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この物語はTwitterにて出たお題診断結果の、


①SPICE5は国境周辺出身の人間で、西国境線守護の辺境騎士団所属の兵卒(警備兵)。得意分野は射的術系(弩・強弓・銃他)で、今の自分に不満です。

 http://shindanmaker.com/268289


②SPICE5の店はケリドーン通りにある『巻物屋』。金板の看板が目印で「女の子に人気」と評判のようだ。お向かいは『鱗屋』です。

 http://shindanmaker.com/277254


③SPICE5さんにご提案するのは、「秘密と嘘」、「方舟」、「遠くまで」、「蝶々の骨」、「夏の朝にランプを 」の五つのお題です。

 http://shindanmaker.com/114923


の3題をTwitter上にてぽつぽつと紡ぎ、掌編をつくりました。

Twitterに出したものをそのままつなげています。

(中、下 でも5題診断をしなおし、そのお題を小タイトルにしています)



【夏の朝にランプを】


 燃えるような朝焼けを見ながら机上のランプをふっと消す。今夜の見張りはこれで終わりだ。

 俺はしがない辺境警備兵だ。騎士団所属といえば聞こえはいいが、華やかな世界とは全く縁のない、ただひたすら警備塔の最上階から国境を眺める日々を送っている。

 せめてこの朝焼けでも一緒に見る相手がいればと、そんな思いに囚われることがある。 この塔を年中見張っているのは俺と相方の二人だけだ。週に一度の買い出しに出るまで人っ子一人会うことはない。そうして相方とは昼と夜、交互に起きて辺境を見張るだけ。夜の担当が俺だ。

 嫁さんでも貰えばどうだと、買い出しに行く店先にて茶化されたことがある。貰ったところで滅多に会えはしない上、こんな辺境に誰が来るというのだ。そもそも出会いなど皆無である。

 気まぐれに、塔のへりにパン屑を撒いたら鳩がやってくるようになった。

 嫁は当分こいつらでいい。




【蝶々の骨】


 今宵も変わらぬ警備をする。気が緩みがちなのは、ここがさして危険地帯ではないからだ。隣国とは数十年前の協定以来関係も良好、最早形ばかりの砦である。

 欠伸をしたら口の中に何か入りかけた。ぺっぺっ、と吐き出すと光る蝶々がよろよろと飛び出てきた。こんな高所に蝶とは珍しい。

 鱗粉が入ってしまったらしく、口腔内が非常に不愉快である。水差しから椀に水を足し口の中を幾度もゆすぎ塔の外へと吐き出したが、一向にちかちかと刺すような刺激が収まらない。

 蝶はしばらくよろよろと塔内を飛んでいたが、やがて力尽きたのか、ほたり、と落ちて動かなくなった。

 夏は夜明けの光ですら眩しい。俺は目の色が薄い為強い光は苦手だ。顔をしかめてやり過ごしながらふと思い出し蝶を見ると、美しい羽根をそのままに死んでいた。このまま踏み潰すのも不快だろうと、俺は蝶を摘まんで持ち上げ相方に交代を告げに階段を降りる。今夜の見張りはこれで終わりだ。


 翌日、また蝶を見た。俺は夜目が利く。ひらひらと飛ぶ見覚えのあるその光を一羽の梟が追っていた。俺は立て掛けていた矢筒から合図用の矢笛を取りだし、穴にチーズを詰め込んだ。隙間を残して埋め終えると弓につがえて矢を放つ。ひょううう、と間の抜けた音と共に矢は梟の脇をかすめた。

 梟は慌てて逃げていき、俺はほっとして弓を下ろした。昨夜死なせた蝶とよく似ていたため、せめてもの侘び返しができたらと考えたのだ。殺生はあまり好きではない。 蝶はひらひらと塔の中に舞い込んできた。机の端に止まり、羽の動きに合わせて白い光が強くなったり弱くなったりしている。

 俺は見張り台から時折ちらちらと蝶を見た。この不思議な虫と夜を過ごす。ほんのりと愉快な心持ちだ。 気分良く朝まで勤務を終え、さて交代だと机を見ると蝶は動かなくなっていた。 俺はそっと蝶を摘まみ、死骸を壊さないよう気を付けながら、相方を呼びに降りていった。




【方舟】


 一日早く買い出しに出た。業務記録用の紙が切れかかっていることに気付いたからだ。普段あまり書くことがないと却ってこのようなことが起きてしまう。

 ケリドーン通りにある『巻物屋』。上質で洗練された装飾紙を置いてあり女性の姿をよく見かける。辺境赴任以来、ここの主人とは顔馴染みだ。

「おや、珍しいね水の曜日に来るとは」

 金縁眼鏡を押し上げながら主人に言われた。

「記録紙が切れた」

「ああ、そいつはいかんな。どれ、ちょっと奥から取ってくるから待っててくれ」

 誰もいない店の中、棚にもたれかかり窓の外を眺めていると、若い女性が扉を押し開けようとしているのが見えた。

 扉を引き開け女性を入れる。この店は古くからあるため扉が重く少々立てつけが悪いのだ。

 礼を言って顔を上げた彼女は思わず息を呑むほどに美しかった。彼女も同じような反応をしていたのはきっと気のせいだ。俺は顔も身体もいかつい。

「あの、ご主人は……」

 震える細い声までもが美しかった。

「奥で探し物を」

「そうですか」

 それきりの沈黙。

 ぼんやりと商品を眺めていると、

「あの、吸い取り紙ってどちらの棚かご存じですか」

 と尋ねられた。

 目的があれば協力は簡単だ。俺は店中の棚を漁り吸い取り紙を探した。

 結果、主人が戻る前に見つけることができた。店を荒らすなと叱られはしたが。

 彼女が出ていった後「常連さんかい」と尋ねてみた。

「水の曜日にこうして来るねえ。ほら、向かいに入ってくだろ」

 鱗屋の扉を押し開けようと苦戦する彼女を見て、俺は思わず動きかけた。が、主人のにやにやする顔に気付き、咳払いをして誤魔化した。

「ま、確かにえらい美人だがな、やめときな。

 鱗屋に入るのは自分らのそれを売るためだ。水の曜日はほら、水気たっぷりだろう」

 しとしとと降る細い雨を指しながら店主は言った。

「ああして陸に上がれる人魚達が方舟に乗って買い出しに来る」

「人魚……」

 本物を見たのは初めてだった。

「だからねぇ兵隊さん、本気になっちゃあいけないよ」



*****




【遠くまで】


 驚きました。

 まさかあの人が来ていたなんて。

 確かに塔から一番近い街ですから必要となれば買い出しに降りてくるでしょう。

「ねえ、人間に何か言われた?」

いつもと様子が違って見えたのか帰りの舟で仲間に心配されました。

「いいえ、親切にしてくださった……」

 ――やはり優しい方でした。


 今宵も私は岩場に上がり、鱗の隙間にナイフを入れます。刃を押し上げて鱗を引き抜き、血を吸い取り紙で押さえます。抜いた二枚の鱗を合わせ、そっと息を吹きかけると光る蝶が生まれました。

「さあ、行っておいで」

 私は蝶に呼びかけます。

「行って、私の目となってあの人に会ってきて」

 私達人魚は陸に上がれません。水の曜日の僅かな間に買い出しに行ける者がいる程度。私もその役目を担う一匹です。

 陸に憧れる人魚は時折こうして『目』を作ります。剥がしたばかりの鱗に息を吹きかけ蝶を作り、夜の間だけ飛ばすのです。

 そうして、私はあの人に出会いました。


 あの夜、私は遠くに『目』を飛ばし、暗闇に灯る明かりに近付いていきました。

 私を口に入れ、あの人は酷く慌てていました。次の日は襲われていた私を助けてくれました。そんなことせずとも朝には消える命なのに。


 そうして私は気付けば毎夜、あの人の元へと飛ぶようになっていきました。




*****




【秘密と嘘】


 雨よけコートのままケリドーン通りで買い出しを済ませる。水の曜日は人けもなく休みの店も多い。

「やあ、来たか」

 巻物屋に入ると店主ににやにやしながらそう言われた。咳払いをして品物を眺めるふりをしながらその時を待つ。

 立てつけの悪い扉が押される音に、急いで駆け寄り扉を開けた。

「こんにちは」

 声が震えなかっただろうか。彼女は驚いた顔をしつつもお辞儀をしながら店内に入った。

「あの、吸い取り……」

 言い終える前に、俺は品物を出して彼女に渡していた。

 扉を開けて見送った後、「ドアマンだな」という店主の言葉がかかるまでぼんやりと鱗屋に入る彼女を見ていた。

「おいおい兵隊さん、本気になるなと言っただろう」

「いや、そんなんじゃない」

 慌てて訂正したものの、店主は気の毒そうな顔になった。

「足を擬態させてはいるがなあ、彼女は人魚だぞ」

 分かっている。だが、鱗屋を出てくる彼女を見たら、扉を開けて追いかけていた。

「あの、荷物、持ちます」

 とまどう彼女から袋を受け取る。不振がられてしまっただろうか。

「ぐ、偶然ですね。俺もその、毎週、ここに来てるんです」

 つっかえてしまうのが情けない。

「ですから、その……ま、また、お会いできますか?」

  驚いた顔をしつつも、彼女は小さく頷いてくれた。


 今宵もいつもと変わらぬ見張りだ。

 だが、この奮い立つような熱い気持ちは何だ。どうにも扱いに困る。

「……俺は、彼女を好きなんだろうか」


 呟くと、傍に止まる蝶の羽が震えながら淡く光った。

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