汚い文章(死神)
《頑張り過ぎ症候群》
以前、突然左腕に力が入らなくなったことがあった。
仕事から帰ってきて、手を洗おうとハンドソープをプッシュしても、力が入らなくてうまく押せない。小指を動かそうとしても、プルプル震えるだけで、うまく動かない。また、常に心臓がゾクゾクして、不安感が付き纏い、思考力が著しく低下し、仕事にも支障が出ていた。
何かの病気かと思い、病院に行き、かかりつけの医師に尋ねてみた。
すると医師は、こう答えた。
「それは、頑張り過ぎ症候群の可能性が高いです」
頑張り過ぎ症候群。初めて聞く病名だった。
詳しく聞いてみたところ、文字通り、頑張り過ぎた人がなる病気、ということらしい。自分を顧みずに他者のために頑張り過ぎると、やがて自分の幸せが分からなくなり、心と身体が乖離して、身体がうまく動かせなくなるという病気だった。
医師のカウンセリングは続く。
「最近なにか、自分の中で頑張り過ぎているな、と思うことはありますか?」
その問いに対しての答えを、私は持ち合わせていた。
「最近、職場で役職が上がりました。私の人柄を評価してくれてのことでした。私は職場で常にいい人で」
あー、もう無理。
やーめた。
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綺麗な文章を書くことができる人は、本当にすごいと思う。
私が綺麗な文章を書こうとしても、凡庸な文章にしかならず、結局このまま書き続けても納得のいく作品にはならないと思ってしまって、上記の作品のように、途中で投げ出してしまう。また、私のような者が、数多存在する偉大な小説家の真似をして、まとまったものを書こうとしても、所詮本物の作家の足元にも及ばないと思うから、だから綺麗な文章を書くことを、どうしても諦めてしまう。作家失格だ。
やはり私は異端に憧れてしまう。奇才になりたい。
AIでも書けるような文章を書きたくない。
みんなの心を抉るような文章を書くためには、普通に書いているだけではだめだ。
もっと、魂を露出したような作品を書きたい。
型にハマりたくない。
今から私は手癖全開で、作品を書こうと思う。
タイトルは
「死神」。
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《死神》
私には死神がついている。死神の呼吸音がこひゅー、こひゅーと私の首筋に触れるたび、自分が首を吊る姿であったり、ビルの屋上から飛び降りて地面に叩き付けられる光景であったり、電車に轢かれて踏切音の中で吹っ飛ぶ姿であったり、様々な死に方が脳内に希望として提示されて、私は発狂したくなってしまう。しかし一度発狂してしまうと、もう人間に戻れないような気がして、私は発狂を堪えて、身体中を駆け巡る自己嫌悪の波に耐えながら、死神が去るのをじっと待つのであった。人間の頭がトマトを潰すみたいに、パチンパチンと一つずつ壊れていく、そんな妄想をしていると、心が軽くなって、ああ、俺はやっぱりこういう人間なんだ、なんて、思ってもいないことを口にしていると、自己肯定感が下がって、死神が消える訳では無いにしろ、意識をしないことができるようになる。つまり、私が死神を意識するのは、自己肯定感が上がっている時だということだ。自分に期待をし過ぎると、死神の存在感が強くなって、お前はそんな人間じゃないんだ、と自己否定に苛まれ、やがて臨界点を超えると、鎌を振り下ろされる。最後に選ぶ死に方は、首吊りか、飛び降りか、身投げか。それとも別のものか。ただそれを選択するだけで、全てが終わる。だから、私に一生付き纏う死神は、私の安定材料でもある。自分の本質を自覚しながら生きることで、見返りを求め過ぎないように。そうやって生きていくのが私なのだ。他人に幸福を与えたい。自分の幸せを求めるな。…あれ?この作品、幸せを与えることができているか?ただただ自分の闇をつらつらと書き連ねているだけで、本当は理解して欲しいだけなのではないのか?綺麗な文章を書くことを怠って、全部言い訳して、楽して評価されようとしているだけではないのか?じゃあお前は何か努力をしているのか?自分が鬱だと、死神がついてると、勝手に思い込んで、楽な方に進もうとしているだけではないのか?本当に他人に幸福を与えたい、本当に他者の救いになりたいと思っているのであれば、もっと他にやるべきことがあるのではないのか?今お前は自分の引き出しを増やすために、他の小説を読むことすらもロクにできない。ただ言い訳し続けて、逃げ続けているだけのヘタレだろうが。死神なんて本当はいないんだよ。お前が作り出した幻想だ。お前にはもっと他にやるべきことがある筈だ。お前には信念があって、ちゃんと努力をすべきなのに、言い訳ばかりして、努力もせずに、大きいことばかり言って、なんて下らねぇ。お前はみんなを幸せにしたいんだろ。自分の幸せを諦めてまで、他人のために生きたいんだろ。じゃあ、死神とか言って、うだうだ抜かしてんじゃねぇ。もう、言い訳をするのをやめよう。強く生きようぜ。
みんなに希望を届けられる、作家になろうぜ。
はっと、我に返った瞬間、
死神は、消えて無くなっていた。
あるのは、自分の身体一つだけで、
どこか清々しい気持ちであった。




