死
それは突然だった。
人の死とは、こんなに簡単に訪れるものなのだろうか。
いや、簡単ではない、当たり前に決まっていたことが、当たり前に訪れ、当たり前に過ぎ去っていっただけなのだろう。人間は、それを突然と呼び、驚き、震え、そして忘れる。過去のことなど、もうどう でも良いのだ。そしてまた、新しい突然に驚き、震え、そして忘れる。
亜梨紗のときとて、例外ではなかった。消えかけの命を目の当たりにし、私は怯えた。
「亜梨紗!」
無力なのは分かっている。分かっていても、ただ指をくわえて友人の死を見ていられようか。手を握 り、声を掛ける。だんだん意識が薄れてゆく亜梨紗。
「未来、救急車まだ来ないの!? 」
「来ない………」
「ちょっと、未来、あんたが倒れないでよ? 」
未来の白い顔がさらに蒼白になっている。
「亜梨紗ぁ、死んじゃだめだよぉ、亜梨紗ぁ」
弱々しくも、大きい未来の声に気づいたのか、亜梨紗がうっすら目を開けた。そのとき、サイレンの音が聞こえた。遅い。普通なら早いのかもしれないが、この状況ではどう見ても遅かった。
「…バイバイ」
「まって、バイバイじゃない、バイバイじゃないよ、亜梨紗、救急車来たから、乗って、病院行って、 お家帰ろう!? 」
救急車が横に止まった。状況を隊員の人から聞かれる。
名前、年齢、住所、どうして事故にあったのか。
答えたくなかった、亜梨紗の側にいたかった。でも私は、涙声で隊員の質問に答えていった。あっという間に亜梨紗は車の中へ運ばれ、未来も吸い込まれるように乗っていった。ぼぉっとしているあいだ に、どうやら私は置いてきぼりにされたようだ。こんな事をしている場合ではない。いそいで、亜梨紗 の家の電話を掛ける。
「池森ですが」
「谷野です、 谷野歩菜ですっ! 」
「あら、あゆちゃんどうしたの? 」
いつもの優しいおばさんの声。
「おばさん!? 」
「そうだけど。どうしたの、そんなにあせって」
「亜梨紗が…亜梨紗が、バイクにはねられたのっ 」
「え………」
「嘘じゃないの、本当なの、今、救急車に乗って……」
おばさんはあわてることもなく、冷静な声で言った。
「あゆちゃん、今どこにいるの? 」
「あっ、あの、駅前のファミマ」
「多分今、電話はいると思うから私はここで家族に連絡する。あゆちゃんは家に帰りなさい」
「でも」
「帰りなさいっ」
「…はい」
家まで、3分。それまでの間、私はただ、ずっと、泣いていた。下を向き、嗚咽をこらえ、ただ、泣いていた。
中学1年生の秋の日。
友を一人失った、秋の日。