裏に渦巻く暗い蔭、
「だよねぇ、那帆もそう思う!」
休み時間、耳障りな甲高い声が聞こえた。がやがやとうるさい教室に、ほんの一瞬、冷たい沈黙が訪れ、また話が再開された。歩菜がちょっと怒り気味に囁く。
「まただよ、今木。話に無理矢理入ろうとしてるのみえみえじゃん。うざいんだけど」
入学して1ヶ月半もたてば、もとは知らないクラスメイトの人格も分かってくるものである。そしてあちこちで嘘か誠かもよく分からない噂が囁かれるようになる。そのなかでも、今木那帆は目立っていた。小学校の時は喧嘩で暴力沙汰にまでなった、無視するのは日常茶飯事、いじめが趣味、ちなみに自慢が大好き。なのに、なのに中学入学と同時にぶりっこになった、モテたいから、むかつく、とよく分からない悪口を私も良く聞いていた。特に歩菜の那帆嫌いは酷かった。両学校の頃からいじめられていたらしい。
「でも……。私は何も悪いコトされてないから………」
「亜梨紗はいつもそればっかり!そのうち本性現すよ、賭けても良いっ」
「未来もそうおもう。まぁ、キャラチェンしようとすると誤解されやすいからね、しょうがないよ、不自然なのも」
未来も私と同じ『特に興味がない派』だ。だけど歩菜は『徹底的に嫌う派』なので、最近そのことについて対立することが多い。
「まぁ、そのことについての話はやめよう? 」
まだ何か言いたそうな歩菜を、未来が諭した。
〔ピンポーンパーンポーン〕
「放送だ」
「うるさいっ黙れっっ」
歩菜が騒いでいる男子に怒鳴った。
〔図書委員は小会議室に至急集合してください。繰り返します、図書委員は……〕
「うわ、行かなきゃ」
歩菜と未来は図書委員だ。二人とも走って行ってしまった。ぽかんとしていると、誰かに肩を叩かれた。
「ねぇ……亜梨紗ちゃん?」
「あ、那帆ちゃん」
どきっとした。話しかけてきたのはさっきの話の張本人、今木那帆だったからだ。あまり話したことがないのでちゃん付けなのは仕方ない。
「あの、ちょっと話があるんだけど」
強引に手を引っ張られる。
「え?」
「未来たちと仲いいでしょ」
「う、ん」
「そっちやめてさ、うちと組まない? 」
「は? 」
耳を疑った。組む?意味が分からない。
「ふふっ、意味不明って顔してる」
「………」
「あたしさー」
わざとらしい溜息をついて、那帆ちゃんは腕を組んだ。
「ううん、やっぱり何でもない。とにかくっ」
どこからどう見てもぶりっこな動作をして、上目遣いで私のこと見てくる。
「亜梨紗ちゃんと友達になりたいの」
「はぁ」
「どう? そうだ、じゃぁ取引しようか」
「取引? 」