そして全てが輝き始める、
ある初夏の晴れの日。北海道で初夏は、普通に寒い。みんなジャージの上にウインドブレーカーを羽織っている。
「今日は体育大会が近くなってきたので、全部の競技を試しにやってみたいと思います。」
そんな話は聞いていない。ざわめきが広がった。この学校の体育大会は6月初旬。近くなったと言っても、まだ一ヶ月以上ある。『一年生が優勝するのは、絶対不可能』と言われているのでみんなあまり興味がなかった。
「競技はー、ジャベリックスロー、女子800㍍男子1500㍍、幅跳び高跳び、混合リレーと男子・女子リレー、芋虫対決、部活対抗二人三脚です。今日やるのはー、800㍍と1500㍍だから、班体操始めてー」
がやがやと集まって、けだるいかけ声をあげながら体操をする。この寒い中で1500㍍も走らせるのか、と男子が愚痴っていた。
「超めんどくさい」
「亜梨紗は良いよねー、陸上部だし」
歩菜は溜息をつき、未来はよく分からない文句を私にぶつけた。
「いや、陸上部だから800がめちゃめちゃ早いってワケじゃないから」
「でもちょっとは違うでしょ」
「でもうち短距離だし」
「え、でも未来は絶対亜梨紗が一位だと思う!」
未来の予想に、歩菜が頷いた。
「てゆーかさ、芋虫対決って何」
未来が笑いながら言った。あまりにも先生が普通に言ったので聞き逃していたが、確かにそんな説明もしていた菜と思い出す。歩菜がお腹を抱えて爆笑した。
「誰が一番力強く美しい芋虫を育てられるでしょう!とか」
「アホでしょ」
未来が冷静にツッコミを入れる。
「じゃあ女子適当に並んでー」
「えー女子からですかぁー」
歩菜が大声で不平を言う。先生は苦笑いしながらたしなめた。
「じゃーいくよ、よーいドン!」
小学生のかけっこじゃないんだから、と思いながらも走り始めた。リズムに乗ってからだが揺れ、冷たい風が吹き抜ける。
風は冷たいが、太陽は温かい。そのうち暑くなって、上に着ていたジャージを脱ぎ捨ててしまった。気づくとトップで走っていた。振り向く気はしないが、後ろには人の気配を感じない。具合が悪くなって運ばれている人が見えた。自分に疲れはない。やっぱり、毎日走っているからだろうか。
ゴールした瞬間、どっと疲労感が押し寄せてきた。フィールドに倒れ込む。芝がくすぐったかった。先生がタイムを発表してくれる。
「亜梨紗、3分23秒!」
このタイムが早いかどうかは分からなかった。けど、クラスで一番だったという理由で、2番だった未来と一緒に私は体育大会で800㍍に出場することになった。