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CHERRY  作者: のの
13/35

12

「うぃす、これでおっけ」

望月は女子生徒にカードを返して、おれの頭をよしよしとなでた。まるで犬にでもするみたいに。

「返却の手順はわかったかなぁ?」

「はいっ」

「んー、よいお返事です」

むぅ、望月のペースに呑まれている。

「ねぇ、吉原は?」

「よっしぃ?」

あれ、よっしぃって、吉原のことだったのか?

「なぁにチェリー、よっしぃに会いたいの?」

「会いたいっていうか、聞きたいことがあって」

「ふぅん」

望月は相づちを打って、含みのありげな笑みを見せた。

本当は含みなんて無くて、普通に笑っているだけなのかもしれないな、とおれは少し反省することにした。

やっぱ人を見た目で判断してはいけないよな。

「っていうかさ、おれ、あんまし図書室で望月を見たことないんだけど、なんで来たの?」

「えー?そんなん、チェリーに会いに来たに決まってんじゃん!」

「え、おれぇ?」

「そうそっ」

望月はにっこり笑った。昨日同じ席で、吉原が笑ったのに似た笑いだった。

「そういえば望月って、吉原のカノジョじゃないの?」

おれは、吉原に力いっぱい否定された質問を、望月にもしてみた。

「だぁから、違うってばぁ」

羽のように軽く否定された。

「言ってんじゃん、あたしはチェリー派なんだよっ?」

短い髪を揺らして、望月はいたずらっぽく笑った。

だから、その派閥が何なのかわからないんだよ。

「でもなんか吉原と仲良さそうだったけど」

「んーん、全然だよ。ただおんなじ図書委員なだけ」

「え」

望月は図書委員だったのか!?

どおりでなんか見たことある顔だと思ったんだよ、そっかぁ、6組の女子の図書委員は、望月だったのかぁ。

「7組の女子の図書委員は安住だよ!」

「え?いや、麻生ちゃんだよ」

ありゃ。

間違えた。

「麻生ちゃんだよね、麻生ちゃん」

「そだよん」

どうにかしなきゃな、この記憶力。

「じゃあさ望月」

「なぁに?」

「女子の図書委員はさ、図書当番やんなくていいの?」

「あぁ、それはぁ」

望月は爽やかな笑顔のまま、図書室の奥を指差した。

「女子は女子でお仕事があるの」

望月が指差した先には、

麻生ちゃんがいた。

「あ?………あれぇ、麻生ちゃん、いたの?」

そういえば麻生をちゃん付けしたのは初めてかもしれない。

「………ずっと。」

麻生の小さな声が、かろうじておれの耳に届いた。

麻生の声で届くんなら、おれの声は向こうに丸聞こえですか?

「やっべ」

本人の前で名前間違えるとか最悪だ。

もう嫌だ。人の名前間違えるし最近はいくらか前から今まで。だし母さんのへそくりは無かったし妹を好きになるし。何やってんだおれ。人間やめちまえ。

そうだ、人間なんてやめて猫になろう。

猫になってあいりに拾ってもらって可愛がられる幸せなセカンドライフを楽しもういや無理だ。句点すら挟めないほどに無理だ。

あいりに拾われて、幸せなセカンドライフなんて送れるはずがない。

あいりに拾われてしまったらやばい。まじやばい。人生終わる。ん、猫なんだからにゃん生か?まぁどっちでもいいけど。

あいりなんかに拾われてしまったら、半殺しどころか四分の三殺しになるまで玩具にされて、挙句今朝のDSみたいに飽きられて壁に叩きつけられ粉々になってしまうに違いない。

そういえばあいり、バラバラになったDSの部品の一部で懐かしのゲームボーイ型に組み立て直してポケモンやってたけどあれってちゃんと遊べていたのだろうか。タッチペンで何やらバシバシしてたけど、ポケモンいじめたり、四分の三殺しになるまで玩具にしたりしていなかっただろうか。

あいりの可愛いポケモンたちが心配になってきた。

「……チェリー?」

「んぁっ!?」

びびびびびびっくりしたぁ。

「耳元で囁くなよっ!!」

「ふーってしないだけいいじゃん」

ふーなんてされたら気絶しそうである。

………あれ?

なんかおれ、超どきどきしてる。

むぅ。

あいりを好きになる前だったら、これが恋だとかって勘違いしていたかもしれない。

「大丈夫?」

「あっいや大丈夫じゃないよあいりのポケモンたちが!!おれアドバンスになってからはポケモンやってなくて今何匹まで増えたのか知らないんだけどとにかくあいりを止めないと可愛いポケモンたちがぁぁぁ」

「チェリー、落ち着きなさい」

望月の言葉に、おれははっとした。

「しまった………気を付けていたのに」

おれってばまた現実逃避を。

「………あぁ!」

望月が何やら納得したように頷いた。

「これが世に言うチェリーの宇宙交信ね!!」

……どうやらおれの現実逃避は宇宙と交信するためのものらしい。

「なぁるほどねー、あぁそうなんだぁ!」

「え、自己完結ですか?」

「お前が言うか?」

おぉ、この声は。そしてツッコミは。

「あっれぇよっしぃ、今日はチェリーが当番なんじゃなかったの?」

望月は妙に嬉しそうな顔で言った。嬉しそうにというか、愉しそうである。

「………望月が図書室に行ったと聞いて、神波が心配になってな。来てみたんだよ」

「ご心配なく、あたしゃ可愛いコには優しいのよっ」

「神波、精神的に無事か?」

「もーまんたい」

「ならいい」

吉原にはつっこまれなかったけど、言ってしまってから、モウマンタイは古かったなぁ、と思った。

「ちょっと吉原くぅん、あたしのコト微妙に勘違いしてない?あたし本当はかなり優しい人なんですけど」

「何しに来たんだお前?」

おぉ、完全スルー!

「仕事しに来たの!毎日麻生ちゃんにまかせっきりじゃかわいそうだしね」

あっ、じゃあおれに会いにきたってのは嘘だったのか!!

「そのわりには麻生と違って暇そうだな」

「いやぁそれは違ってね、チェリーに半泣きで助けを求められちゃったからさ。あんなカオで、おねがい助けてっ、なんて言われちゃあ、老若男女どころか魑魅魍魎だって、全力で助けてあげようって思わざるをえないだろうなぁ」

ん?どっかで聞いたようなフレーズ。

まぁいいか。

「あっ、それより聞いてよよっしぃ!チェリーってば宇宙交信のときさぁ、キス待ちみたいなカオすんの!!超かわいー」

キス待ち顔ってどういう顔だよ。

「まぁ、それは、見てたけど」

「キスしたくなったでしょ」

「なるか」

「あれ、ならない?」

「なりません」

「あちゃあ、あたしだけかっ」

「……お前………」

「まぁ?彼はみんなのチェリーですし?ここで初Kiss奪っちゃダメでしょと思って抑えましたけれど?」

「ハイハイ良くできました」

「なんかさ」

おれが口を挟むと、二人は同時におれを見た。

なんか、注目されると照れるなぁ。

「やっぱ二人、仲良いよ。ただ同じ委員ってだけって感じじゃない感じ」

ん、なんか感じって使いすぎた気がしなくもない感じ。

「いや、恋人はこんな会話しないだろ」

「そうそ、よっしぃとあたしが恋人だったらよっしぃとチェリーも恋人だよ」

「え、そうなの?」

「そうなのっていうか、よっしぃとチェリーの会話もこんなもんなんじゃないの?」

………そうかも?

「なんでお前、俺と神波の会話の内容知ってるんだ?」

「え?陰から密やかに二人を見ていたのさ」

「ストーカーかお前は」

……やっぱおれと吉原はこんな会話しないぞ。

「あ、そういえばチェリー、よっしぃに聞きたいことがあるんじゃないの?」

「………あ」

おれが見上げると、すぐに吉原と目が合った。

望月の前であいりのことを話すのもどうかと思い、吉原にテレパシーを送っていると、奇跡的に吉原は受信してくれたようで、あっち行くか、と遠くを指差した。

「うん……ごめんね、望月、当番……」

「おっけおっけまかしといて」

「あっ、ありがと望月!!」

「うん、ごゆっくり」

やっぱり望月はいい人だ。

おれはそう思いながら、吉原と飲食スペースに向かった。

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