告別式
亜梨紗の告別式が終わった。
突然バイクではねられ、血を流しながら、苦しみながら死んでいった亜梨紗。もしかしたら死ななかったかもしれない、と医者は言った。ぶつかった場所とタイミングが悪かった、と言った。そんな言葉なんて必要なかった。後から何と言い訳しようとも、死んだという事実は変わらないのだから。
棺桶の中で、みんなにもらった花に囲まれながら、亜梨紗は泣いているように見えた。死んだ人の顔が笑って見えるという話を聞くが、亜梨紗は全然そんなことはなく、悲しい顔をしていた。
「涼太朗? 涼太朗? 」
隣にいた涼太朗が、不意に顔を上げなくなった。その理由に気づき、私は声を掛けるのをやめた。泣いているのだ。涼太朗が、泣いている。
「何で死ぬんだよっ、死ななくても良いだろ……っ」
「………」
「一緒に全道行くって約束したろ? いつもみたいに俺のことたたけよ! 馬鹿にしてみろよ! ずっと友達だっていっただろ!! 」
私は泣かなかった。というか、泣けなかった。未来も同じだ。涙1つこぼれてこない。悲しみという感情さえも感じることがない。それが逆に怖いくらいだった。私は亜梨紗が大切ではなかったのか。大切な友達ではなかったのか? 何度問いかけても、心から返事は返ってこなかった。
事故の現場を見て、精神的なケアをうけた方が良いと、カウンセラーの人とも話したが、カウンセラーの人も首をかしげるほど、私は淡々と事故の状況を話すことが出来た。
告別式には、涼太朗をはじめとする部活の友達、先輩がみんな来ていた。
私は、ある人の姿を見つけた。
「多田さん」
「なんでだろうな」
「え? 」
「長い間ずっといたわけでもないのに、なんか……」
「悲しいんですか? 」
「いや、なんか、心に穴が開いてしまったみたいでさ」
多田さんが苦笑いした。
未来は、亜美さんと話していた。亜美さんは、号泣していて、まるでどちらの親友が死んだのか分からないくらいだった。
「亜美……もっと、亜梨紗を大切にしていれば良かった」
「亜美さんは十分大切にしていたと思いますよ」
「違う! 」
そういったきり、亜美さんがしゃがみ込んで動かなくなってしまったので、未来が困っていた。その場に準希さんが来て亜美さんに声を掛ける。蒲田さんも近くに来た。
時間がたち、会場の人もまばらになっていた。クラスメイトさえも帰り始めているというのに、陸上部の人たちは帰ろうとしなかった。
なぜこの人たちはこんなにも悲しめるのだろう。こういっては怒られるかもしれないけど、私は陸上部の人たちのことが、羨ましくなった。
ふっと力が抜けた。その場にぺたりと座り込んでしまう。次の瞬間、私は大粒の涙を流していた。まるで小さな子供のように。未来がかけてくる。でも、未来も泣いてしまっていた。安心した。
私は悲しいのだ。やっぱり、亜梨紗が死んでしまって、悲しいのだ。死んでほしくなかったのだ。ずっと生きていて欲しかった。ずっと、一緒に生きていたかった。
大きな声でそんなことを叫びながら、私は泣き続けた。人数の割に大きすぎるホールに、私と未来の叫び声は響いた。
私たちは両親に連れられて、帰っていった。