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四持の笑顔が張り付くとき ファミレスで

毒親ゲームの直前の一年間くらい、妹はお多福のように一時間くらい笑顔が顔に張り付いて剝がれなくなることがよくあった。そういう時は家族全員で居間にいる時とか、父がお菓子の袋を音を立てて振ったり手を叩いたりして四持の気を引こうとしたりした後とかだった。母が、

「この子のお尻は結構しっかりしてるのよー」

 と、四持の腕を掴んでスカートをまくって外で近所の人が大勢いる路上でパンツをあらわにした後だった。

 アニメが終了して、智と四持はほとんど同時にカーテンを全て開けた掃き出し窓の外を見遣った。落ち着き払った柔らかで涼しい白い光が、二人の心を梳いてくれた。

 コンクリート塀の上の青空を見ると、お腹が空いていることに気が付いた。

 背後から職員が声を掛けてくれた。

「そろそろ十二時ですけれど、何か作りましょうか?」

「いえ、外に食べに行きます」

「じゃあ、昼食代を支給できます」

 職員はウエストポーチから紺色のがま口財布を出して、ぱきっと音を立てて開けるとお札を何枚か出した。こっちに近付いて屈んで、座ったままの智に三千円を手渡した。

「……ありがとうございます」

「お釣りは返してくださいね。二人分でいいですよね?」

「はい。ありがとうございます……」

 部屋に自分の財布を取りにいって、黒い財布に貰った三千円をしまう。階下に下りると、四持が自然と手を繋いできた。

「行ってきます」

 職員に声を掛けて、一旦手を離してシューズを履いた。通勤にも使っている黒いシューズ。あまり吟味しないで選んだものだから、少しサイズが小さくて窮屈で足の甲が痛い。

「行ってらっしゃい」

 四持が白いペンキを塗った木製の下駄箱に何か探している。子供用のミュールを引っ張り出してきた。

「四持、それ履くと痛いって言ってたろ。しかも今春だし。それじゃあ寒いよ」

「いいの。痛くて」

 四持は意地になったように俯いて、それを三和土に揃えて置いた。するすると、せっせと足にそれを装着していく。

 桃色で、しかも桃の飾りがついたミュールは、あんまり四持に似合わない。

 まだ寝不足の智は首の後ろあたりに頭痛がして、首を回したり傾けたりした。

「行こ」

 手を繋いで来た四持と並んで、玄関の黒い金属製の扉から出ていった。

 田舎らしさを失った田舎、つまりショッピングセンターやコンビニやファミレスは取り敢えず散在する変哲の無い田舎のアスファルトを歩いていく。

「何食べたい?」

 手と手で繋がった先の四持に聞くと、

「和食」

 と返ってきた。

「うどん屋とファミレスどっちにする?」

「ファミレスで定食頼むから、量が多かったら兄ちゃん少し食べてよ」

「いいよ。僕も……、なんかお腹空いたな。天丼定食にしてやろ」

「じゃあ、私はさっしみー」

「ばーか。刺身はファミレスよりスーパーの方がまだ美味いんだよ。あれ、解凍だから」

「知ってるー。やっぱロコモコ丼にする」

「目玉焼きハンバーグじゃねーか。あんなもん」

「私もそう思う。じゃあ小鉢定食で」

「ああ。それ美味いよな」

 僕が女なら、こういう類の場所に住んでいると、何故かなんとなく、都会か外国から来たハクバノ王子サマを根拠も無く、そして自信もなくきっと期待する。

 僕は、今は、これ以上望んでいない。ただ穏やかに、十二分ではないが、腹八分に満ち足りている。

「四持は大学行けよ」

「行くよ。成績いいもん。でも、祖母ちゃんがお金出してくれるの?」

「一人分の学費なら、多分父さんと母さんの財産でも足りるよ」

 僕の貯金も使える。

「あの家は売って、祖母ちゃんのところに行くことになってるから。二人とも」

「祖母ちゃん、何も言わなかったね」

「法律で余計なこと言っちゃいけないことになってるんだ」

「このゲームした人は、みんな祖母ちゃんとか祖父ちゃんのところに行くの?」

「祖母ちゃんとか祖父ちゃんがいなければ、もしくは祖母ちゃんとかが面倒見られないって言ったら、児童養護施設とかに行く。他の親戚は基本的には選択肢から避けられる。僕も最初は養護施設でいいって言ったんだけどね。最近の養護施設、規模でかくて、何の問題もなくて結構快適みたいだって聞くし。って言うか、私立でなければ大学の学費って貧乏でも結構何とかなるらしいよ。最近は」

「私立じゃなければ何?」

「国立か公立。あんまり成績良くないと入れてもらえないよ」

「なら勉強がんばるぅ」

 四持が顎をピーズサインで挟んでこっちに向かって上目遣いをして、あんまり似合わない悪趣味なふざけ方をした。

「わざとやってるだろ」

 智は四持の手を強く握って、軽く振ってみた。


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