95 対抗
◯ 95 対抗
アストリューの訓練場に行くと、何故かネリートさんがいた。どうやら闇色のグリフォンが妊娠中らしい。出産に向けてちょっとナイーブになっているので、治療をして欲しいとのお願いだった。そんな事ならそっちに行くのに……。ギダ隊が運んで来たらしい。
「赤ちゃんが生まれるんですね」
「いや、卵で生まれるんだが……どうも初めてみたいで、戸惑ってるんでな」
ネリートさんは心配そうな表情でグリフォンを見ている。
「えーと、有精卵?」
「多分……。あの調子なので、あまり刺激出来ないからな。調べようが無くて……」
ちょっとイライラとしている感じでもあるし、頼り無さげにギュアギュアと泣いたりとかなり不安定だ。
「はあ、やってみますね?」
「頼む」
僕はそっと優しくグリフォンに影の治療を……眠りの術を掛けていった。まあ、いつも通りネリートさんとギダ隊も寝てしまったけど、問題ないと思う。マリーさんが立ったまま寝てるのが危ないので、そっと横になるように思念を飛ばした。
二時間程そのまま様子を見ながら治療を続け、中の卵の様子をいつもの治療系の調べる方法で診てみた。うん、命が宿ってそうだ。もう少し中で育ってから出てくるみたいだ。
しばらくここで、治療をしながら生んでも良いかもしれない。スフォラを起こしたら、もっと早く起こせと怒られた。すいません。
ネリートさんとマリーさんを起こして、寝ているグリフォンの様子を見せた。
「あら〜、やっぱりいるわね」
「そのようだな」
「このまましばらく、こっちで治療しながら生んだ方が良さそうですね」
「そうだな、手間をかけさすな」
「いいえ、折角生まれてくるんです。お母さんが良くなってないと子供に影響しますし……」
「その通りね〜」
「で、隊長達はどうしましょう?」
実に気持ち良さそうに寝てるので、起こすのがためらわれる程だ。
「また誰も抵抗出来なかったのね……」
「仕方あるまい。また腕を上げたのではないのか?」
「分かります? ちょっと変えたんですけど、どうでしたか?」
今日は眠りの講師の声の調子とかの振動も参考に、緩い波を付ける感じで影の治療の始まりをしてみた。導入部分は眠らせる感じにして入りやすくした方が、治療も効き易いみたいなので頑張ってみた。いや、やらなくても眠ってしまうんだけど、やっぱりそう聞いたからには眠りの導入部分は付けるべきじゃないかと……精神治療の行程は踏んでおかないと、ね?
「絶対眠らないって構えてたのに〜」
「うむ、今日こそは前回の敗北を返上しようと、密かに思うておったのに……」
「えーと、治療ですからね?」
「やられてばかりでは示しが付かぬ」
「アキちゃん〜、負けないわよ〜」
ちゃんとしっかりと治療しようとすると、どうしても周り中眠らせてしまうのだ……。今回は闇の気配に敏感な闇の生物だから、余計に慎重にしっかりと掛けたのが原因だと思う。
このグリフォンは五日後には大きな卵を一つ生んだ。その頃にはすっかりと元気になって、生んだ卵を温めていた。そのまま父親の所にギダ隊が運んで行った。
五日間の間、マリーさんとネリートさん、ギダ隊長とその隊員達は眠りの魔法と戦っていた。時々ネリートさんとセーラさんが交代して同じように対抗していた。それが僕にはなんだかプレッシャーで、ちゃんと範囲を狭めて掛けたら良いのか、治療を優先した方が良いのか時々迷っては、妙に深く眠らせすぎたりとちょっぴり失敗した。
結局その後は治療を優先して失敗を防いだ。いやまあ、範囲を考えずにやるから全員眠らせるのは変わりなかったので、その部分だけは失敗と言われれば失敗だけど、グリフォンの治療は出来たので良いとする事にした。眠るだけだから実害はないしね……。




