獣王国:ガルネード
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風に巻上げられて肌に当たる砂が焼けるように熱く、ガルネードの空気はいつ来ても砂を含んで重たい。
まるで侵入者を拒むように立ち込める砂嵐のなかに隔絶されたような風のない場所には異様なほどに全身が黒い衣服に身を包んだ集団は足元に転がる人間を踏みつけながら辺りを見渡していた。
「……また人間共か」
その集団の先頭に立つ隻眼の男…スロウは、頬に付いた血を拭うことなく呟いた。
視線の先では、拘束を解かれた獣人の子どもが震えている。
膝が汚れることも厭わずスロウは膝をつき子どもたちの涙を拭い、微笑みかける。
「………大丈夫だ、もうここから先は誰も奪わせねぇさ」
子どもが震える指でスロウの袖をそっと掴むと、彼の表情はわずかに険しく歪む。
魔王軍が来たからな、そう微笑み後ろに続く部下へ子供を託しスロウは歩く。
立ち上がった彼の表情は奪う者への徹底した殺意だった。
大地の空気を変える漆黒の軍服を身にまとう彼らは、味方であれば誰もが勝利を確信し、敵であればそれは生還の可能性が1%すらないと絶望する、無敗の魔王軍・第一軍である。
「スロウ様、人間の勢力は凡そ二万五千です」
「そうか……一人残さず、なるべく痛みを与えて殺せ」
その指示を合図に後ろへ続いていた戦闘員は各々が得意とする立ち位置へ移動し行動を開始する、残った一部たちは倒れたガルネードの民を保護していった。
すべての準備が整うと同時に戦争が始まる。
いや、阿鼻叫喚の戦場にあるのは一方的な鏖殺だった。
金銭をちらつかせ我が身を守ろとする浅ましい者、
仲間を盾にし生き残ろうとする者、
家族をネタに同情を買おうとする者、
自国を売ろうとする者、様々な人間の醜さに目を見張る物がある。
「殺しても殺しても湧いてくる、蛆虫共が」
スロウの低く漏れた呟きを聞いたのは、
あと数秒後には肉塊になる者たちだけだった。
戦争の為に規律正しく鍛え上げられた、魔王軍と獣人を嬲り殺す為だけだと浮ついた人間の兵士との戦いなど、結果は火を見るより明らかだろう。
逃げ惑う悲鳴は風に溶けて砂に呑まれていった。
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「……被害は最小限、負傷者数名、人間は一匹残らず殺しました。ガルネードは今後中立国からアトラ帝国の属国となる事を検討したいとの事です」
スロウは片膝を付き目の前の男、レグナードへ報告する。
「そうか。…よくやった」
レグナードは気怠げに瞼をあげ此方を捉えてその一言だけ零す。
「…ご期待に答えた迄です」
その一言は、スロウにとって己の存在を肯定されるに等しい誉れだった。
スロウはそのまま立ち上がり、マントを揺らして立ち去る。
カツカツ、とブーツの底を鳴らしながら廊下を歩き、ふと足を止め中庭を眺めた。
視線の先には森で眠り続けたエルフの子ども、アンテルはハイエルフだと言っていたがスロウにはよくわからない。
レグナードといい、アンテルといい、色が違う程度の違いしか分からなかった。
「………」
留守中にル―リャは随分と己の部下であるダリアと仲良くなったらしく、感情の起伏が緩やかな印象だったが今はコロコロと顔を変えており、年相応な印象だった。
親子のように見えるその姿に、スロウはその光景に目を細めた。
脳裏に過った思い出を押し込めるように小さくため息をこぼし、タバコに火を付ける。
光の子、という言葉を表現したほうな光を束ねた金の髪に春の若草のような優しい翠の瞳。
もっと表情が豊かだったが顔の造形はまるで瓜二つだった。
もし生まれ変わりがあるとル―リャが言うならば、自分は迷わず信じてしまうのだろう。
(あの子だけは…)
「お帰りなさいませ、スロウ様」
そこでこちらに気づいたダリアに声をかけられる。
「…ああ」
「ご無事で何よりです、スロウ様もこちらでお休みになられませんかぁ?」
ダリアは艷やかに笑い日向に誘う。
スロウはそのまま中庭へ足を踏み入れる。
こちらを見つけたル―リャは淡く微笑み手を伸ばしてきた。
その意図を察したスロウは付けたばかりのタバコの火を消し、抱えるとふわりと香る花の香りにまた懐かしさを感じつつ会話を投げかける。
「俺が留守の間、随分ダリアと仲良くなってるな」
指通りの良い髪を撫でながら聞くとルーリャは笑みを浮かべつつ頷く。
「そうだ、スロウ魔法教えてほしいんだ」
ダメかな、と此方を見上げるルーリャにスロウは頭を小突く。
「弱点をみすみす教える気はねぇぞ」
もっと強くなったらな、そう答えるとルーリャは不服げに頬をふくらませるのだった。
次回更新は明日23時予定…予定




