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レグナードはじっとこちらの目を見据えたまま、指先に力を込めそのまま首を掴み上げた。

身体は宙を引き上げられる。

足が地面から離れ、思わずレグナードの手を掴むがびくともせず、指先に力が篭っていく一方だった。


こちらを見つめる瞳にはなんの感情も宿っておらず、ただ射抜いているだけだった。

レグナードと目があったのがこんな状況じゃなければ見惚れただろう美貌だったが…どこかで見たような、と妙な違和感を感じる。

「…よく死なずに生きていたものだな」

そう独り言を呟くように言うと唐突に手を離した。

支えを失った身体は床へと落ち、そのまま崩れ落ちる。

急激に酸素が肺に流入する息苦しさに、身を捩りながらこの身体も酸欠とかあるんだな、なんて人ごとのような感想も抱いた。

「祖先の忘れ形見、ル―リャ。お前は何のために目覚めた?」

その様子をレグナードは興味も無さげに気怠げに見下ろしたあと、興味が尽きたかのように踵を返して座っていた玉座へ戻っていた。

「魔法も記憶も持たないくせに、滅びの種族が」

なぜ、今更そう零ぼした。

嫌悪と嘲笑の交じるその言葉を聞きながら、呼吸を整えようと頑張っていたが何故か一向に良くならずそのまま意識が途切れた。


最後までアンテルの焦る声だけが耳に残っていた。



次に目を開けるとさっきまで寝ていたベッドにいた。

アンテルが運んでくれたのだろう。

(あの声…どこかで聞いたような)

何故この身体はレグナードを知っているのだろうか。

血の繋がりはないのは一目瞭然、なのだがおそらくは会ったことがあるのだろう、と漠然としたその確信だけはあるが記憶は何一つないのでいつか思い出せることを願うしかない。

(…それにしても、知らないうちに結構疲れてたのかな)

目覚めてからなんとなく身体が軽く感じるのだ。

視界も良好、前までは薄らとしか見えなかった魔力の流れまで見える。

魔法は残念ながらほとんど使えないが、見えるものは見える。


疑問に思いながら枕元の呼び鈴を手に取る。

アンテルは声が出えないと知るやこのベルを枕元においてくれた。気を失う前にレグナードはル―リャとこちらを呼んだ。

やはり、この身体は一度会っているようだった。

あの村に来たことがある可能性はあるだあろうか、と首をひねっていると控えめなノックが部屋に響いた。

「…お目覚めになりましたでしょうか…」

こそっと声を潜めながら隙間から覗くアンテルがいた。

《おはよう》

「お、お目覚めですかっ!!!」

ブワッと目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。

失礼いたします、と言いながら身体を触診していくアンテルをくすぐったく思いながら、彼に身を任せているとアンテルは「ん?」と小さく声を上げる。

何があったのかとアンテルを見上げるとアンテルは顔を紅潮させて答える。

「さっきまで閉じていた、魔力の回路が綺麗に開通しています!

魔王様との接触がきっかけだったのでしょうか?

…他に体調のおかしいところはございませんか?」

《多分?》


立ち上がってその場で身体を伸ばしたりしてみてもやはり、軽くなった以外の変化は感じられなかった。

アンテルはその後ひとしきり身体の確認をしたあと下がっていった。



そんな出来事の翌日。

アンテルがいないので一人で魔王城の中を散策してみることにした。

森にはまだ帰れない、とアンテルから言われたのでこの機会にこの世界を見に行きたいと思っている。

出来れば森には帰りたくはない、また出られなくなっては困る。

(そういえば、魔王はどうして森に入って私を連れて出られたんだろう)

聞いても答えてくれなさそうだし、会ってもくれなさそうだと思いながら薄く光が差し込む長い石造りの廊下を歩いていたが、違和感を感じて振り返る。

「…ほぉ、よく気づいたな。あぁ…喋れないんだったか?

俺はスロウ、魔王様とはそこそこ長い付き合いかもな」

こちらに名乗りながらそばに来た大柄な男、スロウは目線を合わせるように膝をついてた。

顔をじっと眺めたあと、何処か遠くを見ているような瞳で頭を撫でてくる。

「……」

懐かしむようなその手つきに膝をついてもまだ少し目線の高いスロウを戸惑いながら見た。

年齢は四十代くらいに見える。

白髪交じりの黒髪を弛く束ね、片目は眼帯で覆われている。

悲しみの混じるような、その目線になんとも言えない気持ちで視線を足元へ落とす。


「……こんな城歩いたって子供にはつまらんだろう」

おいでと言ったスロウはそのまま返事も聞かず、身体を抱えて歩き出した。

もう抱っこは人間だった頃に卒業済なのでやたらと恥ずかしいが、スロウに抱えられてから景色の流れる速度が明らかに変わったので大人しく連れて行かれることにする。


何処かへ向かう間、数名の魔族とすれ違ったが皆スロウを見て頭を下げていた。

(…どこへ行くつもりなんだろう、アンテルに何も言ってないのに)

アンテルはとても心配性だ、よっぽどハイエルフという種族がアンテルにとっては大事なのだろう。



そんなことを考えていたらいつの間にか魔王城の外に出ていた。


魔王城のすぐ下というと毒の沼地とかあったりして禍々しいものを想像していたが、それは裏切られる。

意外にも綺麗に整備された街並みや色んな者が歩いていた。

店も沢山あり、どれもそれなりに栄えている印象を受ける。

皆珍しそうにこちらを奇異の目で見ていて、居心地の悪さを感じる。


いろんな種族の行き交う街を歩いて一軒の仕立て屋の前でスロウは立ち止まった。

「…さぁ行儀よくしてろよ」

また頭を軽く撫でたあと、ドアを開けて中に入る。


中は外見から分かる通りに、服屋、この世界の紙幣価値は分からくとも高いお店というのは分かった。


「この子に、適当にズボンとシャツ…それとフードの付いたローブを見繕ってくれ」

そう言ってスロウは店員にお金を渡していた。

「そんな格好だと孤児に見えるからな、ささやかな贈り物だよ」

そう言って採寸をされ、手早く用意された服を試着室で着換える。

肌触りのいい白いシャツに少しハイウエストのスラックス、靴もいつの間にか用意されていてスロウにフルコーディネートされたものを身に着けた。

「いい感じになったな」

それじゃ行くぞ、と言ってまた抱えあげてフードもきっちり被らされてそのまま街を歩いた。


スロウはゆっくりと街を案内してくれた。

何故こんなに良くしてくれるのかと思ったが聞くこともできないので純粋に楽しむことにした。


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