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CHERRY  作者: のの
35/35

33とさんぶんのいち

で。


駆け落ち未遂事件で、おれとあいりの絆は深まった、とおれとしては思いたいのだが、あいりはというと、やはり以前とまったく変わらず、おれが学校から帰ってもDSiという新たなお友達に夢中で完全無視、いや、気付いてくれない。

それよりもおれは吉原のほうとより仲良くなったかんじで、また何かあればいつでも頼ってくれ、などと男前なことを言ってもらえたため、そのうちまた遠慮せずにお世話になろうと思っている。

数日も経った今、おれと吉原の噂は早くも立ち消えになって、いつのまにか何事もなかったかのように、昼休みにおれが母さんお手製のお弁当を広げていると、おれの正面を日野が陣取り、日野の隣を宇垣が陣取る、というお決まりの現象が起きるようになった。

日野がおれを避け始めたあの日から戻ってきた今までの中で(なるほどこれが最近か)、日野の中でどのような心の動きがあったのか、それはおれの知るところではない。日野が一人で納得して、おれと宇垣のもとへ戻ってきたのかもしれないし、誰かに説得されて戻ってきたのかもしれない。いくら考えてもわからないが、まぁ、知らなくても損をすることはないだろう。

日野が戻ってきたことで宇垣のテンションは再びはるか高みにのぼり、今までどおりのにぎやかさを取り戻した。

いや、厳密に言うと今までとはいくつか相違点があり、そのせいでさらににぎやかになったのだが、まぁ、言うほどのことでもないので割愛。

とどのつまりは、おれに友達が増えたというだけのことだ。


「ねぇ、日野」

「ん、なぁに、チェリー?」

さくらんぼは柄まで食べる派の日野が、またさくらんぼを柄ごと口に放り込んだのを見て、

「さくらんぼ、いっこちょうだい?」

とおれは言った。日野は快く頷いておれにさくらんぼを差し出し、宇垣が妙に羨ましそうにそれを見てくるので、そのさくらんぼをそのまま宇垣に渡して、

「もういっこ」

と言ってみた。まさか本当にふたつ目をもらえるとは思ってなかったんだけど。

「はいっ」

と日野がくれたさくらんぼを、おれは日野みたいに柄ごと口に放り込んだ。

実は種ごとのみこんで、舌を器用に使って柄を結んで、べっ、と手のひらに吐き出す。

柄はおれの唾液でべたべたになっていたが、その結び目の形の良さに、おれは心底満足した。

フォースキスは上手くできそうだ。



――, CHERRY is the END.

 

こんにちは、もしくはこんばんは、もしくはおはようございます。まずはここまでチェリーのお話に付き合ってくださったあなたに、感謝と、少しばかりの謝罪を。

本当は、こんなに長くなるはずじゃなかったのです。というより、こんなに長くなってしまうとは思っていなかった、が正しいかもしれません。……、ちゃんと終われてよかった。

私がこのお話を書き始めた当時、世間は空前のケータイ小説ブーム、新しい文学の誕生に賛否両論が新聞の上を飛び交っていました。

ケータイ小説とやらは、拙い文章、いちいち挟まれる句読点、必要以上の改行で読みにくいことこの上ない。ストーリーもどれも似たようなもので、いじめやらレイプやらで主人公は悲惨な運命に翻弄され、恋人はやたらと病魔におかされ死んでいく、“純愛”と“感動”を無闇に売りにしたノンフィクションばかりだ。

といった辛辣な内容の某評論家のインタビューを新聞で読み、ふむ、ならば私はそんなケータイ小説のイメージとはまったく逆のケータイ小説を書いてみようじゃないか、という思いつきから、このお話を書き始めました。

つまり私が最初から思い描いていた物語、句読点や改行がやけに少なくて読みにくい、いじめもレイプも病気もない、泣けもしなければ笑えもしない、ヤマもオチもイミもない、成就とは程遠い恋、作者とは程遠い主人公、現実にはありえない完全フィクション、よい子はマネしないでね、というぐだぐだ物語どおりに、このお話は一応の完結を果たしたわけです。

これできちんと完結しているつもりなのかと問われれば、それはどうとも言えませんが。

自己満足の賜物でしかないこのお話が完結という形を取れること自体、奇跡なのだから。

書いている途中の評価やコメントは励みになりました。もちろん読んでくださる方の存在だけでもそうでしたが、あのメッセージがあったからこそ、物語の終わりを迎えられたのだと思います。

そういえば、本を評価するにあたって、まず最初に“作品のテーマ”なるものをお探しになる方が多いのではないでしょうか。その点で、このお話は不利でした。なにせテーマがない。当然です、思いつきで書かれた話に、明確なテーマなどあるはずがないのです。

しかしそれでもこのお話に作者からのメッセージを求める方がおられるのなら、仮にも作者の私は答えないわけにはいかないのかもしれません。

ええと、

じゃあ、

未成年者の飲酒の危険性について。

この物語はフィクションです。未成年者の飲酒は法律で禁止されています。お酒はハタチになってから。じゃないと大変なことになっちゃうぞ。

作者が言いたいのは、それだけです。

というわけで、つい長々と書いてしまいましたが、チェリーのお話はこれにて終了です。ちょいちょい張っておいた伏線は半分も回収できておりませんが、素人の書く小説だからと、笑って許してやってください。

このお話の続き、チェリーの恋の行方はだれにもわかりません。チェリーは死ぬまであいりに尽くすのかもわからないし、ある日ふと心変わりして、日野を好きになるかもわかりません。望月かもしれません。麻生ちゃんかもしれません。吉原かもしれません。私にもわからないのです。

だから、チェリーの未来を決められるのは、このお話の最後を見届けたあなただけ。

そんなあなたにもう一度、めいっぱいの感謝の気持ちを込めて。

ありがとうございました。


2008年12月 のの

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