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9 闇衣

 ◯ 9 闇衣


 死神の学校に向けて、列車に乗って30分進んだ。着いた駅名はズバリ、死神学校前だった。

 真っ昼間なだけあって、そんなに暗く感じなかった。ホラー街と違って日差しが気持ちいいくらいだ。一日体験なだけあって、学生寮の一角で宿泊まで出来たりする。それ以外はゲストハウスも用意されているみたいだ。レイは学生寮に興味津々だった。


「だって、学校だって行った事無いよ? 寮生活も見てみたいし、体験するのがベストだよね」


 ジュグベディック死神学校へようこそ、学校見学、体験学習の皆様はこちらへ。との看板があった。大きく書かれた、試験会場はあちら、の下に小さく書かれた看板を見ながら進んだ。


「これみたいだね」


「そうですね」


 待合室に着いた。何人か同じ様に見学待ちの人がいて、椅子に座って待っている。暫くすると案内の係の教員らしき人達が現れた。


「校長自ら案内かよ」


「まさか、でも……」


 後ろから見学待ちの人が、驚きの声を上げた。


「ゴホン、その通り私が校長のジュグベディックだ。本日はご存知の通り試験日でもあるので、猫の手も借りたい程の忙しさでね。校長の私もかり出されたという訳です」


 苦笑いをしながら角の生えた校長はそんな事を言った。確かに長蛇の列が試験会場前に出来ていた。


「おおー、光栄です。死神様に案内をしていただけるなど、自慢出来ますよ。私はラッセイ オース、こちらは妻のイングリットです。息子が今日、こちらの試験を受けます。どうかよろしく御願いします」


 恰幅の良さそうな男性がにこやかに校長に握手を求め、挨拶をしていた。どうやら保護者が多いみたいだと、次々と挨拶をしている人達を見ながら思った。


「では、サンディ、お願いするよ」


「はい、校長。見学希望者はこちらに御集まり下さい。学校体験もお望みの方はこちらに御願いします」


 体験専用の腕章を渡された。学校体験は僕達と後二組のグループになった。最初は一緒に見学をし、途中で見学の方達とは別れるみたいだ。

 一通り石造りの学校内を案内され、スニーカーじゃ無い靴音は良く響くのを体感しながら進んだ。

 争闘クラスと魂回収クラスとは全く違う事を習うみたいだった。その中も更に細分化されていた。争闘クラスは単独と団体とでも違うし、使う武器でも細かく分けられていた。伊奈兄妹は真剣に聞いていたが、僕にはどう違うのか細かい事は分からずじまいだった。

 魂回収クラスも軽い戦闘は行っていた。魂の修復や、浄化、癒しのコースもあったが人が少なかった。そのため、ひとくくりに纏められていた。こっちは他の専門の人を呼んでする事が多いみたいだ。

 メレディーナさんや、レイも時々手伝いに呼ばれるみたいで、そっちは任せてと、レイが軽く説明してくれた。僕が今まで受けた治療やらの魂バージョンだそうだ。それを死神監修の元でして、記憶の処理は勿論、細かい事はその世界での決まりで変わるみたいだった。

 新しい器、体は各自の世界で用意され、各世界の決まりにそって送り出すので、この最終段階では死神はほぼ関わりはないみたいだった。


「おお、メレディーナ神の関係の方でしたか、相変わらずお美しいと聞いております。やはり今もお変わりなく?」


 校長はちょっと鼻の下が伸びた表情で、機嫌良く聞いてきた。


「勿論だよ。会った事あるの? おじさん」


「ええ、その昔は校長などしておらぬときに少々、お世話になりまして」


 ははは、と何か誤摩化す感じの声が混ざった笑いを校長は発していた。


「へえ……メレディーナの治療は良く効くからね」


 その笑いを聞いてレイは深く頷きながらしみじみと言った。


「そうですな、体験済みですから。ははは」


「そうだったの〜。さすがねぇ、メレディーナは」


 いつの間にか見学組は解散して元の場所に戻り、試験の結果を待っているみたいだった。体験学習の二組のグループと共に一つの教室に入った。そして、死神とはの説明とマントの種類の説明がされた。


「結局、一香みたいに死んでないとおかしい者を捕まえたり、彷徨ってる魂を回収したりが主な仕事みたいだね」


 教室内で僕達は固まって座っていた。レイが、死神の仕事を理解したのかそんな風に言った。


「そうみたいね〜、それならアキちゃんはもう、立派に死神デビューを飾ったんじゃないの?」


「んーそうだね、今更学校も無いのかもしれないね。この様子だと」


「そうなの?」


「知識が無いだけで、もう既にやっちゃったじゃないの〜」


「何かご質問は……」


 サンディーさんが授業の後の質問を受け付けている。


「はい、死神のマントはどうやったら出せるんですか?」


 僕達とは違うグループの一人が校長に質問した。


「ふむ、闇への理解と守りの力の融合と考えられている。邪神が同じ様に闇を纏っても質が違う。人を食らうか守るかは全く別物だからね」


「では、闇の適性が必要という事ですか?」


「適性というよりは、どう体現するかだね。死神に興味があるようで何よりだ。それならもう少ししたら死神のマントの出し方の授業があるので、そちらの教室に行かれるとよろしいでしょう」


 教室がどよめいた。二組のグループはその授業を受けに早速移動を始めた。サンディさんが案内をして出て行った。


「君達は行かないのかな」


 校長が僕達に笑いかけて聞いている。頷いて、答えた。


「はい、質問です。アキのベールはさっき言ってた常闇の衣ですか? 薄闇の衣ですか?」


 レイは挙手してから、質問をしていた。さっきの人の真似だろうか?


「ほお、やはり貴方達でしたか、蒼刻の館の主人から聞いておりましたぞ。学校体験に来る死神ではないというマントの持ち主を」


 どうやら検討を付けていたみたいだ。容姿も聞いてたのかもしれない。


「あら〜、やっぱり話が通ってたのね、校長がわざわざおかしいと思ってたのよ〜」


「参りましたな、その通りです。場合に寄ってはスカウトもしなくてはいけませんからね。ですが、既にメレディーナ神の近くにいらっしゃるなら、そちらからでも良かったのでは?」


「んー、だって面白そうなパンフレットをアキが持ってたからね、乗らないて手は無いじゃない?」


「そうよね〜、たっぷり遊んだし……ちょっと困ったけどまあ、厨房を借りてクリア出来たしね」


「ふむ、マントの体験は中々味わえないからな」


「ええ、あれは良い経験でした」


「皆……」


「ほら、アキちゃんベールを出して観て貰ったら〜?」


「あ、うん」


 僕は闇のベールを出して校長に見せた。校長は手を離してもベールが存在する事に驚いていた。え、おかしいの?

 聞いてみたら、学校に入ってないのに安定している事に、どうやら驚いたみたいだった。もう一枚出した。校長は引きつった笑みを浮かべて器用ですなとだけ言った。どうやら、僕のは月の衣だと言われた。


「中々上質な衣ですね、吸血鬼族を日の光から遮ったというのも頷けますな。このメンバー全員分を40分出せたという事ですね。更に邪神の卵にも捕われていた魂を助けたとは……実戦を経験すると変わりますからな。ところで、何枚も出すのではなく大きく一枚を出す事はされましたか?」


「いいえ、それはやった事が無いです」


「ふむ、一旦仕舞って頂いてよろしいでしょうか?」


 そのまま人気の無い校庭に連れて行かれ、この辺で良いでしょう、と校長が振り返った。そこで大きく出すように言われたのでやってみた。最初は僕を包み、それから皆を覆い隠し……校長も飲み込んで校庭の半分に広がったあたりで力つきた。


「ふむ、かなり良いですね。これがどれだけ持つかですな」


「うわあ、ガーディアンだね?」


 レイの顔がパッと笑顔に変わった。


「そうね〜、聞いた事があるわ〜」


「ふむ、星の守りの一つだったはず」


「すごいですね、アキさん」


「ふむ、この光の透過性は珍しいですな。確かにこれならベールと呼ぶ方がしっくり来ますな。アキさんは光との相性も良いのでは?」


「そういえば、アキの初めての魔法はライトだったね」


「そうだったわね〜」


「やはりそうでしたか。それに癒しと回復の効果もすでに付いていそうですな……」


「あら、やっぱり〜? 何方かっていうとそっちに進むはずだったのに、あの邪神の卵になんかに邪魔されて……今思い出しても腹が立つわ〜っ!」


 話している間にベールはゆっくりと消えて行った。大体10分だろうか……。


「10分弱ですな……短いですが、初心者ならかなり上出来です。学校ではマントの扱いの実技が主でしてね、細かい規則は向かう世界で変わるので、見習いの時に先輩に教わるというのが基本です。アキさんはどうやら学校よりも即、見習いに行った方が良いでしょう。ガーディアンの資質持ちは少ないですから、しっかりと成長してもらわないといけません。はっきり言うなら義務です」


 校長は後半は厳しく言い聞かせるように、僕に向かって言った。


「はあ、義務ですか」


「そうだね。死神の中でもエリートだよ、良かったね?」


 レイは納得したのか楽しそうにこっちを見ている。


「星を覆うくらいになるにはどのくらいの修行がいるの〜?」


「そこまでになるには、何百年と掛かるといわれてます。早くても百年は……星を覆う程のものを持っているのは組合が把握している者で現在では五十名にも満たないと聞いてますし、修行している者も少ないと聞いてますからね、貴重さが分かるかと……」


「ふうん、で、良い死神さんはいるの? アキの先輩になれる人」


「ふむ、難しいですな。ガーディアンはその性質から保護されてますから、余り情報が無いのです。出来れば成長されるまでは、お顔は余り晒されない方がよろしいかと。一応は組合に報告を致しますが、私からよりメレディーナ神からの要請の方が良いかもしれません。紹介状を書きますので、それと共に死神の組合に出して頂く形にするのが良いでしょう」


「うーん。保護というと?」


「大昔に初心者や見習いを、邪神、悪神の集団で狙い撃ちにされたとか……詳しくは分かりませんがそう聞いてます」


「物騒ね〜。いいわ、メレディーナと相談ね〜」


「そうだね。色々ありがとう、校長のおじさん」


「はい、何かありましたらいつでも声を御掛け下さい。それでこちらに御泊まりになられますか? 今日は学食もそろそろ開きますし、授業も本格的には夜からで、大体午前二時あたりが最も活動が高まる時間です。寮には空き部屋はありますが、少々窮屈かと……ゲストハウスも用意してますが?」


 マリーさんを見て校長がゲストハウスを勧めてくれている。


「寮に泊まるのがメインだよ、ね?」


「レイはそれが楽しみだったんだね」


 僕が聞いたら当然だよとの返事が返って来た。うん、付き合うのも良いかもしれない。


「確か、四人部屋でしたね」


 見学の際、確認したらそうだった。聞くと成績によって一人部屋、二人部屋、四人部屋まで分かれるのだとか。なので空いている部屋は一人部屋と四人部屋だそうで、他の体験学習の人達は四人部屋を一つづつ取っているみたいだった。


「じゃあ、僕と紫月とスフォラで一人部屋でいいんだね?」


 僕の成績優秀(?)な実技があったのだから一人部屋を体感して来て良いよとの事だった。でも、体の大きいマリーさんか、女性の紅芭さんが使った方が良いと思うんだけどな。


「そうね〜、お邪魔はしに行くわ〜」


「うん、違いを見るのも面白いよね」


「確かに、優遇の度合いが分かるな」


 学食でのご飯を食べながら、話し合いをした。学生達が珍しそうにこっちを見ていて、特にレイの事をじっと女学生は見ていた。こそこそと話す合間に可愛いだのお人形みたいだのお持ち帰りしたい、とか聞こえてきたが全てスルーした。

 心配していた学食の味はそれほど悪くなく、普通に食べる事が出来た。僕達が入った店が悪かっただけなのかもしれなかった。学校が本格的に始まるのは夜になってからという事で、僕達は一旦休みに寮へと向かった。

 もう夕刻で、生徒達ももうすぐ起き出してくる時間だったが、僕達は昼前から動いていたし体験用の授業も夜の10時くらいに始まる事もあって仮眠をとることになった。

 一人部屋と四人部屋の差は大きかった。一人部屋はベッドも大きくて、レイもここで眠れそうだね、と言ったら仮眠はこっちで取ると言い出した。うん、分かるよ。

 仮眠の後、体験用の授業を見に行ったけど、死神の歴史みたいな内容だった。何年くらい前に死神の組合が出来たとか、各世界の魂の規格が決まったとか、そんな話だった。

 神々の記憶の剥離、削除や魂の解体は難しく、本人の承諾が無いと危険なために無理に行われる事はなくなったとか。例え、邪神や闇落ち神でもだ。

 争闘クラスの体験はパスしたかったが、マントをマリーさんと伊奈兄妹に渡して僕達は見学する事にした。他の見学者達は初心者の見学に行ったのに、三人はその隣でやっていた上級者の方に挑戦しに行ってしまった。まあ、心配はしてなかったですよ? あっさりと教えていた教員を伸してしまっては問題だとは思うけど。


「……ベール要ったのかな」


「使ってなかったね、暴れ足りなかったのかな」


「さあ……」


 授業はマリーさんが教員に教えていた。何やってるんですか? 猫姿の紫月とスフォラも何やらまねしていたけど、迫力は無かった。二人とも僕を敵にするのは止めてー、変な気分になるから。


「あの教員じゃダメよ〜、もっと基本をやらなきゃ。足腰をもっと鍛えないと戦いには行けないわ〜」


「ふむ、マント頼りでは上達は難しい」


「そうですね、戦いはもう少し精度を上げないと、生き残れませんからね」


 口々に何やらダメ出しをしていたが、僕にはよくわからなかった。結局、校長に争闘クラスの授業の見直しをさせていた。生徒の命がかかってるので出し惜しみはダメ〜と、厳しかった。

 夜明けに寮に戻ってぐっすりと眠ってたら、途中でレイが忍び込んで来て一緒に眠った。向こうのベッドが堅かったみたいだ。

 昼過ぎに目が覚めた。眠気が余り取れてなかったが、帰りの列車に乗って帰った。


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