Peace at the end of the apprentice wizard
ようやく投稿
実に4ヶ月ぶりぐらい
数日の後、オレ修行が始まることとなった
魔法使いとして生きるということは、日常とまともに関わることは難しいということらしい
曰く、魔法使いは魔法を秘匿する者であり、神秘を保たねばならないという
故に美沙斗が「今週いっぱい友達としっかり遊んできなさい。ああ、宿題とか勉強は見てあげるから」と言ったのでオレはそうすることにしていた
「湊、どうした顔色悪ィぞ」
「安心しろ、ただ悩みの種が災害のごとくやって来ただけだから、むしろ嵐がやってきた…それも特大のヤツが」
「何ィ!?お前の家吹き飛んだのか!?あのオンボロアパート!」
「…何を言ってるんだお前は…比喩表現に決まってるだろ…」
「そ、そうか。そりゃそうだな」
悲しいかなこのバカがオレの友人、赤枝錬司だ
身長185cm、体重87kgというガタイの持ち主であり、バカっぽい見た目で期待を裏切らないバカだ
バカだが、筋は通ってるしたまに鋭いので実はコイツ演技なんじゃないかと思う時もあるが、やはりバカだ
つまり、ただのバカだ
腕っぷしに関しては…言うまでもない
「ん?嵐が比喩表現とすると…何がやってきたんだ?まさか、お前の部屋に鳥の大群が押し寄せて来たのか!?」
「戯け、そんなモンが来たら大騒ぎだ…まぁ…そっちの方がマシかもしれん。いや、確実にそっちの方がマシだ」
「ま…まさか…虫の大群か!?」
「だからなんでお前の発想は何かしらの大群に行き着くんだ…」
いや、正直そんなんの大群に出くわす方がマシな気がするのはオレが疲れているせいだろうか
「大群じゃねぇのか!?じゃあ…嵐にたとえられるモノなんて無いじゃねぇか!訳わかんねぇ!」
「…訳分からんのはお前の頭だ…嵐の比喩表現イコール何かしらの大群にしか行き着かないお前の頭がな…」
本当にコイツのバカは分かってやってるんじゃないだろうか
流石にあり得ないだろう
「じゃあ何がやってきたってんだ」
「姉貴…襲来…だ」
「………」
表情をひきつらせながら、と言うか呆然としながら沈黙していた
間違いない、コイツの次のセリフは---
「素晴らしいぜ…グレイトだ…」
と、このように、間違いなく歓喜に満ち溢れているだろう
「素晴らしいぜ…グレイトだ…」
そしてこの予想通りである
◆
放課後、錬司は美沙斗に会わせろと言い出した
コイツとはそれなりに長い付き合いだが、姉貴によく会わせろと言うのだ
まぁ姉貴は美人ではあるし外面はいいから騙されるのも分かるが
「そう言えばなんで美沙斗さんが帰ってきてるんだ?確かヨーロッパに行ったんじゃなかったか?」
「…さぁ…オレが知りたいぐらいだ」
「ていうかそもそもなんでヨーロッパに行ったんだ?」
「勉強とか言ってたな」
何の勉強かは知らん
まぁもしかしたら魔法の勉強だったのかも知れないのだがコイツに言えるはずもなく
「そうか…言って無いのか、美沙斗さん」
「あぁ?」
「いや、なんでもねぇ、さっさと行こうぜ」
「あ、ああ…」
何か意味深な言い方だったが、聞こうと思う隙もなくオレの家--と言ってもボロいアパートだが--にさっきより少し早足で向かった
◆
「あえて言おう、オレは今信じられない光景を目にしていると」
「いやあえてである必要性は無いと思うぞ」
そう、今まさに目の前で現実を超越した事態が起きている
「オレの部屋が…無い」
いや、物理的に跡形もないのではなく部屋の中にあった家具やら荷物やらが何一つ残っていないのだ
「…湊よ…お前、引っ越ししたのか?」
「ギリギリに近い生活を送っていたオレにそんな金があると思うか?」
「…いや…無いな」
「…どうするかな…部屋を追い出されるような覚えは無いんだが…とりあえず…姉貴に連ら…………あ」
「………やられたな…美沙斗さんに…」
間違いない、姉貴の仕業だ
おそらく実家に持って行かれたのだろう
「にゃ~」
「ん…?」
足元に真っ白なネコがすり寄っていた
もちろん、アイだ。首輪ですぐわかる
「うお、コイツぁお前が飼ってたネコじゃねぇのか?」
「ああ…アイ、お前何か知らないか」
「いやネコに聞いたところでだなお前」
アイを抱き上げて、聞いてみる
もしかしたら何か知ってるかもしれない
するとアイが「にゃー」と鳴いて腕から飛び出して走って行った
「…行くか」
「…え?」
走って行ったアイを追いかけてオレ達は走り出した
数十分も走ると、 少し前に出来た高層…とはいかないが、オレが住んでいたアパートよりは十分立派なマンションにたどり着いた
オレ達がたどり着くとアイはにゃー、と鳴いてオレの腕に戻って来た
「…なぁ、錬司…ここに姉貴がいると思うか?」
「…いる…と…思うんじゃね?」
「いや、その日本語はおかしい」
「じゃあ居るんじゃねぇか?」
「アホだろお前」
「わからねぇ」
「にゃ~」
「アイも言ってるぞ、バカだと」
「何ィッ!?」
ちなみにアイが何を言ってるかは全く分からない
「やっほー!二人ともー!4階まで上がって来てー!」
姉貴が居た
4階のベランダから身を乗り出して手を振っていた
先ずは問いたださなければならない
オレの家…部屋が何故ああなっていたのか
「行くぞ錬司」
「あいよ…」
◆
「やぁやぁ!ようこそ新我が家へ!」
「よしまず答えろオレのモノはどうした」
ナイフを突きつけて問いただした
「湊?すぐに暴力に頼るのは良くないとおねーちゃんは思うな」
「安心しろ基本テメェか錬司にしかしねぇから」
「オレもなのかよ!?」
「で、全てきっちり説明してもらうぞオイ」
「えーとですね…あの部屋だと結界張れないし狭いから私が住めないし」
「ちょっと待て、何でオレと一緒に暮らす気なんだ?テメェ実家に帰れよ」
「私は良いけど、そうなると湊も一緒に帰らなきゃならなくなるよ?」
「何でだよ!?オレは関係ないだろ!?」
「母さんが言うんだから仕方ないでしょ?帰ってくるなら湊を連れてきなさいって。でも、素直に帰る訳ないしね」
「無論だ。誰があんなクソッタレな場所になんか帰るかクソが」
「まぁだと思ったしね。まぁ、本音はあの部屋狭すぎて結界が張れないからなんだけどねー」
「結界?」
「この場合は探知結界と呼ばれるモノさ。いわゆるレーダーってヤツだな」
「はぁ?」
ちょっと待て、今思いも寄らない所から答えが聞こえたぞ
なんで錬司の口からそんな事が聞こえるんだ?
「あ、美沙斗さん、後で結界の基点に“強化”と“防御”を刻んでおきますよ。この部屋にも、いくつか刻んでおきますね」
「ありがたいわぁ、おねーちゃんはとっても嬉しいゾ!」
「いやいや、しょっちゅう世話になってますからね、そのお礼ッスよ」
「ちょっと待て、何が起きてるのかさっぱりだ。錬司、まずお前は何者なんだ」
「悪かったな、黙ってて。オレは赤枝錬司、魔法使い…でいいか」
厳密には違うけどな、と笑いながら錬司は答えた
「つまりアレか、自分の姉が魔法使いだと思ったら親友までもが魔法使いだったと」
「そうなっちゃうね~」
……もう…だれも信じない
◆
「さぁてここで美沙斗さんのよくわかる魔法使い講座の始まり~!はい拍手~!」
「わー!」
「にゃー!」
「あー…」
錬司とアイ(人間の状態になった)が姉貴の悪ふざけにわざわざのっている
まぁ、アイは多分天然だろうが
「今回は、この街の魔法使いについて!そぉい!」
ガンッ!と音をならして姉貴が壁を殴ると、どこからともなくホワイトボードが現れた
「この街には古い魔法使いの家が3つあるの。それが赤枝、遠城、御崎の3つ」
「赤枝…」
錬司の方に顔を向けると、錬司はいつになく難しい顔で話を聞いていた
「オレの家については後で自分で説明しますんで、他二つを頼みます」
「オッケィ、んで、まず遠城の家ね。この家はず~っと昔からこの辺りにいる古~い家系ね。もちろん古いだけあって魔法使いとしては優秀かつ最高クラスの家ね」
そう言えば、遠城、と言う名はどこかで聞いた事はある
どこだったかはわからないが
「つぎは御崎の家ね。ここは3つの中で一番新しい部類に入る家で、300年ぐらいの歴史なの」
300年で十分すごい気はするが、他はもっと古いのだろうか
「遠城が約800年、オレの家は古すぎてわからないぐらいだが、まぁ、最低でも2000年以上だ」
「2000年以上…」
「まぁ、オレの家はちょっと特殊だからな、そこは後で説明してやるさ」
「ちなみにウチは150年あるか無いかぐらいね」
「それでも美沙斗さんは魔法使いとしてはオレでは勝てないし、今の3つの家でも互角以上かな
「いえーい!おねーちゃんは凄いのだー!」
胸をはってVサインを向けてくる姉貴はまるで子供のようだった
姉、と言うよりは妹………は無いな、絶対に
「で?この街には魔法使いがいるのはわかった、それで何が言いたいんだ?」
「アイを狙ってるヤツが居るって言うのは前にも言ったよね?」
「ああ」
「それならこの3つが怪しいの。だって、自分達の領地の中でいわば世界のイレギュラーが発現した訳よ、絶対に手に入れたいでしょ?」
「そりゃな」
「でも、1つは除外できるの」
「オレの家は間違いなく無い、何故ならそう言うのを始めから必要としてないからだ」
「ちょっと待て、その証拠はなんだ?」
「…フム…まずはオレの…と言うかオレの家に伝わる魔法を見てもらうか」
錬司はポケットからメモ帳とペンをとりだした
そして、メモ帳のページを適当に一枚ちぎり、そこに何か書き始めた
「いいか、見てろ」
錬司が紙に手をかざすと書かれていた文字のようなモノが光を放ち始めた
「よし、湊、お前のナイフでこの紙を斬って見ろ」
「は…?」
「いいからやってみろ」
「…おう」
オレは容赦せずに錬司が紙を両手で持ち、広げている所にナイフを突き立てた
「…どういう事だ?」
ナイフは確かに紙を捉え、刃を突き立てたはずだが、何故かナイフは紙に受け止められていた
「これがオレの魔法、ルーンによる魔法だ。今はこの紙に単純な“防御”のルーンを書き込んで防御しているだけだが…」
錬司はポケットからなにやら文字のようなモノがいくつも書き込まれたグローブを取り出した、おそらくその文字のようなモノがルーンと言うヤツなのだろう、それを右手にはめ
「フッ!」
紙を軽く上に投げ、グローブをはめた右手で落ちてきた紙を殴りつけた瞬間、ガンッ!とまるで金属塊をぶつけたような音と共に紙が木っ端みじんに砕け散った
いや、紙なのだから破れた、と言うべきなのか
「ルーン文字はアルファベットの起源と言われている…つまり文字の組み合わせでそれに意味を持たせれば様々な効果を生み出す事ができるんだ。今オレがはめているこのグローブは極限まで強化の力を与えているから、その強度はタングステン鋼を超える強度だ」
タングステン鋼、と言えば戦車の装甲や、湾岸戦争においてその戦車の装甲を貫き、猛威をふるったアンチマテリアルライフルの弾に使われる様な金属だ
それを超える強度でありながら布の柔軟性を兼ね備えると言うと、科学では再現は不可能なのではないだろうか
「ルーン魔法…すげぇな…何でも出来るんじゃないか?」
「まぁ、大抵の事は出来るな」
「けど、代わりに弱点も…ね」
ずっと黙っていた姉貴が横から口を出した
「…ルーンは便利で汎用性は高いが…決め手に欠ける…どちらかと言えば補助的な使い方がメインになるからな…」
「…なるほど」
…ん?待て、決め手に欠けるなら、強力な武器か何かを欲してアイを欲しがってもおかしくないんじゃ…
「ルーンって言うのはありふれた魔法でもあるんだが、ソレを究めた家はただ一つ、オレの家だけだ。ルーンを究める、と言うのはすなわちその起源の力に等しい力を得る事だ。聞いたことが無いか?ケルト神話に出てくるんだが…スカサハ、と言う魔法使いを」
「…あいにく、そっちの知識は微妙なんでな…」
「…クー・フーリン、とかの方が有名かな?」
聞いたことはある名前だ
思い出せないが
「ゲイボルク、と言えばわかるんじゃないか?」
ああ、そうだ、思い出した
たしかケルトの英雄クーフーリンはスカサハに魔槍を譲り受ける前の修行でルーンを習ったとか
そうだ、スカサハはルーン魔法の祖だったか
なるほど、それに近しい力と言うことは決め手に欠けるルーンであろうと、原初の力であれば十分と言う事か
「まぁ…真髄は…いや、そう言う事さ」
「わかった?」
「なるほど、理解した。つまり境地に達してるが故に必要としない、と言う訳か」
「そう言う事!魔法使いは原初の魔法か、新しい魔法を追い求めるモノだからね~んじゃ話を戻そっか」
そしてまたホワイトボードに何かを書き込んでいった…




