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出会い

深い深海に沈んでいたような意識が突然陽光に照らされた様に意識が浮上した。

ぼんやりと目を開けると少年がこちらを心配そうに見ていることに気がついた。


「……ーーーー…?」


その声は恐らく意味のある言葉なのだろうが、内容はひとつも理解できない。


(言語が違う…)

けれど、声の調子と表情だけで自分を害する気などないということは分かった。

少年は自分の胸に指を当て、ゆっくりと言った。

「ーール!!!イ、オ、ル!」


外国語のリスニングをしている時のような感覚に陥るが

少年の仕草から、名前を名乗っているのだと理解できた。

そして少年、…イオルは、こちらを指さしてきた。


(もしかして私の名前を、聞いているのか?)


少し考えたが何も思い出せない。

せめて生前の名前でも思い出せれば良かったのだが生憎とあの永遠に近い孤独の時間ですっかり忘れてしまったし、

ついでにこの身体は言葉も話せないので、小さく首を横に振って分からないというのを伝えた。

イオルは驚き、それから困ったように笑った。


「ーーーーー」


またしても内容は分からないがイオルがこちらに手を差し出した。

「……ーーーー、ーー?」


意味は分からないのに、差し伸べられた手を恐る恐る手を取る。

未知への恐怖よりも、永遠のような時間を1人で過ごしてきた精神にはその手は天から降りる蜘蛛の糸のような、そんな物のように感じたのだ。


恐る恐る手を重ねると、じんわりと体温が伝わってくる。

子供特有の少し高めの体温はこの低体温気味の身体には熱いくらいだったが、その瞬間胸の奥がじわりと熱を帯びる。

ずっとこの世界に来て欲しかった物が一瞬にして与えられたようなそんな感覚に陥った。


心配そうな目、楽しそうな笑顔、そして手に伝わる体温。

イオルはこちらの手を引いて立ち上がらせるとそのまま一緒に森を歩くことになった。


どこか目的があると言うより恐らくイオルは迷子で出口を探しているのだろう、自分を連れていては出られるものも出られないと教えてあげたいところだが依然と言葉は通じないので困った。

異世界のご都合的な言語の統合的なものは無く、どこまでも現実のような世界である。


イオルは根気よく身振りと表情で伝えようとしてくれていて川の前では水を指差して笑い、綺麗な落ち葉やその辺の花を手折っては得意げに渡してくる。

返事の仕方もわからず、差し出されれば受け取って時々頷いた。

それだけでイオルは嬉しそうに笑う。


(……人と触れ合うって…こんなに……)


忘れてしまった温かさが、胸の奥で小さく息を吹き返してくるのを感じる。



川で水遊びをするイオルを眺め、

ふかふかの芝生のような青い草の上で昼寝をして、

夕方にだけ咲く不思議な花畑で一緒に遊んで。


気がつけば、日も暮れ始めていた。

森の外から大きな声が響いた。


「イオルーー!!」


どうやら森の外で誰かがイオルを呼んでいるようだった。

当の本人はびくりと肩を揺らし、こちらを見た。

イオルは手振りで自分を指し、森の外を指し、またこちらを指差す。


「ーー、ーーーーー!!」


その全ては音として理解できないがきっと一緒に行こうと言っているのだろうと予測できた。

首を左右に振って繋いでいた手を離した。


「ーーーー!」


きっと自分が一緒では森は抜けられない、花冠をイオルの頭に乗せて、そのまま声が聞こえた方角の小道へ背中を押して手を振った。

「ーーーーー、ーーー」

イオルは少し不満げにしながらも森の外へ駆けていく。

帰ることは出来ただろうか、と思って耳を澄ませるとどこからか女性の怒声とイオルの声が聞こえ安堵する。

(出れたんだ、よかった。……いいなぁ…)

やはりこの森は自分を意図的に出さない様にしている。

初めは村を守る為や子孫を残すためと思っていたがここまで慎重に隠す理由なんてあるのだろうか。

浮かんできた疑問を解決することは出来ず、その日は村へ帰ることに決め、歩き出した。

村へ帰るのは簡単なのだ、ただ帰りたいとかそう思ったら道は最短の距離で進ませてくれる。

閉じ込められる不安も若干…いや大いにあるが何となく村を覆っていた膜の術者はとうの昔に死んでいて、あの時に込められた魔力とかが、切れたというのはわかっている。


恐らくもうこの村を隠す魔法を張れる人物が居ないんだろう。



(……ただいま)

とりあえず目覚めた時と同じ家に帰ってみた。

ここに来るのは何気に村を飛び出したあの日以来のことなのだがホコリが溜まってないことに気づく。

(なんか綺麗になる魔法とかあるのかなぁ)

じーっと眺めて見たが何も分からず、家の中はもうしっかり前回、何十年も確認したので得るものもないので今夜は久々にベッドで眠る事にした。

(お布団ふかふかだ…)



目を開けた瞬間、これは夢だと気づいた。

この身体の主の記憶だった。

同じような金糸を束ねたような髪に薄い緑の瞳の男女は、穏やかに笑っていた。

言葉もちゃんとわかった、やはりイオルの話していた言葉とは全く違う言葉の様だったのと、2人は両親でこの村にはやはり自分の他には子供はおらず大人ばかりの様子だった。

村にも沢山のエルフがいた、色んなことがわかった。


そして景色は瞬く間に過ぎ去る。

泣いてる両親とフードで顔が見えない男がこちらに何かを呟いていた。


意識が目覚めそうなのか、

段々と彼らが何を話しているのか分からない。

(嫌だ、嫌だ、まだ…眠りたくない)

それでも最後に聞こえた言葉があった。

「おやすみ、…ルーリャ」

あの男のその言葉だけがやたら耳に残った。

ここまで読んでくれてありがとうございます- ̫ -


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