やがて彼女は仲間も増えて、
「亜梨紗ぁ」
常にフレンドリーでフリーダムな陸上部が性格に合っていたのか、私はすぐにみんなと仲良くなることが出来た。
「何、」
「今日のメニュー教えて」
「いや……準希さんに聞いて」
いつも何かと話しかけてくるのは宮城涼太朗。クラスは違うけど同じ一年生だ。種目は1500㍍と100㍍を目指すという無謀なチャレンジをしているが、さすがにキツイのであきらめたらしい。今は、長距離の練習に専念している。
「準さーん」
「はいはい、メニューはねぇ、筋トレ、コアトレ、30分ジョグ、500メートルダッシュ3本」
「えぇー、面倒くさい」
「俺だって面倒くさいよ」
涼太朗の頭をワシワシと撫でてそんなことを言っている準希さんだけど、実際は全道大会に1年からずっと出場している努力家の人だ。
「亜梨紗だっ亜梨紗だっ」
「あ、亜美さん」
私を見つけて突進してきたのは村田亜美さん。すっごくキレイな人で、準希さん曰く黙っていればモテモテ、しかしテンションの起伏が激く気分屋で、陸上部の女王として君臨している。腰を痛めていて活動はしていないが、いつも顔を出してくれる。で、なぜか私を見つけると突進してくる。
「あのねー、亜美ねー、今日ねー、テストねー、69点だったー」
「何ですかその微妙な数字」
亜美さんがにこにこ笑う。話している内容は別として、やっぱりすごくキレイな人だ。
「てか始めましょーよー」
多田さんが口をとがらせて言う。相変わらず姿勢が悪い。腹筋も私の方がある。でも、毎年全道大会に出場できるほどの実力を持っている。なぜ?
「じゃあー、アップ行くよぉ」
「あーい」
緩い。いつもの事ながら緩い。先生はアップが終わらないと来ないため、こんな調子で前半が終わる。
「だぁー、もう走りたくねぇー」
本当に陸上部か、と耳を疑うような発言をしているのは蒲田光彦さん。2年生で、多田さんには劣るけどいつも大会では入賞しているらしい。
「じゃ即刻部活やめろ」
「だって俺やめたら陸上部ますます人数少なくなるじゃん?」
「まぁ……そうだけど」
そう、1年生が入る前まではこの陸上部、6人しかいなかったのだ。引退した前の三年生を含めても8人。入学式の部活紹介の紙には、「絶滅寸前の陸上部に愛の手を」とふざけではなくマジメに書いてあったくらいなのだ。で、一年生は6人入り、喜ぶかなぁと思ったら準希さんの一言。
「え、まとめんの想像以上に大変だから、こんなに人数いらない」
結局2人は塾とか習い事でたまにしか来ないし、亜美さんも走れないので、実際走っているのは9人。
どこまでもフリーダムな陸上部なのだ。