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親ほど無責任が許された生き物はいない

智が二人の飴とドーナツの袋のごみをゴミ箱に捨てた。

「四持。下行ってテレビ見よ」

 自室から出て階下に下りた。手持ち無沙汰で台所のコンロをやたらにせっせと磨いている市役所の職員が、居間に下りて来た二人の方を振り向いた。

「お疲れ様です」

 三十代くらいのショートカットの女性の職員がそう言ってくれたので、智は軽く会釈して返した。

 毒親ゲームはなるべく一日で終わらせてほしいと言われている。確かにゲーム執行者が若い人間や子供ならば、形だけでもそばにいる係を付けるので、速やかに終わらせないと人の手が回りきらないのかもしれない。

 智は毒親認定と共に毒親ゲームを今年の二月に申し込んだ。四持にもはっきりと確認して、何が起こり得るかをかいつまんで説明した。そのうえで、四持は書面にサインをした。

 四持のサインは必要不可欠ではなかった。しかしあった方が申告は通りやすかっただろう。

「コーヒー淹れましょうか?」

 畳敷きの部屋のテレビの前に座った二人の背中に向かって職員が尋ねてきた。

「はい」

 智は答えた。

「四持ちゃんは、ミルクティーにでもする?」

「あの、冷蔵庫のアイスティーでいいです。自分でやります」

 四持が、座って畳んでいたスカートから伸びる細い足をほどいて立ち上がった。それを横目に見ながら智はテレビのスイッチを入れた。

 流石に内容が頭に入ってこないかと思われたが、録画した最近見始めたアニメを入れると普通に楽しめた。このアニメの敵キャラのフィギュアとアクリルスタンドを部屋に並べたいと思った。あそこに置いてある狸は庭に新聞紙を敷いて、その上で砕いて捨てよう。汚い写真立ても写真も燃えるゴミに。いっそ本棚をもっとこざっぱりとしたラックに取り換えよう。

 色は……いっそ緑のラックに。

 どうして今までやらなかったのかと考えたら、そう云えば高校二年の時に部屋の模様替えをしようと思い立ち、母に粗大ゴミの出し方を知りたいからごみの分別表を貸してくれと頼んだ際に、「家具が大きくなると、収納が増えると、物が増えてまたお金がかかるから止めなさい」とびっくりするほど頑固に拒否されたことを思い出した。

「僕の部屋だから」

 と言うと、「じゃあ知らない」と言われた。

「責任を取る」という名目で一切責任を取らなくていいのが、親の特権だ。実際、どっかに監禁されて拘束されているであろう母は、そのことも色んなことも忘れている。

 親ほど無責任が許された生き物はいない。

 これを言うと智が中学生くらいの時までは「親は心配だからそう構うのよ」「親は大変なのよ」などと諭されたが、最近はそうでもない。

自分の歳数が多くなったということよりも、ご時勢のせいだろう。

大体、大変云々ならば子供が親と同じ分量の感情や感覚を備えていないと思い込むことができるというのも自分勝手な話だ。

確かに自分はオスどころかヒトでもなかった。

四持の性格ならば、この家庭で育ち続ければ、怒りを抱いて少しは荒れたり不良になったりしたかもしれなかった。

礼を言ってテーブルに置いてもらった、きれいなティーカップのコーヒーに口を付ける。

職場で缶コーヒーしかほとんど飲んだことがなかったから美味しい。

「四持、飲んでみる?」

 四持がコーヒーのカップを受け取って、そっと口を付けた。舌をペロッと出して、

「苦っ」

 と、カップを智に返した。

「大人はこれがうまいんだよー」

 おどける智に、四持は「大した大人じゃないくせに。お父さんみたいになるよ」とアイスティーのグラスの底をストローでずずずと啜った。

「お前は大した大人になるよ」

 智はコーヒーを飲み切った。


子供を持つ親の皆さん、大変失礼しております。

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