愛は人を動かせる2
UMA
「お前がそこまで彼女のことを想っているのなら、俺達も命をかけてやる」
真剣な目をした主役に部長がニヤリと笑いかける。
「命をかけるって、これ本当に色恋沙汰の話なんだよな?」
達也は苦笑した。
「で、どうするんだい?」
東吾が尋ねた。
「俺の神ポイントは、世界一神ってるものまね師だ。俺がお前に変装して近づいてやるよ」
部長が大きな袋をテントの中から引っ張り出す。
「だから、それじゃ意味ねぇって」
達也が言った。
部長が彼女に近づいて告白しても意味はないだろう。やはり、告白は主役自身がしなければ意味がない。どちらにせよ、近づけるとも思えないが。
「だから、それだけじゃねえって。おい、主役!!」
「なんだい?」
「お前も一緒に行くんだ!!同じ姿をした人間が二人でいけばきっと世界一神ってる主人公のお前の方が生き残るに決まっている。だろ?」
「はあああぁぁぁぁっ!!部長あんた!!捨て身で特攻するつもりなのか!?それに二人で突っ込だって意味がないかもしれないだろ!!」
さとぽんが驚嘆の声を上げた。
「試してみないと分からないだろ?それに、俺達は神頼み部だ。神頼みぐらいしか為すすべがなくなった奴らをまるで神様のように助ける部なんだよ。さてと、あとは……」
部長はおもむろにケータイを取り出し、電話をかけ始めた。
「もっしー、あ、火怒ポン?お前今どこだよ?」
『男らしい侠である漢は今、パリだあああぁぁぁぁ!!』
「どこまで連れて行かれたんだよ!!」
しばらく黙ってから部長は言葉を繋げる。
「なぁ、漢なら絶対勝てない相手にどうやって挑む?」
『直進あるのみだ!!』
「だよな。結局、俺達にゃそれが一番だよな。んじゃ」
電話を切り、再び電話をかける。
「もっしー、タキシードか?今どこ?ケータイ通じるってことはまだ、世界のどっかにいるんだろ?」
『いや、魔界』
げんなりした声が電話ごしに聞こえてくる。
「マジで?生きてるのかよ?」
『かろうじて。で、何だよ?』
「いや、一つ頼みがあるんだが」
『んだよ?』
「ああ、それはな……」
部長が何か囁く。それからケータイを閉じ、東吾に声をかけた。
「主役に女性の口説き方を教えてやれ」
「いや、今回は彼の気持ちをストレートにぶつけた方がいい。今回の場合は重要なのはテクじゃない。主役君の彼女に対する愛情だ!!」
東吾は首を横に振りそう言い放つ。
「お前がそう言うんならそうだろうな」
「愛は困難を乗り越える糧となる!!」
東吾が叫んだ。
次に部長は雄輝の方を向く。
「お前はどのようなルートが一番最短か考えてくれ。そういうの得意だろ?」
「りょーかい」
雄輝が答える。
「そんじゃ、雄輝のシュミレーションが終わり次第、全員で突っ込むぞ。お前らは主役が何かに巻き込まれそうになったら体を張って盾になれ。何がなんでも主役の思いを彼女に届ける!!」
「りょーかい」
達也が言った。疲れたような顔をしているが口元は笑っている。
「お前ら……」
主役がうるんだ目で部員達を見つめる。
「まだ泣くなよ、主人公。泣くのはハッピーエンドを迎えてからだ」
「んじゃ、いきますか」
今の彼らが恐れるものはない。ただ、前だけを見据えて走りだす。
パリにて
「うおおおっ!!」
「ボンジュール」
「漢なら日本語で返すべし!!こんにちは!!日本への道はどこですか!?」
赤髪の男が一人、鼻の高い青目のフランス人の人達に注目されながら走り回っていた。
魔界にて
「おおおぅ!?」
「バルデガン・ベダマナス?」
「もうそのブクブク泡立ってる緑色の液体はいいって!!」
「ナヤマアサ・デハナタナラ」
「ああ、呪文にしか聞こえねぇっ!!やめっ、ちょっ!?お前、いらねぇっつってんだろ!!それより賭けしないか?」
「ミヤナアハナ・ダナヤアサ?」
「俺はある奴の告白が成功する方に賭ける。お前は?」
皆の意識が一つになり、そして……
後日
青年は、草原に座っていた。
傷だらけの青年は隣に座っている彼女を見て微笑む。
どんなに傷ついても、どんなに辛くても、青年は彼女と共に歩んでいける自信があった。
何故なら彼は主人公なのだから。淡い太陽の日差しが彼らを照らす。
彼と彼女の物語はまだ始まったばかりだ。
「これでよかったのか?」
「ん」
傷だらけの7人は部室にいた。疲れたような顔で、でもどこか誇らしげな顔をした七人は床に転がっている。
「それじゃ、とりあえずキャンプにしますか」