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96 新装

 ◯ 96 新装


 とうとうポースの体の材料が揃って、全てを合わせて完成させた。長かった……。魔結晶の準備は一番に出来たし、紙も防水と防火の効果付きで、手触りの好い物が出来上がった。

 表紙は魔力の籠った木の皮をマリーさんが加工して作った物に、僕の闇の魔結晶と闇のベールを利用した物とをマシュさんが魔法陣で何やら合成して更に機械を埋め込んでいた。

 インクはカシガナの実から取れた果汁で作られた物に、僕のパウダー状の魔結晶の入った魔法契約対応の物が置かれていた。ポースとの契約用だ。本にサインすると契約されるみたいだけど、マントを着る度に契約が切れそうだ。そこはやってみなくちゃ分からない。

 後はポースが引っ越すだけだ。


「これはかなりの物だぞ? 良いのか?」


「勿論だよ。皆ポースの為に作ってくれたんだから」


「そうかぁ、有り難いぜっ……それじゃあ早速移るぜ?」


「うん、頑張って」


 ポースから闇色の煙の様な物が出て来た。魔結晶にそれが触れるとゆっくりと吸い込まれて行った。それがしばらく続いて煙が止まった後は、ポースの前の体は崩れて塵になって消えた。


「ポース?」


 マシュさんが埋め込んだ機械が作動する音がした。


「お、おお? アッキ?」


「ポース、どう? どんな感じ」


「まだ、移りたてだから何とも言えねえが、だが今のところは良い感じだ。お、これか? 変化モードとか言うのは」


「ああ、まだやらない方が良い。もう少しなじんでからやらないと、完全には難しい」


「そうか?」


「手帳サイズになれるから、ポケットに入るだろ?」


「便利な機能が付いたんだね」


 ポースが新しい体に慣れてから契約する事になった。メインの魔結晶と、周りの魔結晶で綺麗な模様を付けてある。魔結晶がラインストーンのように並べられて装飾された魔導書は、派手になるかと思っていたがそうでもなかった。落ち着いた仕上がりだ。

 マシュさんの取り付けた機械でスフォラとも連絡が取れるので、通信が使えるようになった。ポースは勝手にあちこち出歩いて、色々な人と話をしているみたいだ。魔結晶が途中で壊れて帰って来れなくなったりと手間を掛けさせられたけれど、これからは連絡が出来るし、自分の魔力が使えるからその問題は解決した。


「こんなに自由でいられるのは初めてなんだ。契約が途切れても俺様はアッキの物だぜ?」


「本当?」


「そうさ、何度でも契約しようぜ。この魔結晶が手に入るしな」


「気に入ってくれてるんだね。ちゃんと予備も用意してあるからね?」


「おお、血結晶は割れてからは、魔力が使えなかったからな」


「うん、周りの装飾も魔結晶だから予備になってるよ」


「よっし、思う存分暴れるぜ!」


「そうだね、楽しもうね?」


「ところで、闇の生物にもちょっとは慣れたのか?」


「こないだ闇色のグリフォンを治療したよ?」


「どうだった?」


「無事に卵が生まれたよ」


「なんだ、めでたい話だな」


「うん、卵から孵ったら見に行くんだ」


「良いな、貰って来ちまえよ」


「うーん、飼うのはちょっと難しいよ。それに家族と引き離すのは何か可哀想だよ」


「じゃあ、大人になって、独り立ちする時が狙い目だな?」


「どうかな……ネリートさんとセーラさんは一ダースは欲しいって言ってたからね……三世とかを狙ったら良いかもしれないね」


「気の長い話だな」


「そうだね、でも、その方が良いと思うんだけどな。あそこは隊を組んで訓練してるみたいだし、強くなっていくと思うよ」


「成る程、強くなってから貰おうってことか、やるなアッキ」


「ポース……生き物だからそんな簡単には引き取れないよ。餌だっているし、世話も僕じゃちょっと難しいよ」


「何言ってんだ。その為に俺様がいるんじゃねぇか。俺様の中で飼うんだぜ? 餌は要らねえし、世話も必要ねぇ、そういう契約が出来るのが俺様だ」


「すごいんだね、すごいよそれってどうなってるの?」


 ポースの説明は大雑把だった。俺様の中に闇の世界が広がってて、そこで呼び出されるまで寝てるんだと言われた。……分からない。外に出たらやっぱり餌が要りそうだけどな……。

 マリーさんに聞いてみたら、マシュさんに話を振っていた。


「あー、契約するとポースの本の中の世界に適合するように、体を再編成されるってことだ。で、出て来たら力が強くなって、死なない代わりに、本に捕われる事になる……。まあ、強くなるのは術者次第だから、これからは弱くなるかもしれないな……」


 最後は視線を逸らされながら説明された。


「う……」


 遠慮のない台詞に心が痛む。契約したら可愛そうだって言いたげだ。


「あー、落ち込むな。もしかしたら間違って強くなるかもしれないだろ? 強いのを入れれば多少弱くなっても大丈夫だ。やり方次第だろ?」


 僕の顔色を見てちょっと言い過ぎたと思ってか、そんな事を慌てて付け足してくれた。


「……そ、そうだよね。それにここでそんな強いのを求めても要らないし」


 アストリューで戦うとかないと思うし。


「……確かに要らないな。闘いの無い世界じゃ無用だ。俺様の価値が下がってる……俺様の存在って……」


 ポースが自分の存在意義を見失ったかの様な、そんなつぶやきを発し出した。ハッ、傷つけてしまったみたいだ。


「ポ、ポース。落ち込まないでよ。ポースには歌があるよ、あんなに皆に呼んで貰ってるし、喜ばれてるんだよ、すごいよ? もう新しい存在なんだよ。スターだよ!」


 慰める為に、ポースの良いところをあげてみた。


「アッキ……その通りだぜ、俺様は確かにスターだ。ファンがあんなにいるんだ、もう既に体もスターにふさわしく生まれ変わったしなっ! こんな力無しでももう、悪神にも勝てるぜ!」


「そうだよ、かっこいいよ、ポース!」


 良かった、自信を取り戻したみたいだ。


「あー、それでどうするんだ? 契約は頑張るのか?」


「……そうだね、今の所は困ってないよ」


「その通りだぜ!」


「魔導書を洗脳するとは……いや、まあ良いか」


 マシュさんはしきりに首を傾げながら、自分の部屋に戻って行った。


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