出逢ったあの日から、
「はい、自由時間です。15分後には自分の席に戻ってください」
初めての中学校登校日。結構田舎のこの町は小学校が3つしかなく、しかもすべてクラスは1つ。大体みんな幼稚園は同じで、小学校で別れ、そして、中学校で再会する。だけど私は小学校の時に札幌から引っ越してきたので、小学校時代の友達しか馴染みがなかった。
「ほら、そんな硬くならなくたって良いじゃーん」
親友の未来が話しかけて、手を握ってくれた。こっそり指を指したりしながら、他の女子は男子の品定めを始めている。男子は意識していないような振りをしながら、ちらちら女子を見ている。みんなもとは友達だから、緊張なんてほとんどしていないのだ。
1クラスしか経験していない1年生は、中学生になって初めて2クラスを体験することになる。私は5クラスもある学校から転入してきたから、逆にそれが不思議だった。というより、2クラスしかないことに違和感を感じたりもしていた。
「あ、歩菜だ」
「え、誰? 」
「んとね、私の幼稚園の時の仲良かった友達。あーゆなぁーーっ」
歩菜、と呼ばれた子が振り向いた。2つ結びにしているけど、よく見るとサイドに編み込みがしてある。器用な子だな、と思った。ちなみに私はものすごく不器用だ。今日も肩胛骨くらいまである髪を高いところで縛って、適当にまとめておだんごにしているだけ。
「マジ久だぁ、歩菜」
「だねぇ、未来」
「あのね、この子、あたしの今の親友」
「どーも、赤田出身の谷野歩菜です」
「あ、私は搭本の鹿西亜梨紗です」
ちなみに赤田、塔本というのは小学校の名前。なぜかこの町は、赤小・塔小などと縮めて呼ばず、上の名前で小学校の名前を呼ぶ。不思議だ。もう一つの中野川小も、中野川と呼ぶ。
「タメでよくない? 」
「ん、じゃ、タメで」
「うっうん、よろしく! 」
上がり気味の私を見て、歩菜はちょっと笑った。
「え? あ、ごめん、あの、私緊張しぃでさぁ……」
「違うの」
「え」
「なんかさ、画数多そうな名前だから、書くの大変だろうなぁっておもって」
「あぁ……」
鹿西亜梨紗。何度この名前を恨んだことか。小1でパスポートを作るとき、泣きながら漢字の名前を練習したのを今でも鮮明に覚えている。小学1年生、7才の子供にとっては、嫌がらせといってもいいほど、私の名前は書きにくかった。両親も幾度か私に謝っていたし。
「さすがは歩菜、凄いところからはいるね」
「いや、ただ思っただけだよ」
歩菜が恥ずかしそうに笑う。
「てゆーか、呼び捨ても良いよね? 」
歩菜が聞いた。私の心の中ではもう、勝手に呼び捨てにしているけど、私は一応答えた。
「歩菜ちゃんがいいのなら、全然私も良いよ」
「じゃあ、亜梨紗」
「何? 」
3人が手を重ねた。
「これから、よろしく。」
「時間になったので席についてください。簡単に校則の説明をします」