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CHERRY  作者: のの
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23

これは想定外だった。

本当はこんなはずじゃなかったんだ。

ほら、宇垣はともかくとして、クラスの皆は基本的に、おれの友達じゃん。

なのに、誰一人おれの無実を信じてくれていないっていう、この状況。

「まぁ……しょうがねぇよ、それは……チェリーもだけど、吉原にだって、あんなモテんのに彼女いないってんだから」

今まで吉原が、何人ものマドンナを振ってきたのが、一つの原因らしい。

確かに男が好きで、恋人までいたなら、そりゃあ、どんな美女に告白されても、OKはしないだろうけど。

おれが恋もキスも未経験だったっていうのも、女はダメでそれを隠すためにそういうことにしておいた、とかいう理由があれば、他人からすれば充分納得のいくことなのかもしれない。

「宇垣はおれの言うこと信じてくれるんだよね?」

「ん?そりゃ……、酔ったノリで、なんだろ?」

「うん」

「まぁ、俺もその場で一緒にべろんべろんになってたわけだし」

そうだよな。

そう考えるのが通常なはずなのだ。

なのに、だ。

「……あの日野の態度は一体何なんだよ」

さっきからおれと目を合わせようとしない。

それどころか、話しかけてもわざとらしく無視するし、それでも話そうと追いかけたら、力の限り逃げるのである。

「あぁ……なんかイライラする……おれが何したってんだよぉ」

「吉原とキスしたんだろ。……ごめんなさい」

きっと睨むと、宇垣は情けなく頭を下げた。

そういえば宇垣は、どうしてここにいるのだろう。

いつも日野と行動、というか日野についてまわっている、ような気がしていたのだが。

「宇垣さあ」

「ん?」

「日野のトコに行かないの?」

「はっ?」

おれが言うと、宇垣は驚いたように声を上げた。

「……チェリー……」

「ん?……ってぇ!?」

宇垣にでこぴんされ、おれは大声を出してしまった。クラスメイトたちの視線が、一斉におれと宇垣に注がれた。………日野以外は。

「チェリーのくせに生意気なんだよッ!!」

「う〜……生意気って何がだよぉ……」

涙目になりつつ言うと、宇垣はもう一度、チェリーのくせに、と小さく呟いた。

………チェリーのくせに、か。

はーあ。

なんでもチェリーというおれのあだ名も、吉原が言うにはまずかったらしいじゃないか。

「知らないのか?チェリーボーイって、英語の俗語で、童貞の他にホモって意味もあるんだ」

とか言われても納得できねぇ。

そんなこと、おれは吉原に聞くまでまったく知らなかった。

それどころか、チェリーというあだ名も、おれが自分で、おれはチェリーだぜいえい、なんて言ったわけでなく、いつのまにか周りからそう呼ばれていただけなのである。

だから、チェリーにどんな意味が込められてたって、おれが知ったことではないのだ。

なのに生徒たちときたら、チェリーってのはつまりそういった意味だったんだな、みたいな雰囲気ですよ。

意味わかんねぇ。

「チェリー、」

「だから別におれチェリーなんて呼ばれようと努力したことなんか一度もないんですぅ!!」

突然肩を叩かれ、おれはうんざりと振り返った。

が、

「……う?麻生?」

おれの肩を叩いたのは、噂を聞いて真相を確かめに来た他クラスの生徒ではなく、おれの図書委員のパートナー、麻生だった。

この前は目の前で名前間違えてごめんね。

あと今も驚かせたみたいでごめん。

「あの、えっとね、今日、チェリー、当番、だよね?」

ゆったり、というよりゆっくり、というよりゆぅっくりな麻生独特のペースは、あいりの喋り方みたいで、おれは結構好きだ。

けれど日野はあんまり好きではないらしく、麻生がおれに話しかけるといつも、気付くとどこかへ消えていた。

そういえばそんなときも、宇垣は日野についていくことはなかったっけ。

「ううん、今日は月曜日だから、当番は吉原だよ」

「吉原くん、なの?そっか、残念。」

「どうかした?」

「あ、ちょっとだけ、お話、したかったんだけど、当番じゃ、ないなら、別に、いいの。今日じゃなくても、いいから。」

「話なら今でもいいけど」

「ううん、できたら、図書室、みたいな、静かな場所、が、いいし、時間、取るほどの話でも、ないから、当番しながら、とか、でも、平気だし。明日は、チェリー、当番?」

「明日は吉原と二人で、かな」

「二人?そっか、なら、明日で、いいよ。」

「ん、わかった」

麻生の、小さくてか細いのに聞き取りやすい言葉に、おれが笑ってうなずくと、麻生も微笑んで、そのまま自分の席に戻った。

「麻生はおれのこと信じてくれてるのかな?」

「……さぁ……?」

宇垣は首をかしげた。

相変わらずテンションが低いな、宇垣にしては。

――おれと二人だから?

そういえばこの前も、おれと二人で登校してる時、こんなかんじでテンションが低かったのに、日野が来た途端に元気になったし。

……おれ、宇垣に、嫌われ………いや、いやいやいやいや、そんなにおれがイヤなら、さっさと日野の方に行くはずだし、今おれの方にいるってことは、ねっ?

宇垣を見上げると、妙にばっちり目が合って、

「俺は信じるって言ったろ」

と言われた。

「うん。まぁ宇垣にだけ信じられてもアレだけどね」

「うわっ、油断したトコに来るか、おのれチェリーめッ!」

おぉ。

いつもほどではなくても、宇垣の反応が期待通りで、おれはけらけらと笑ってみた。

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