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Arisa  作者: 明里 ルカ
1/7

 それは突然だった。


 人の死とは、こんなに簡単に訪れるものなのだろうか。


 いや、簡単ではない、当たり前に決まっていたことが、当たり前に訪れ、当たり前に過ぎ去っていっただけなのだろう。人間は、それを突然と呼び、驚き、震え、そして忘れる。過去のことなど、もうどう でも良いのだ。そしてまた、新しい突然に驚き、震え、そして忘れる。


 亜梨紗のときとて、例外ではなかった。消えかけの命を目の当たりにし、私は怯えた。

「亜梨紗!」

 無力なのは分かっている。分かっていても、ただ指をくわえて友人の死を見ていられようか。手を握 り、声を掛ける。だんだん意識が薄れてゆく亜梨紗。

 「未来、救急車まだ来ないの!? 」

 「来ない………」

 「ちょっと、未来、あんたが倒れないでよ? 」

 未来の白い顔がさらに蒼白になっている。

 「亜梨紗ぁ、死んじゃだめだよぉ、亜梨紗ぁ」

 弱々しくも、大きい未来の声に気づいたのか、亜梨紗がうっすら目を開けた。そのとき、サイレンの音が聞こえた。遅い。普通なら早いのかもしれないが、この状況ではどう見ても遅かった。

 「…バイバイ」

 「まって、バイバイじゃない、バイバイじゃないよ、亜梨紗、救急車来たから、乗って、病院行って、 お家帰ろう!? 」

 救急車が横に止まった。状況を隊員の人から聞かれる。

 名前、年齢、住所、どうして事故にあったのか。

 答えたくなかった、亜梨紗の側にいたかった。でも私は、涙声で隊員の質問に答えていった。あっという間に亜梨紗は車の中へ運ばれ、未来も吸い込まれるように乗っていった。ぼぉっとしているあいだ  に、どうやら私は置いてきぼりにされたようだ。こんな事をしている場合ではない。いそいで、亜梨紗 の家の電話を掛ける。

 「池森ですが」

 「谷野です、 谷野歩菜ですっ! 」

 「あら、あゆちゃんどうしたの? 」

 いつもの優しいおばさんの声。

 「おばさん!? 」

 「そうだけど。どうしたの、そんなにあせって」

 「亜梨紗が…亜梨紗が、バイクにはねられたのっ 」

 「え………」

 「嘘じゃないの、本当なの、今、救急車に乗って……」

 おばさんはあわてることもなく、冷静な声で言った。

 「あゆちゃん、今どこにいるの? 」

 「あっ、あの、駅前のファミマ」

 「多分今、電話はいると思うから私はここで家族に連絡する。あゆちゃんは家に帰りなさい」

 「でも」

 「帰りなさいっ」

 「…はい」

 家まで、3分。それまでの間、私はただ、ずっと、泣いていた。下を向き、嗚咽をこらえ、ただ、泣いていた。


   中学1年生の秋の日。

 


   友を一人失った、秋の日。







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