う人じゃない。誤解が解けていい感じだ。
「でも、十位入賞者にまでちょっとした報酬が出るのは良いよな。夢縁の店で使える商品券とかめちゃくちゃ良いぜ?」
「確かに。あれには驚いた。一位とか五万円分の商品券だ。ちょっと着飾って、写真を送るだけでそのチャンスだ。やっぱり送ってみるかな」
「色々な人に顔を覚えて貰えそうだね」
僕がぽそっと言ったら、木尾先輩が勢いよく立ち上がった。
「! それだっ! たとえダメ元でも出すぞ! こうしちゃいられん。もしかしたら参加するだけでも、名前がどこかに残ってくれるかもしれないだろ? レイカ様の気まぐれでも何でも、参加する方が良いかもしれない。アピールチャンスだ。目標は選考に選ばれる事だ! 用が出来たから帰る」
木尾先輩は興奮した感じで、図書館というのに色々と叫んで帰りの支度をし出した。それに釣られるように皆が帰る為に片付け出し、誰もいなくなった。募集は明後日の昼までだ。僕はとっくに送った。
そんな木尾先輩のような付け焼き刃なファッションが通用するはずもなく、そのメンバーの写真はあっさりと弾かれ、選考に残った人達の写真が公開された。少し大きく引き延ばされたそれは、多目的ホールに張り出されて人気投票が行われた。投票は好きなコーデを一人三つ選ぶ方式だ。百人の写真が貼られた中から選ぶのは結構大変だったけど、楽しかった。
「二人とも残ってるね、すごいよ」
「もっちーろーん。気合い入れたもんね、優基?」
「カップルで揃えても残ったから良かったけど、ルール違反だと取られてたらやばいぞ?」
「そんなのへっちゃらだもーん」
確かにカップルで二人が一枚の写真に収まっているのが三枚並んでいる。成田、沖野ペアでよく見るとお揃いっぽい感じのコーデは人気が出そうだ。アイデアの勝利って気がする。
「千皓君も残ってるね、可愛いよ?」
「う、うん。ありがとう」
ここへの張り出しはアルバイトが募集され、その人達に寄ってされたらしい。投票の集計もアルバイト達にさせるみたいだ。わざと手作業な物を用意したのは多分、仕事の依頼にする為なんだと思う。ちゃんと考えられてる。
一週間後に発表された結果で、沖野さん達は七位に入賞していた。入賞の商品券と入賞の証のバッジが渡されて、それをしっかりと付けていた。僕は五十位になった。董佳様に見事にど真ん中ね、平均だからって狙わなくても良いのよ? と突っ込まれてしまった。そんなつもりはなかったんだけど……。




